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幼いセバスチャンの想い

遅れてすみません。

池上彰さんの本が面白かったんだもーん(泣)

『なんだの。セバスチャンとカッパの呪いを解いて欲しいのなら最初から言えばよかったの』


 ご機嫌が直った邪神さまは、簡単にそんなことを言った。もとはと言えばセバスチャンさんとカアたんがいけないんだけど、でも事態が事態だから気にしないことにする。


「お願いできますか?」

『うーむ、少し難しいのぉ。カッパのほうはどうにかなるとして、問題はセバスチャンだの』

「どんな問題があるんですか?」

『セバスチャンは人間だの? つまり呪いに対する抵抗力が非常に低いんだの。まあ、あやつの子孫ということもあって死ぬことはなかったようだがの』


 うーん、そんなに難しいのかぁー。そういえば前からみんなに〈偉大なる勇者の孫〉ってセバスチャンさんは言われているよね? それってどういうことなんだろ?


『まあ、わしが水に流してやると考えているんだの。カッパのほうは明日にでも元に戻っているだろうの。だが、セバスチャンのほうはわからん。下手をすれば死ぬまで子供かもしれんのぉ』


 それはとーっても困る。リフィルさん達もどうにかしたいって考えているし、それにあの感じだと仕事は進まないし。

 うーん、どうにかすぐに戻す方法はないのかなぁー?


『まあ、こういう時の決まりはあるにはあるがのぉ』

「え? すぐに戻せる方法はあるんですか?」

『あるにはある。だが、主らにあるのかのぉ? しかもセバスチャンは子供に戻ってしまったというし』

「教えてください。私、頑張ってどうにかしますから!」


 邪神さまは二本のタコ足を組んで唸りながら考える。そんな邪神さまをジッと見つめる。するとちょっと困った顔をしながら解呪する方法を教えてくれたんだ。


『簡単だの。真実の愛を持って口づけを交わせばいいだけだの』

「はい?」


 えっと、つまり私はセバスチャンさんとキスをすればいいってことなのかな? なーんだ。それなら何回もやっているし、問題ないかな。


『これこれ。聞いてなかったのかの? その口づけは〈真実の愛〉がなければいけないんだのぉ。つまり、一方的に想ってはいてはダメ。邪な愛でもダメということだの』

「……えっと、それってセバスチャンさんと私は本当に愛し合っていないといけないってことですか?」

『そういうことだの』


 あ、愛し合う?

 え? それって互いに好きって状態じゃないといけないってこと?

 そ、そんなぁー。元のセバスチャンさんがどう思っているのかもわからないのに、ああなったセバスチャンさんが私のことを愛しているなんて考えられないよ。


『まあ、キスをすること自体難しいだろうのぉ。あいつは今、思春期真っ盛りのガキに戻ってしまったしの』


 聞いただけで絶望が半端ないんですけど。こんな状態じゃあセバスチャンを元に戻せないよぉー


『善処はしよう。じゃが、時間がかかることは覚悟してくれの』

「はぁ……。ありがとうございます」


 せっかく邪神さまの機嫌を直したのに、これじゃあ意味がない。このままセバスチャンさんが戻らなかったらどうしよう?

 それにいつヴァルガンさんが攻めてくるかわからないし、早くどうにかしないと。


『落ち込むな。っと言っても気休めでしかないのぉ。ひとまず主は主で戦いに備えておくんだの』


 私はそんな言葉を受けて部屋へと出た。真っ暗な未来しか見えない。このままじゃあどうしようもないよぉー


「ぜぇ、ぜぇ」


 頭を抱えて歩いていると、メイちゃんが廊下の奥から走ってきた。とても疲れている様子だけど、もしかして今までリフィルさんを追いかけていたのかな?


「お母さん! あのメイドさんを見なかった!?」

「見てないけど。あ、でももうやる必要は――」

「くぅー、一体どこに逃げたのよぉー! 絶対に見つけ出してやるんだからぁー!」


 メイちゃんはトタトタと走っていく。あの感じだと、当初の目的は忘れちゃっているかも。

 それにしても、真実の愛か。それがないと呪いが解けないだなんて、どこのおとぎ話なのかなぁー? まあ、私が王子様に助けられることはないだろうし、そんなこと考える必要はないかな?


「あ、見つけたぞ!」


 聞き覚えのある声が耳に入る。目を向けるとそこには木刀を持ったセバスチャンさんが書けてきたんだ。


「覚悟しろ、魔王! このセバスチャンが成敗してくれる!」


 何だろう、この感じ。いつものセバスチャンさんと違って、どこか微笑ましいなぁー


「何笑っているんだよ?」

「なんだか似合わないなぁって思って」

「うるさい! 俺はこれでも偉大なる勇者の孫なんだぞ!」


 セバスチャンさんは恥ずかしそうな顔をして怒っていた。その姿はなんだか新鮮で、ついクスリと笑ってしまう。


「ふん。まあいいや。こんな魔王を倒したって英雄なんかになれないし」

「英雄? そんなものになってどうするの?」

「決まっている。俺がじいちゃんと同じくらいすごい勇者だってことを証明するためだ。そうすれば誰も俺のことをバカにしないし、すごい奴だって見てくれる!」


 目を輝かせながらセバスチャンさんは語った。ホント、男の子だなぁーって思う。

 でも、英雄になることってそんなに大切なのかな?


「ねぇ、もし英雄になったら何をするの?」

「え? えっと、そうだなー。特に決めてない!」

「…………」

「なぁ、なんでそんなことを聞くんだ? お前、魔王だろ?」


 魔王。確かに私は英雄なんてものになれないと思う。

 だけど、何だろう。このセバスチャンさんを見ているとどこか呆れる。


「たぶん、そんなことじゃ英雄にはなれないと思うよ」

「はぁ? なんでだよ!?」

「君は、自分以外のことを考えてことがある?」


 セバスチャンさんは私の問いかけに対して、押し黙った。

 踏み込んではいけないことを、私は聞いていると思う。だけど、我慢ができなかった。


「おじいさんはみんなのことを考えていたから偉大な勇者って言われていたんじゃないかな? それに、自分のことばかり考えていたら誰も相手をしてくれなくなるよ? 私の知っている人はいつも――」

「うるさい! 魔王が知ったようなことを言うな!」


 こんなに感情を剥き出しのセバスチャンさんは、初めて見たかもしれない。

 そう思えるほどの叫び声だった。


「だったらなんでじいちゃんは魔王の配下になったんだよ! 世界の敵だぞ? 倒さなきゃならない奴だぞ? なのに、どうしてだよ。どうしてじいちゃんも俺も、腰抜けなんて言われなくちゃいけないんだよ!」


 私は何も口にできなかった。それだけにこの感情の塊は、受け止めきれなかったんだ。


「もういい。じいちゃんも魔王も、大っ嫌いだ」


 セバスチャンさんは拗ねたように言葉を吐いてどこかへと去っていった。私は、そんな背中につい手を伸ばしてしまう。でも、呼び止めることはできなかった。

 私は、それをどこか後悔していた。でもそこに立ち尽くすだけでどうすることもできなかったんだ。


セバスチャンを戻す方法を知ったマオちゃん。

だけどいろいろと問題がありそうだ。


次回は明日午前7時に更新予定です。

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