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志真と秘密の面会騒ぎ 2

「行ってきます!」


 いつもよりも早い時間に、志真は宿屋を飛び出した。調理場で働く仕事仲間たちに声をかけ、裏手側から外に出る。今日は早いのねー、とか、気をつけて行けよなんて声が聞こえたが、振り返って答える余裕は無い。

 今日する事を考えると、手が震える。

 緊張じゃなくて、武者震いだ!と思い込んでみる。

 今日はこのまま学校ではなく、保護施設に向うつもりだ。この宿屋で暮らすようになって以来、一度も行っていない。だから場所もいまいち覚えていなかったが、ちゃんと下調べをしておいた。

 妙な事考えるなよと怪しみながらも、ニトロは場所を分かりやすく教えてくれた。持つべきものは、話の分かる友人だ。

 モクへの面会はできなくても、保護施設に行く事はできる、とヒントをくれたのもニトロだった。生活の上での相談や、要望なんかを聞く窓口としての場所にもなっているらしいのだ。全然知らなかったけど。

 志真の場合は、リザレットが担当だから、彼女を訪ねていけばいい。

 あの人か……。丁寧な口調とは裏腹に、面倒だという雰囲気が滲み出ていた。悪い人では無いと思うが、ちょっととっつきにくい感じの人だ。

 お金に余裕も無いから徒歩で。ひたすら歩くこと2時間強。志真は無事懐かしい保護施設に辿りつく事ができた。

 どこまでも続きそうな高い壁。入り口はどこだ。壁伝いに歩けばいずれたどり着く、筈。

 無駄に広大な敷地だ。いい加減足が疲れてきた頃、門らしきものが見えてきた。頑丈そうな金属で封鎖された入り口の前に、片手で林檎を潰しそうなマッチョな警備員が2人。

 一瞬、怯む。

 でも別に遠慮することは無い筈。リザレットを訊ねるという目的自体は、疚しくないし、咎められるものでもない。

 一歩、踏み出した途端、三角につりあがった目が志真をぎろりと睨みつけた。


 怖っ!


「何者だ。名と目的は」

「ひ、え、えっとシマです。シマ・ハイタニ。こんにちは!おつかれです、異世界人保護施設に用……あの、リザレットさんに、相談。いい?」

 あまりの怖さにしどろもどろになる。用意してきた言葉も、半分以上飛んでしまった。これで通じるのだろうか。

 日に焼けたマッチョなおじさんは、縮み上がった志真を見下ろし低い声で告げた。

「異世界人か」

「は、はい!」

 びし、と思わず敬礼してしまう。

「場所を間違っている。保護施設は、向こう。反対側の方だ」

 と、固そうな指が差すのは塀の中。

「ここは異世界人対策本部ケラス。保護施設と隣接している為、間違うものは多いが。……聞いているか?」

「へ、け、ケラス……?」

 って、何。

 ここは保護施設じゃ無いっていうこと?

 いまいち理解できないでいる志真を見下ろして、男は溜息を吐いた。

「新参だな。まだ言葉の理解も浅いのか、厄介な……。おい、ジェス。ちょっとこれを保護施設に送り届けに行く。良いな」

 反対側にいた赤い髪の派手な男に呼びかけると、日に焼けたおじさんは志真を手招いた。

「案内してやるからついてこい」

 連れて行ってくれるらしい。見かけは怖いが、意外と良い人のようだ。

 大人しくついていくと、何故か説教されてしまった。

「あんまり知らない奴に簡単についていくのは危険だ。気をつけろ。俺はケラスの人間だから、まぁ信頼しても良いとして。嬢ちゃんみたいな物の分からない異世界人は、騙しやすいからな。あっという間に珍しいペットとして売られちまうぞ」

 だから、ケラスって何なんだろう。

 雰囲気的に叱られているのは分かるから、志真は大人しく聞いていた。暫く歩いて、見覚えのある場所にたどり着いた。いつか志真が出てきた保護施設の裏門だ。

 どうやら、違う建物が背中合わせに建っていて、その周りを塀が囲っているらしい。外から見ると全部同じ敷地に見えるけど、一応真ん中で仕切られているようだ。

 志真は何度もお礼を言って、気の良いケラス(?)の警備員と別れた。

 いよいよ、本番だ。

 よし、と気合を入れて志真は保護施設の警備員に声をかけた。


 何だか懐かしい3畳ほどの狭い部屋。

 明るいライトグリーンの床と、同色の机と椅子。壁や天井は白く、壁の上方四隅に四角いライトがついてて。そうそう、こんな感じだった。一番最初に通された部屋だ。

 暫く待つと、細身で神経質そうな女性がやって来た。

 リザレット・クラウラだ。その愛想の欠片も見えない感じが非常に懐かしい。2人分のお茶が載ったトレイを机の上に置き、椅子に座る。

 細い目がいかにも迷惑そうに志真を眺めた。

「お久しぶりです。今日はまた、何の用ですか」

「お久しぶりです。えっと、その、何かリザレットさんにも大分会ってなかったし、どうしてるかなって」

「……帰られます?」

「い、いえ、用もある、ちゃんとあります!」

 いきなり帰されそうになった。相変わらずのつれなさだ。最後に見た笑顔が幻だったんじゃないかと思えてくる。

「ちょっと、色々聞きたいことがありまして」

「ウィガーには聞けないようなことですか?」

「い、いや、そういうわけじゃ。でも何ていうかウィガーはいっつも面倒がるし、怒るし、喧嘩になっちゃうから聞きにくいっていうか」

 ふう、とリザレットが溜息を吐く。

 こっちも同じくらい聞き難い相手である。やりにくい。

「モクという異世界人の事ですか」

「え!?」

 いきなり先制攻撃を受けた。

「な、何で……」

「ウィガーからも相談を受けましたから」

 志真は真っ青になった。既に先手を打たれていたとは。というか、まさか見抜かれているなんて思わなかった。あのウィガーに。

「モクが保護施設入りになったと知った筈なのに、何も聞いてこない。普段のシマなら、黙っていない筈だと」

「だ、だって、その、ウィガーに言っても仕方無いって思ったし。どうせ、本当の事なんか教えてくれなくて、反省しろって言うの目に見えてる…から」

「ウィガーを信用できなくなりましたか?」

「え」

 思わぬ言葉に、志真は目を見張った。

「異世界人の相談で最も多いのが、保護者との不和です。信頼関係が築けない、信用できない、変えて欲しい、そういう要望は案外多い」

 貴方はどうですか、とリザレットは無表情のまま聞いた。


 何か、思わぬ方向へ話が進んでいるような。


 確かにウィガーには色々と思うところもある。堅物で、融通が利かなくて、煩くて。でも、まぁそんなに悪い奴ではないと思う。最近はそう思えるようになってきたところだ。

 ここで嫌だと言ってしまったら、どうなるのだろう。

 違う人のところへ預けられるのだとしたら、結構困る。宿屋での生活にも慣れてきていたし、フィオーネやリアラ、従業員の皆と離れるのは辛い。

「い、嫌ってほどじゃないよ。時々むかつくけど、ウィガーが怒るのも仕方無い……って、思うこともあるし」

「そうですか」

「……ちょっと、好奇心で聞きたいんだけど、どうしても駄目ってなったらどうなるの?」

「審査をし、続行が適当で無いと判断された場合は、一旦保護施設へ戻り、改めて次の保護者を決めます」

「そうなんだ」

「ちなみに恐らく、次の候補者はユーイ・ユーイのところでしょうね」

「げ」

 思わぬ名前が挙がり、志真は顔をしかめた。

 それは絶対に嫌!だ。

「良いです、ほんと。今のところで我慢します」

 その方が面倒かからなくて良いですから、是非そうしてください、とリザレットも無表情に賛同した。

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