第一期 第九話 「誕生日サプライズ」
九月。
夏の暑さも少しずつ和らぎ始めた頃。
会社のデスクで仕事をしていたユウキは、部下から声を掛けられた。
「課長、今月お誕生日ですよね?」
「え? ああ、そうだった。」
「忘れてたんですか?」
「三十代になると、あんまり意識しなくなるんだよ。」
部下たちは笑い、そのまま仕事へ戻っていく。
ユウキも苦笑しながら資料へ目を落とした。
(誕生日か……。)
ここ数年は、一人で少し良い夕食を食べる程度だった。
一方その頃。
サークル「オタクっ子集まれ」のグループチャットでは、ある作戦が進んでいた。
タクミ
「ユウキさんの誕生日、みんなでお祝いしない?」
リク
「賛成!」
ユイ
「サプライズがいいですね!」
そこへミヤビがメッセージを送る。
ミヤビ
「私、お店を予約します!」
ケンジ
「プレゼントは?」
ミヤビ
「みんなで用意しましょう!」
画面を見ながら、ミヤビは小さく微笑んだ。
「喜んでくれるといいな。」
誕生日当日。
ユウキは仕事を終えると、ミヤビからメッセージを受け取った。
「相談したいことがあるので、少しだけ時間いただけませんか?」
「相談?」
珍しいなと思いながら、指定された居酒屋へ向かう。
個室の扉を開けた、その瞬間――
「「「お誕生日おめでとうございます!!」」」
クラッカーが一斉に鳴った。
「えっ!?」
目の前にはサークルの十人が勢ぞろいしていた。
テーブルの中央には大きなケーキ。
『Happy Birthday ユウキ』とチョコレートで書かれている。
ユウキはしばらく言葉が出なかった。
「み、みんな……。」
タクミが笑う。
「大成功ですね。」
「課長、すごい顔してますよ。」
部屋中が笑いに包まれた。
「乾杯!」
グラスが鳴る。
料理が運ばれ、いつものようにアニメの話で盛り上がる。
「今期の一番は?」
「やっぱりあの作品!」
「いや、ダークホースがある!」
笑い声が絶えない。
ユウキは改めて思う。
(こんな誕生日、初めてだ。)
食事が終わる頃。
ミヤビが小さな箱を持って立ち上がった。
「ユウキさん。」
「はい?」
「これは私からです。」
「え?」
「お誕生日、おめでとうございます。」
小さなリボンの付いた箱。
ユウキはゆっくり開ける。
中には――
アニメフィルムをモチーフにした、シンプルなキーホルダーだった。
裏には小さく刻印がある。
『好きなものを、これからも一緒に。』
ユウキは思わず見つめたまま動けなくなる。
「実は……。」
ミヤビが照れながら話す。
「オーダーメイドで作ってもらいました。」
「これを?」
「はい。」
「世界に一つだけです。」
ユウキは胸が熱くなるのを感じた。
「ありがとう。」
その一言しか出てこなかった。
「大切にします。」
ミヤビは安心したように微笑む。
「よかった。」
二次会が終わり、みんなが帰っていく。
駅までの道。
気づけば、またユウキとミヤビが並んで歩いていた。
「今日は本当にありがとうございました。」
「こちらこそ。」
「実は。」
ミヤビは少し照れながら笑う。
「プレゼントを選ぶのに、すごく悩んだんです。」
「そうだったんですか?」
「何店舗も見て回って。」
「そんなに。」
「ユウキさんに喜んでもらいたくて。」
その言葉が胸に響く。
自分のために、そこまで考えてくれた。
それが何より嬉しかった。
「本当にありがとう。」
「はい。」
二人はゆっくり歩き続ける。
改札前。
「また来週ですね。」
「はい。」
別れようとした時だった。
「ユウキさん。」
「?」
「今年の誕生日が、素敵な思い出になってくれたら嬉しいです。」
「もう十分すぎるくらいですよ。」
ユウキは笑う。
「人生で一番嬉しい誕生日でした。」
その言葉に、ミヤビは少しだけ目を潤ませた。
「よかった……。」
帰宅したユウキは、机の上にプレゼントを飾った。
キーホルダーを見るたびに、今日一日の出来事が思い浮かぶ。
(みんなのおかげだな。)
そう思いながらも、自然とミヤビの笑顔が頭に浮かぶ。
一方、ミヤビも帰宅後、ベッドに腰掛けながらスマートフォンを見つめていた。
最後に届いたユウキからのメッセージ。
「今日は本当にありがとう。宝物にします。」
その短い言葉を何度も読み返し、小さく笑う。
「……もっと喜んでもらえること、したいな。」
恋心は、もう隠しきれないほど大きくなっていた。
次回予告 第十話「すれ違う二人」
仕事の大型プロジェクトが始まり、ユウキは残業続きの日々に。サークル活動にも参加できず、ミヤビとの連絡も少しずつ減ってしまう。「迷惑をかけたくない」と距離を置こうとするユウキと、「何か力になりたい」と願うミヤビ。初めて訪れるすれ違いが、二人の本当の気持ちを少しずつ浮かび上がらせていく。




