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志真と秘密の面会騒ぎ 4

 自分と同じ境遇の相手。

 会えたらもっとこう何かあると思ったが、普通だ。感激とか、感動?は違うか。とにかくこう同じ不運な目にあった同士として、苦労を分かち合ったり、慰めあったり、盛り上がれるんじゃないかと想像していた。

 しかし現実は、ごくあっさり、ちょっと余所余所しい感じの空気が流れている。


 何って言うか、とっつきにくい。


 陽に当たって無さそうな肌は、志真よりも白い。腕やら足やら、骨か!ってほど細くて、これもまた志真よりも……、この人絶対インドアタイプだ、と志真は確信した。運動とか苦手で、でも、頭は良さそうな感じ。年上だけど、あんまり頼りには出来なさそう。

 仲良くなれる自信は、はっきり言って無い。


「で」


 何と切り出して言いか迷っていたところに、伊吹が声をかけた。

「ここで何しているんだ」

「何かリザレットさんに閉じ込められて……っていうか、こんな事してる場合じゃなかった!」

 衝撃の出会いでうっかりするべき事を忘れていた。ここへ来たのは、そもそもモクに会うためで、今のリザレットがいない上に外に出られたこの状態は、物凄いチャンスといえる。

「出してくれて、ありがとう。えっと、伊吹さん、私ちょっと急いでるから、また今度!元気になってよかったね!じゃあね!」

 警報音が鳴り響く中、志真は伊吹に別れを言って、トイレから外へ飛び出した。幸い、職員の影は無い。何かがあって、そっちへ集まっているのかも。もしかしたらこれは、職員を集める為のものなのかもしれなかった。


 ありがとう!警報音!


 確か、出て右の端に階段があったはず。

「おい、ちょっと待て!」

 走る志真の後を、伊吹が追ってくる。待て、と言われても止まれない。走りながら、顔だけ少し後ろへ向けた。

「何?急いでるんだけど!」

「どこへ、行く気だ!そして目的、は」

 少し走っただけなのに、伊吹はもう息を切らしていた。やっぱり、見た目通り体力は無いらしい。放っておいてくれれば良いのに。

「伊吹さんに関係ないと思うけど」

「ある、だろ!お前が何か、したら、俺まで巻き込まれる」

「何で」

「同じ日本人、だろ。印象っ、悪くするな……、トイレから、出したのも俺だし」

 階段を上るところで、伊吹は一層顔色を無くした。一歩、一歩、確実に離れていく。

「もしかして、どこか悪い?」

 言って思い出した。まだ怪我が治りきっていないのかもしれない。心配になったが、だからと言って止まれない。どうしても、モクのところへ行きたかった。

「ごめん、行くね。伊吹さんは無理しないで休んでた方がいいよ。後でちゃんと、伊吹さんが止めようとしたってことは、言っておくからさ」

 待て、とかなにやら言っている伊吹の声を振り切って、志真は一段とスピードを上げた。

 3階、廊下。一応覗いてみるが、やはり人の姿は見えない。ちょっと、何かおかしくないか。上手く行き過ぎているような。違和感を感じたが、志真はそのまま進むことに決めた。

 3階に来るのは初めてだ。何となく、暗い雰囲気。多分窓が小さいせいだろう。志真はできる限り足音を抑えて、奥へと向う。ドアを通り過ぎる度に、そこから人が出てくるんじゃないかと、不安で心臓が破れそうだった。

 立ち塞がる壁にたどり着いた時には、嬉しさのあまり飛び跳ねそうになったが。


「え、でもドアとか無いんだけど!」


 場所を間違えた?

 志真は青くなった。どんなに注意して見ても、ぺたぺた壁に手をつけて探っても、それはただの灰色の壁にしかみえない。入り口らしきところなんて、どこにも。

「……おい」

「うひょあえ!」

 志真は悲鳴を上げて飛び上がった。振り向けば、伊吹の唖然とした顔が見えた。

「脅かさないでよ!」

「こっちの台詞だ。何だ今の……悲鳴か?女の、っていうより、人間の口から出たとは思えない声だったぞ」

「余計なお世話!」

 吃驚したのだから仕方無い。志真が顔を赤くするのを、伊吹は冷めた目で見た。

「お前、ここで何する気だ」

「だから、別にあんたに関係ない事だってば!あっち行ってよ!」

「お前、頭悪いだろ」

「なっ!」

「あ?」


 音が止んだ。

 鳴り響いていた警報音が切れ、同時に廊下を照らしていた明かりも消えた。昼間だから、真っ暗にはならないが、薄暗い。

「何、どうなったの」

「俺に聞くな」

 頼りにならないなー、と不満に思いつつ、志真は辺りを見渡した。

「あ!」

「何だ?」

「通路が」

 先程まであった壁が消えている。こちらよりも更に暗い通路が、ずっと奥まで続いていた。

「……なんだここ」

 伊吹が不審げに呟き、後ずさった。志真は、恐る恐る中へと足を踏み入れる。

「おい、不用意に動くなよ」

 その声は、志真の耳には入らなかった。

 3階のこの場所に、通路がある。モクがいるのはこの先だ。そう思うと、怖さを忘れられる気がした。行こう。志真は迷いを捨てて歩き出した。

「おい!」

 伊吹の呼ぶ声が遠くなる。


 廊下。左手側に、小さな窓が並び、右手側にドアが並んでいる。この部屋のどこかにモクがいるのだろうか。

「………どこにいるんだろ」

 それさえも知らない。

 何とかなるような気がしていたが、実際来てみると大変な事に思えてくる。部屋にネームプレートでもついていれば良いのに。

 一つ一つノックして確かめていくしか無いようだ。中にどんな人がいるか分からないから、怖いけど。もう警報音は止んでいる。いつリザレットが探しに来てしまうかも分からない。迷っている暇は無かった。

 意を決して、ドアの一つに歩み寄り、思い切って叩こうとした。上げた手を、誰かに後ろから掴まれる。

 誰かっていうか、伊吹だ。

「お前、何しようとしてるんだ」

 妙に焦ったような、何かに怯えたような小声と早口だった。きょろきょろと、注意に視線を送っている。その様子はただ事ではなくて、不安が志真にも伝播する。

「何って、ただ友達に会いに来ただけだって」

「友達?」

「モクっていうの。ちょっと色々あって施設に戻されちゃってさ。……ほぼ、私のせいなんだけど」

「ここに?」

「いるって聞いた。一度問題を起こした異世界人は、こっちの部屋で隔離されて、いつ出られるか分かんないって」

 伊吹が、呆れたような顔になった。

「なるほど、自分のせいって言ったな。罪悪感か。それでここまで忍び込むとか……馬鹿じゃないのか?」

「うるさい!」

「会ってどうするつもりなんだ。それで事態が好転すんのか?ばれたら逆に後退するぞ。一言謝ったところで、お前が満足するだけだろ。お前がしようとしてるのは、何の助けにもならない自己満足だ」


 ばっさりと、志真の行動を斬り捨てられる。言い返したい。けど、何も言い返せなかった。悔しい。志真は唇を噛んで俯く。

「でも、だって、じゃあどうすれば良いわけ」

「……どうもしなければ一番良いんじゃないか?」

「できないよ!モクは何も悪く無いのに、悪かったのは私で、なのにこんなの変だよ!」

「騒ぐな」

 鼻の奥がつんとした。

 誰かに教えて欲しかった。どうすれば良いのか。どうすれば、モクを助けられるのか。

「とにかく、ここはまずい。早く出るぞ」

「やだ!」

「良いから来い」

 引っ張られるが、志真は足に力を入れて抵抗した。見た目どおり、伊吹は非力のようだった。女子にしては力のある志真は、対抗できるくらいの力だ。

 ぎりぎりと、暫く無言の引っ張り合いが続く。


「分かった」


 先に折れたのは伊吹だった。

「一緒に何か手立てを考えてやるから、今は来い」

「適当に誤魔化すつもりでしょ」

「いや、約束してやっても良い。俺もちょっと、知りたいことがある」

 信じていいものか、一瞬悩む。が、志真は従う事にした。同じ言葉を話す、同じ国の人の存在は、やはり何か安心感がある。例え性格が悪そうであっても。

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