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第一期 第十話 「すれ違う二人」

挿絵(By みてみん)


十月。


 秋風が心地よく吹き始めた大阪。


 しかし、ユウキには季節を楽しむ余裕などなかった。


「課長、この資料の確認をお願いします!」


「課長、先方から仕様変更です!」


「課長、明日のプレゼン資料なんですが……」


 大型プロジェクトの責任者になったユウキは、朝から晩まで仕事に追われる毎日を送っていた。


 会社を出る頃には、時計は夜十一時を回っている。


 疲れ切った体でマンションへ帰り、シャワーを浴びて眠る。


 そんな日々が続いていた。


 一方、サークル「オタクっ子集まれ」のグループチャットでは、いつものように盛り上がっていた。


タクミ

「今週末どうする?」


リク

「アニメイト集合!」


ミヤビ

「ユウキさんも来られますか?」


 しばらくして返信が届く。


ユウキ

「ごめんなさい。仕事で難しそうです。」


 その短い文章を見て、ミヤビは少しだけ寂しそうな表情を浮かべた。


 翌週。


 状況はさらに忙しくなっていた。


 ユウキは営業先から会社へ戻る途中、スマートフォンを見る。


 未読メッセージが五件。


 そのうち四件はミヤビだった。


「お仕事お疲れさまです。」


「ちゃんとご飯食べてますか?」


「無理しないでくださいね。」


「返信は気にしなくて大丈夫です。」


 ユウキは微笑みながらも、返信を書く余裕がない。


「ありがとう。落ち着いたら連絡します。」


 それだけ送るのが精一杯だった。


 金曜日の夜。


 会社を出ると、小雨が降っていた。


 コンビニでおにぎりを買い、駅へ向かう。


「ユウキさん?」


 聞き慣れた声だった。


 振り返ると、ミヤビが立っていた。


「ミヤビさん。」


「偶然ですね。」


「本当に。」


 二人は駅まで一緒に歩く。


 以前なら自然に会話が弾んでいた。


 しかし今日は違った。


「お仕事、大変そうですね。」


「まあ……。」


「ちゃんと寝てますか?」


「少しは。」


「そうですか。」


 沈黙。


 雨音だけが響く。


 駅前で立ち止まる。


 ミヤビは少し迷ったように口を開いた。


「私……。」


「?」


「何か力になれませんか?」


 ユウキは少し驚いた。


「大丈夫ですよ。」


「でも。」


「心配かけたくないんです。」


 その言葉に、ミヤビは少しだけ表情を曇らせる。


「私は……。」


 言葉を飲み込む。


「すみません。」


 小さく頭を下げた。


「お仕事、頑張ってください。」


「ありがとう。」


 二人は別々の改札へ向かった。


 その夜。


 帰宅したミヤビは、ソファに座ってスマートフォンを見つめていた。


(迷惑だったかな……。)


 心配しただけだった。


 ただ、それが負担になってしまったのではないか。


 そんな考えが頭をよぎる。


 一方、ユウキも帰宅後、スマートフォンを握りしめていた。


(違うんだ。)


 心配されたくないわけではない。


 むしろ嬉しかった。


 でも、自分の仕事のことでミヤビにまで負担をかけたくなかった。


 それだけだった。


 翌日。


 サークルの定例会。


 ユウキは欠席。


 ミヤビもどこか元気がなかった。


「どうした?」


 タクミが声を掛ける。


「いや……。」


「ユウキさんと何かあった?」


 ミヤビは苦笑する。


「喧嘩じゃないんです。」


「でも。」


「少しだけ、すれ違っちゃったみたいで。」


 タクミは優しく笑った。


「ユウキさん、不器用だからな。」


「え?」


「誰かに迷惑かけるくらいなら、自分で全部抱え込むタイプ。」


「……。」


「でも、本当に嫌な相手には連絡すら返さないよ。」


 その言葉を聞いて、ミヤビは少しだけ安心した。


 その頃。


 会社ではプロジェクトの最終プレゼンが終わっていた。


「お疲れさまでした!」


 拍手が起こる。


 無事に契約成立。


 プロジェクトは大成功だった。


 ユウキは椅子へ座り込み、大きく息を吐く。


(終わった……。)


 そして真っ先にスマートフォンを開いた。


 未読メッセージ。


 一番上にはミヤビの名前。


 ユウキはすぐにメッセージを送る。


ユウキ

「やっと仕事が終わりました。」


 数秒後。


ミヤビ

「お疲れさまでした」


 その返信を見た瞬間、ユウキの肩から力が抜けた。


 たった一言。


 それだけなのに、心が温かくなる。


 夜。


 ユウキは窓の外を眺めながら、小さくつぶやいた。


「今度ちゃんと話そう。」


 一方、ミヤビもスマートフォンを胸に抱きしめながら微笑む。


「よかった。」


 完全にすれ違ったわけではない。


 まだ、ちゃんと繋がっている。


 二人は改めて、お互いの存在の大きさに気付き始めていた。

次回予告 第十一話「伝えたい気持ち」


仕事が一段落し、久しぶりに二人きりで会う約束をするユウキとミヤビ。これまで胸の中にしまってきた感謝の気持ちを伝え合う中で、ユウキは「ミヤビがいる日常」が自分にとってどれほど大切なものになっているかを実感する。そしてミヤビもまた、自分の本当の気持ちと向き合い始める――。

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