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志真と秘密の面会騒ぎ 3

 一生懸命に考えたつもりだったが、所詮志真の頭で考えた計画なので、大したものではない。施設でリザレットに会って話を聞く。次に帰るふりをして施設に残り、こっそりモクのところへ行く。

 モクの居場所も分からないが、何とかなると思っていた。保護施設の半分側、壁で区切られた方にいるとは聞いているし、入り口の場所も聞いた。3階の部分にだけ、ドアが存在しているらしい。ニトロの言葉が正しければ。

 志真はあまり内部を見ることなく外に出てしまったので、3階に行ったことすらない。寝起きしていた部屋と、この取調室みたいなところと、食堂くらい?

 こんな事になるんだったら、もっといろいろ見ておくんだった。

 うまく部屋を抜け出せたとしても、無事に辿り付けるか不安だ。志真は何とかこの場を切り抜ける手立てを考えつつ、3杯目のお茶を飲み干そうとしていた。


「結局、ウィガーにはここへ来る事は話していないわけですか」

「……はい。その、できれば内緒にしておいてほしい、です」

 くれないだろうな、と。リザレットの形ばかりの微笑を見て思う。別に良いけど。ウィガーに怒られるのは慣れている。

 お茶ばかり飲んでいたせいか、トイレに行きたくなってきた。


(あ、これ良いかも)


 嘘では無いし、自然だ。志真はお腹に手をあてて、リザレットを見た。

「あの、すみません。何かちょっとお茶を飲みすぎたみたいで。トイレ、借りても良いですか?」

「……まぁ、良いですよ」

 いかにも仕方無いといった感じで、OKが出た。やった!と飛び跳ねたい気持ちを隠して、足元に置いてあった鞄に手をのばす。その時。

「荷物は持っていく必要ないでしょう」

「え、あ、でもそろそろ帰ろうかと」

「話はまだ途中でしたが?それに、異世界人が施設を訪ねた時は報告書を提出することになっています」

 何それ面倒くさい。

「勿論、『日本語』ではなく、こちらの文字で」

 リザレットがにやりと笑う。

「うわ、私、まだ文字とかよく分からないんですけど」

「辞書を用意してありますので、書けるまで頑張ってください」

 それは書けるまで居残りっていうこと?全然手伝ってくれそうにないどころか、妙に愉しげな感じに顔がひきつる。

(前から思ってたけど、リザレットさんってちょっとSっ気があるよね)

 ともかく、この流れで自然に鞄を持って出て行くことは無理そうだ。ちょっと良い言い訳を考え付かない。

 鞄の中には、モクのために持ってきた差し入れ一式が入っていた。保存の効きそうな菓子や飲み物。それから本とか念の為に毛布とか。渡せないのは残念すぎるけど、あまり渋っても疑われるかもしれない。諦めよう。

 志真は鞄を諦めて、立ち上がった。

「じゃ、ちょっとトイレだけ」

 一人で外へ行こうと思ったのだが、何故かリザレットもついてきた。思わず、何でって目で見てしまう。すると、冷めた目を向けられた。

「貴方を一人で行かせたら、迷子になりそうですから」

「だ、大丈夫です、トイレくらい。子供じゃないんだし」

「私も行きたいような気になってきましたので」

 にこり、と口元だけで笑う。突き刺すような視線に、頑張っても引きつった笑いしか返せなかった。あんまり強情になれば、疑われてしまう。いや、もしかしなくても既に疑われているような気が。


 リザレットを振り切れないまま、トイレに向かう。

 どうしよう、このままじゃ何にもできない。焦りのあまり、掌に汗が滲んできた。

 何か考えないと、何か……ダメだ!全然思いつかない。

 結局何も良い手立てが浮かばないまま、トイレの個室で考える。窓は無い。リザレットが入っている内に、出て行くとか、と考えた時に隣のドアが開く音が聞こえてきた。

 早っ!

 どうしよう、あんまり遅くても変に……おなかを壊したことにして、先へ行って貰う?

 よし、ダメもとで言ってみよう。

 覚悟を決めて、口を開きかけた時だった。

 ビーッ、という耳障りな電子音が鳴り響いた。

「ふへっ!?」

 思わず変な声が出る。聞いているだけで不安になってくるような甲高い音は、一定の強弱をつけながらなり続けていた。

「な、何、何なのこれ」

「警報音……確認の信号も送られてきている。シマ」

 リザレットの声は、若干緊張しているように聞こえた。

「そこにいなさい。後で迎えをよこします」

「え!?」

 がちゃり、と何か嫌な音が聞こえた。思わずドアに手をかけると、開かない。

「ちょっと、リザレットさん!?」

 返事は無い。ただ走り去る音が遠ざかっていった。びーびー音は鳴っているし、閉じ込められるし、正直この展開は不安すぎる。一人になった今がチャンス、と前向きに考えるのは無理だった。

 火事とかだったら、死ぬかも。

 不安になって、志真はどんどんとドアを叩いた。

「ちょっと、誰かいませんかー!開けてー!」

 いつもなら、赤いパネルの部分に手を当てれば、それだけでしゅっとドアがスライドするのに、今は全く無反応だ。外から鍵がかけられるなんて、聞いていない。

 警報音は鳴り続け、外からは慌しく走り回る音や、怒鳴り声、時折悲鳴みたいなものまで聞こえてくる。一体何が起こっているんだ。怖すぎる。

「あーけーてーよ!」

 諦めずドアを叩き続けていると、誰かの足音が聞こえた。慎重に、すり足で近づいてくる音が、近くで止まる。

「あ、あの、リザレットさん?」

「……違う」

 答えたのは男の声だった。ちょっと無愛想な感じの、低い声。

「あ、あの、誰か……ここ、開けて」

 出来れば丁寧に、どなたか存じませんが、ここを開けてくださいませんかとか、言いたいところだが、今はこれが精一杯。

 ドアの向こうの男は、暫く黙り込んでいた。通じていないのだろうか。

「……誰だ」

「え、あ。はい、シマです」

「シマ……?灰谷志真?」

 ものすごく滑らかに、本名を呼ばれた。っていうか、何で苗字まで分かるの!?驚きつつも、嬉しかった。もしかしたら、リザレットがよこした迎えなのかもしれない。

「そう、それです!」

 主張すると、何故かため息が聞こえてきた。


「やっぱり、さっきのは聞き間違えじゃなかったか」


 え、と思わず言葉を失う。

 聞こえてきた言葉が分かる。というか、日本語だ。

「日本語で騒いでいる奴がいると思ったら」

「ええ、え、だ、誰!?」

「こんなところで何をやっているんだ。まさか、騒ぎを起こしたのはお前じゃないだろうな」

「ち、違うし!」

 何かものすごく横柄なような。あんまり性格良くなさそう。どうしてこの世界で会う、日本語を喋る人は皆、性格に問題があるんだろうか。

 むかっときたこと、それから相手が言葉が通じるという安心感も手伝って、志真の気持ちも大きくなった。

「誰かって聞いてるんだけど!私だってちゃんと名乗ったんだし、そっちも名乗ってよ!」

 再び聞こえてくるため息。

 やっぱり嫌な奴だ。


 ちょっと、と声を上げかけた時、目の前のドアがしゅっと横にスライドした。

 こちらに手を伸ばした形で、痩せた男が立っている。

 黒髪に黒い瞳。切れ長の細い目をした薄い顔。青白いけど黄色人種と分かる肌。ものすごく、何か安心できる姿だ。

「あ?」

「………」

 けれど、やっぱり意地悪そう。妙に偉そうな雰囲気で、じろじろとした視線に晒されて、志真は一度唇を噛んだ。

 しかし、助けてもらったことは確か。

「……あ、りがと」

 ふん、と男は鼻を鳴らす。

「えーっと、で、誰?」

「各務、伊吹」


 かがみ、いぶき?


 何か聞いた事あるような。

 間をおいて、志真はあっと声を上げた。同じ時にここに迷い込んできた上に、何者かに襲われて、怪我をしたっていうあの。各務伊吹だ。

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