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志真と異世界人連続誘拐事件 3

 七海・ルルルイエ。


 生きていたのか。

 それを喜ぶべきか、嘆くべきか。生きていたなら、きっと厄介な事をしでかすに違いないと思っていた。その予感はどうやら的中していたようだ。

 おそらく、各務吹雪を匿っているのは彼女だろう。

 そして一連の異世界人失踪事件に関わっているのも。既に18人の異世界人が姿を消している。伊吹も加えるなら19人。自ら姿を消したにしても、目撃情報が全く出ないのはおかしい。転移魔法が関わっているのでは、とその可能性が示唆された時に、真っ先に思い浮かんだのはやはり彼女の事だった。

 ユーイの知る限りでは、その魔法を使用できるのは七海と、ユリウスの2人だ。ユリウスの仕業と考えるのは無理がある。どう、考えても怪しいのは七海だった。


 こんなの、許せない


 そう言って姿を消した彼女が何をしようとしているのか。ユーイ・ユーイは憂鬱だった。



***


 取調べを終えると、宿屋へ帰ることができた。たった1日で色んな事がありすぎだ。もうお風呂に入る気力もない、さっさとベッドに入って休みたい。

 そんな気分だったというのに、そうはいかないようだった。

「おかえり、チーグーちゃん」

 相も変わらず暑苦しい笑顔で迎えてくれるクリスティアン。さぁおいで、とばかりに広げられた両腕に、ツッコミを入れる気力もないのだ残念ながら。お願いだから休ませてくれい。

 しかし、彼の事は余裕でスルーできるけれども、その隣で不安そうな顔をしているフィオーネは無視できない。(いっさんめ!)

 ユーイ達の話だと、異世界人連続誘拐事件とやらに関わっているかもしれないという。だから、もしかしたら伊吹は被害者で悪くないのかもしれない。


 ……でも、いっさんは自分で逃げるとか言ってたし。


 本当にどうなっているんだろう。ミルラは大丈夫なのだろうか。空気を読まないクリスティアンに押されて、彼の部屋にて話をすることになった。フィオーネの他にもう1人、見慣れないようで見たことのある男の人だ。

 細身で短髪の中性的な美青年……?顔だけ見たら、女の人で通りそうな感じだけど、決してなよなよしているわけではない。どっちかっていうと、男っぽい雰囲気を漂わせている。

 彼の名はジュドウル・ラクリエル。

 ミルラの兄だと紹介された。言われて見れば似ているような。


「さて」


 と、切り出したのは、やはりクリスティアンだった。

 丸いテーブルを囲んで、右にフィオーネ、左にジュドウル、正面にクリスティアンという布陣。

「一体何があったんだい?話してくれたまえチーグーちゃん」

 何か、尋問再びって気がするのは気のせい?


 何度も話したお陰なのか、志真にしては解り易く簡潔に説明をする事ができた。植物園で志真が目にした事、伊吹の言った事、それからユーイ達から聞いた異世界人連続誘拐事件について。

 只1つ、七海という女性については喋る事ができない。

 他に漏らすなとユーイから口止めされているからだ。

「異世界人連続誘拐事件って、俺の妹は異世界人じゃねぇんだけど。何であいつまで」

「イブキに対する人質とも考えられるけど、この場合、どうやらイブキ自らミルラ嬢をつれて行っているようだからねぇ。となると、どうなるかな」

 え、何どうしたの。

 珍しく真面目に考えているっぽいクリスティアンの姿が、いつになく頼りになる存在に見える。……疲れているんだろうか。

「我が友は臆病で慎重な男だから滅多な事は仕出かさない筈なのだが」

「……ほぉ。随分かってるみてーじゃねーか」

「当然ですとも。愛情は無限、されど友情は有限です」

「………すまねぇ、意味が分からねぇよ」

 ミルラ兄に同意する。

「ラクリエル家のご隠居の目は確か。彼に切られない限りは、私とイブキの熱い友情も終わる事は無い」


 いや、その友情ってかなり打算的じゃないか?

 熱いんだか冷たいんだか。


「この状況においても、未だご隠居は動かれていない、という事は」

「何だよ」

「ここがイブキの正念場になるだろうね。恐らくご隠居は見極めようとしておられる筈。彼が、本当にミルラ嬢の夫に相応しいか否か」

 何だか良く分からないけど、大変な事になっているみたいだ。ねーよ、って小声でミルラ兄がぶつくさ言っているのが気になるけども。

 志真はちらりとフィオーネの様子を盗み見た。先程から黙ったまま、何かを考えている様子。その気持ちを思うと、胸が痛む。


 志真だって伊吹達の事は心配だ。

 でもきっと、フィオーネはもっと辛いに違いない。


「フィオーネ、平気?」

「……うん、大丈夫。イブキさんとミルラさん、戻ってくるわよね?」

「勿論だとも!」

 志真よりも早く、クリスティアンが高らかに声を上げた。

「イブキは、遣り残した仕事を残していくような男ではありません。必ずや、ここに戻ってくるでしょう。このクリスティアンが保障します。だから、そのような悲しい顔をする必要はありません。貴方にはそのような顔似合いませんよ、フィオーネ」

 さりげなく口説くな。

 真面目なのか不真面目なのか分からない(いつもの態度だ)のクリスティアンに、ジュドウルは苛立つ。

「そんな悠長な事言ってる場合か。ミルラが無事かも分かんねぇ時に」

「あ、安全は大丈夫って、ユーイ言ったよ」

 誘拐犯の正体が七海という人ならば、殺されたり痛めつけられたりするような心配は無いとユーイは言っていた。異世界人に悪意を持っている人ではない。どっちかというと、逆らしい。

「……ユーイさんが。でも本当にそうなのかしら」

 ユーイの保障では、フィオーネの不安は拭えないようだ。

「フィオーネ」

「1つ気になっている事があって」

 言うか言うまいか迷っているような様子を見せた後、フィオーネは言った。


「イブキさんは何故こてつを置いていったのかしら」


 え、そこ?

「動物禁止、とか?」

 伊吹は動物を可愛がるようなタイプには見えないし、構っている暇はないって思ったのかもしれない。どちらにしても、志真には大したこととは思えなかったのだが。

「ヴィーダは敵対者に反応するからね」

 とクリスティアンが言えば、フィオーネは思案顔で頷いた。


 敵対者、って。

 教会での出来事は、志真にとっては忘れられない記憶である。

「伊吹には1人兄がいたらしいのだよ。一緒にこちらへ来てすぐに、死んでしまったらしいが。実は生きているという話もあるようでね」

 何それ、初めて聞いた。

 伊吹に兄がいたことも、一緒にこちらへ来たことも、更に、死んだって……。

「その兄が敵対者に憑かれているという噂だ」


 なんだって。


 そんな事、一度も伊吹は。

「い、いっさん、それ知ってる?」

「さぁね。でもイブキが知らないとは、私には思えないが」

 志真にも思えなかった。

「じゃあ、やっぱり……」

「イブキはその兄のところへ行ったのかもしれないね。しかし、分からないのはミルラ嬢のことだ。彼が何の関係もない彼女をわざわざ巻き込むとは思えない。その辺りに、まだ何か秘密があるような気がするよ」

 大丈夫だ、とユーイは言ったが。


 本当に大丈夫なんだろうか。

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