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志真と異世界人連続誘拐事件 2

 目撃者は得てして疑われるものである。


 と、そんなミステリードラマみたいな経験はいらなかった。伊吹とミルラの初デートという平和なイベントだった筈なのに、事態は思わぬ方向へ転がっている。


 ミルラ・ラクリエル嬢誘拐事件、逃走中の容疑者の名前は各務伊吹!


 ………なんでこんな事になっているのだ。

 いくら考えても分からない。


「俺は、逃げる」


 こてつを追ってたどり着いた場所で、伊吹は志真に向ってそう言った。彼の足元には、意識のないミルラが横たわっていた。割られた分厚いガラスが散乱した通路。ドラマのワンシーンみたいな衝撃的な一面に、テレビでも見ているみたいな気持ちになった。

 ジャンルはミステリーとかサスペンスとか。

 本来ならガラスの向こうにあるべきその場所に立つ伊吹と、ミルラ。

 一目散に駆け寄って、伊吹の肩へと上っていったこてつとは違って、志真は2人に近づけなかった。情けない事に雰囲気に飲まれてしまって。

 伊吹とミルラと謎の女性。


 消えてしまった3人を見たのは志真しかおらず、唯一の目撃者として面倒な取調べが続いていた。

(いっさんの馬鹿!)

 後の事は頼むとか気軽に言って消えてしまった伊吹が恨めしい。消えるならちゃんと理由くらい言っていけ。じゃないと気になるし、不安だし……心配だ。

 心なしか薄暗い(窓とかないせいだろうか)狭い部屋にて、志真は頭を抱える。部屋の隅ではそんな志真に対して油断無い視線を送ってくる、いかつい女性が1人いた。あの鋭い視線は犯人とかに向けられるものではないだろうか。

 そう、志真は疑われているのである。


 伊吹と同じ日本人だし、異世界人だし、唯一の目撃者であるし。


 怪しまれる要素は満載だ。実際は、何も知らないのに、怖い顔で詰め寄られ、知っているのだろうとしつこく聞かれることに、志真の繊細な心(自称)は折れそうである。

 虚しい。


 2時間も続いた取調べは一旦休憩に入っていた。お茶は出たけど、お茶請けは無い。こっちはお腹が空いているんだよ、夕飯とは言わないけどせめてお菓子くらい出してくれ。そう言いたいけど、とても言えるような雰囲気ではなかった。

 先程からぐうぐう鳴るお腹を押さえて、目の前の四角い机にだらりと腕を伸ばした時、がちゃりと正面のドアが開いた。


「よう、シマ。相変わらず無駄に元気そうで何より」


 この状態を見てよくそんな事が言えるな。志真は姿勢を崩したまま、不機嫌な顔で入ってきた偉そうな少年、ユーイ・ユーイを睨みつけた。

 今日のユーイはいつもの派手な服ではなく、黒の軍服みたいなものを着ている。さらりと肩の上でゆれる金髪がやたら映える色だった。

「何しに来た」

「相変わらず口の利き方がなっていないな」

「相手、見るから」

 お前に使う敬語など無い!との強気な態度を見せる志真に対して、ユーイは小ばかにしたように鼻を鳴らした。

「そうか?……残念だな。折角食事を持ってきたが、無駄になりそうだな」

「!」

 ぎょっとする志真を横目で見ながら、ユーイはドアに向って告げた。

「ジェレミー、食事は必要なくなりそうだ」

「待て!」

「……待て?」

「ま、待ってください?食事、いります!」


 く、屈辱……!

 爆笑しているユーイを見て、志真はぎりぎりと歯を噛み締めた。しかし、本当に我慢できない程空腹なので仕方が無い。良く考えてみれば、昼食も伊吹達を見る方を優先させていた為に、菓子パンみたいなものくらいしか食べられなかった。

 その後で、全力疾走してカロリーを消費してしまったし、お腹が空くのも当たり前だ。

 満足いくまで笑った後、漸くユーイは外の人を呼んでくれた。


 机の上に並べられた黄金色のスープに、細かく切った野菜炒めが乗ったぱりぱりに焼いた鶏肉。魚のフライ卵ソース掛けにチーズの入った丸いパン。

 最高です。

 空腹だったせいかやたら美味しく感じる。丁度良い塩加減、繊細で上品な味付け。それをもりもり食べる志真の姿は、上品とは程遠かったに違いない。

 食後のお茶を飲んで、ようやく志真は一息ついた。

「……どれだけ飢えていたんだ」

「見ていて気持ちのよくなる食べっぷりですね」

「そうか?俺はむしろ気持ち悪くなった」

 ユーイと話すもう1人は、食事を運んできてくれた人だ。改めて見ると美形である。背も高いし、スタイルも良い。灰青の瞳も綺麗だし、口元のほくろがセクシーだ。フェロモン系。いかにも女の人を誑し込んでいそうな感じだと思うのは、偏見だろうか。

 見ていることに気がついた男は、志真に向って微笑んだ。

「食事は満足していただけましたか?僕はジェレミー・ニス・ホークといいます。以前から貴方の話を聞いて一度会ってみたかったんですよ」

「話?」

「ええ、このユーイ様や、ウィガーから」

 その2人からという事は、きっとろくな話ではない。思わずじと目でユーイを見ると、ふんと鼻で笑われた。


「さて、無駄話はそれくらいにしろ。食事が終わったなら、取調べを再開する」


 え。


 思わず志真は固まった。

「あんたが?」

「じゃなかったら、何で態々俺がここに来ていると思う。お前の愉快な顔をわざわざ眺めに来るほど、俺は暇でも酔狂でもない」

 相変わらずムカつく事を言われている気がする。むっとしたところで、まぁまぁとジェレミーが間に入った。

「今回の事件、魔法に関わる事が出てきたので、私達が借り出されたんですよ。他の件でも少し気になることがありますし」

「まほう?」

「そう、この世界に魔法使いの数は多くないですからね。狭い世界なんです」

 ゆっくりと丁寧に喋ってくれるジェレミーは、非常に感じが良い。それにしても魔法に、魔法使いか。そういえば、ラスカゥルがユーイの事を魔法使いだと言っていた。

「じゃ、いっさんとミルラ、ぱって消えたのは」

「転移魔法ですね。非常に高度な魔法なので、使える人間は限られます。その辺りから、犯人に繋がる情報が得られるかもしれません」

「どんな奴だった」


 気がつけば、酷く真剣な目で見られていた。


「どんなって……女の人。小さかった、けど大人?髪は……」


 何色だったっけ。何せ一瞬のことだったしな。言葉を詰まらせる志真に、ユーイは苛立った様子を見せた。

「良いから日本語で話せ」

「え」

「聞き取りくらいは俺にも出来る」

 何それ聞いてないんですけど。いつから!?目を丸くする志真に、ユーイは早くしろと短く告げた。

「えっと、じゃあ……髪の毛は明るい色だったと思う。黒とかじゃなくて、でも金髪とかでもなかったかな。茶色?ふわふわしてた。これくらいの長さで」

 右手を使って肩の辺りを示す。

「小さかったのは間違いないよ、いっさんが大きく見えたもん。後、細かった」

「目の色は?」

「……何だろ、覚えてないや」

 何度も言うけど、一瞬のことだったのだ。服装だってはっきり思い出せない。


「あ、でも」


 ひとつ引っかかることがあった。

「何か最後にさ『じゃあね』って言われた気がするんだよね」

 日本語で「じゃあね」?それとも同じような言葉がこちらにあって、聞き間違えたのだろうか。

 がたん、と大きな音を立てていきなりユーイが立ち上がったので吃驚する。

 見たことも無い険しい顔をしたユーイに、志真はどうしたの、という言葉を飲み込んだ。ぐっときつく眉根を寄せて、目の奥に困惑とも怒りともつかない色を乗せて手元を睨んでいる。

「冗談、だろ」

「な、何……?」

 何か拙い事を言った?そんな事ないよね?困惑してユーイの隣のジェレミーを見上げると、苦笑を返された。

「どうやら、シマの見たという女性は、僕達の良く知っている人かもしれません」

「え」

「ナナミ・ルルルイエ。日本人を祖父に持つ、魔法使いで異世界研究者でもあった女性ですよ」

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