志真と秘密の面会騒ぎ 1
志真は嘘が苦手である。
いつも挙動が不審になったり、うっかり余計な事を言ったりして、大抵ばれる。だからなるべく顔を合わせないようにし、口数を減らし、常に違う事を考えているようにした。
仕事中は目の前の仕事の事だけに専念する。
おかげで皆に褒められて、豪華なおやつをもらえたりした。
真剣に勉強すると宣言して、部屋に閉じこもる。
おかげで言葉も大分上達した!多分。
しかし、ウィガー。肝心の時にはいないくせに、会いたくない時に限って現れるのは、何なのだろうか。
部屋の中で志真は煩悶する。ドアの外ではウィガーが待っている。着替えているから!ととりあえず待たせてしまったのだが。
落ち着け!
大丈夫、別に何も慌てることない。今のところ、へまはしてないし、普段どおりに話せばいいだけだ。そうそう、普段通りに……っていうか、普段ってどうやって喋ってたっけ?顔は、笑ってた?しかめっ面?さっぱり分からないぞ。
志真は混乱の真っ只中にいた。考えれば考えるほど分からなくなる。普通って何。
あんまり待たせると、それこそ不審に思われるかもしれない。
いいや、もう、何とかなる!志真は思い切ってドアを開けた。相変わらず不景気な顔をしたウィガーが、立っていた。
(えっと……)
あんまり愛想の良い対応はしていない筈だ。
「何か用?」
こんな、感じ?顔の筋肉が動かないように力を入れているため、必要以上にしかめっ面になっている。ウィガーのこげ茶の瞳が、志真を見下ろす。何だか怪訝な顔をされている。
「何かあったのか?」
「え!?」
思わず大きな声になってしまった。
「なに、べ、別に何も無いけど」
その上台詞をかんでしまう。ウィガーの不審そうな目付きが痛い。
「本当だろうな?」
「いや、本当に別に普通だし。言いがかりつけるのやめてよ。っていうかなんで急にそんな事聞くの?わざわざ、部屋に来てまで聞く事じゃないし、吃驚するよ。あ、何か急ぎの用が別でもある?」
「いや……」
「じゃ、もう良い?勉強やってるから、さ!」
おやすみー、とひらひら手を振って。ばたんと、ドアを閉める。
セーフ。
やった、自然に誤魔化せた。
「お前、何か企んでないか」
うおっ、と変な声が出た。油断大敵だ。敵はまだドアの向こうにいる。ピンチはまだ去っていなかった。
「な、何かって何」
「……俺が知るか。だが、お前。俺に……」
「何?」
「………いや、何でもない」
何だそれは。意味ありげに言葉を切らないで欲しい。言いかけたら最後まで言ってくれないと、気になるじゃないか。しかし、今は下手に引き止めるべきじゃない。ウィガーに……いや、誰にも知られてはいけないのだ。
邪魔したな、そう言って、ウィガーが去っていく。
遠ざかる足音を確認しながら、志真は大きく息を吐き出した。ほんと、焦った。
誤魔化せたようで良かったが、何かウィガーの様子も変だった気がする。いつもなら、もっとしつこく問い詰めてくる筈だ。口調もそんなにきつくなかったし。
ちょっと気になったが、まぁ良い。
今はウィガーを気にしている時ではない。早く支度を済ませて、明日に備えて早めに寝なければならなかった。
明日、志真は保護施設に潜り込む計画を立てていた。どういう方法も思いつかず、考え続けて、3日が過ぎた。ニトロから聞いた話だと、モクとハルラックが捕らえられている場所は、志真が暮らしていた保護施設とは少し違うところだという。狭い部屋で、ほぼ軟禁状態。退屈で、不自由な生活を強いられる。
まるで罪人扱いだ。
モクに対するその扱いは、納得できない。何にも悪いことなんかしていないのに。
どこに文句を言えば良いのか分からなかった。ニトロに聞いてみたが、無駄だと言われた。
「モクは要注意人物なんだ」
そう言った時のニトロの笑みは、悪巧みをする悪役のようだった。あの穏やかで優しいモクなんかよりもずっと、こっちを注意しておいた方が良いんじゃないかと志真は思う。
とにかく、どこに訴えても無駄だというのがニトロの意見。一番いいのは、大人しくしていること。もどかしかった。いつ出してくれるかも分からないのに、ただ待っているだけなんてできない。
そもそも、志真のせいなのだ。
「いつ、出る?」
「さぁな。短くて1週間、長引けば一ヶ月、二ヶ月はかかるかもな」
いっかげつ……一ヶ月!?
「長い!」
「俺に怒っても仕方無ぇだろ。大体、どんくらいになるかも、ただの予想で」
「誰に、聞くといい?」
「誰も教えてはくれねぇって。そういうのは、伏せられる情報……秘密なんだ」
「何で!?」
「だから俺に怒るなって」
ますますもやもやした気持ちになる。
「モクに会う、無理?」
面会とかできないのだろうか。刑事ドラマとかでは、そういう場面があったような。せめて会って話ができれば、と思ったのだが。
「無理だろうな。異世界人じゃ、まず許可は出ねー」
異世界人だから?
何だそれ、怒りを通り過ぎて虚しい気持ちになってきた。扱い悪すぎだ。本当にモクは大丈夫なんだろうか。酷い目にあってたりしたら。
暗い気持ちになった志真を見下ろして、ニトロは言った。
「じゃあ、差し入れでも持って忍び込むか」
忍び込む?
志真は戸惑った。ばれたら只ではすまないだろう。保護施設というとぴんとこないが、警察みたいな役割も持っている場所だ。そこへ忍び込むとか、どう考えてもやばい気がする。
「危ない、見つかる、モクも」
そのせいで、モクの立場がますます悪くなったりしたら、嫌だ。
「そうそう。分かってるじゃねーか。悩んでもしょうがねーだろ、俺達に出来る事なんて何も無ぇよ」
「でも」
「本当に役立たずの虫けらですわね」
突然口を挟んできたのは、リキキだった。
「モク様に迷惑をかけておいて、自分は何もしないなんて、恩知らずも良いとこです。自分の身が大事なら、お家で良い子にしているといいですわ。私はモク様の為なら、どんなことでもやる覚悟してるのです」
割り込んできたリキキの挑発に、志真は。
「私だって!」
と、対抗した。
「口先だけなら、何とでも言えます」
ふん、と馬鹿にしたように鼻を鳴らされ、かなりかちんときた。
志真だって、別に自分の身が可愛くてしり込みしていたわけじゃない。いや、ちょっとはそういう気持ちもあるが、一番はモクや他の人間に迷惑をかけないかという事だった。
変な事考えるなよ、とニトロには釘を刺されていたが、志真はもう決めていた。
誰も巻き込まないで、一人で……出きれば誤魔化せそうな感じで会う、と。
モクの事があってから、もっと慎重に堅実になろうと決めていた。だが、既に大きく道を踏み出し始めている気がする。リキキのせいで。
あそこでリキキが出てこなかったら、志真は覚悟を決められただろうか。
(っていか、リキキ、いつからいたんだろ)
急に出てきたような気がする。教室にはニトロと、じい、アルジャラーしかいなかった。ああもタイミング良く登場されると、どこかに隠れていたのではと怪しんでしまう。
あの教室、人が隠れられそうなところって無いけど。
謎だ。
まぁ、リキキの行動の謎なんて今は良い。問題は明日のこと。既に後には引けなくなっている。覚悟を決めてやるしかないのだ。
志真が捕まってしまったら、モクにも迷惑がかかる。だから、失敗は許されない。




