第一期 第十一話 「伝えたい気持ち」
大型プロジェクトが終わってから、一週間。
ユウキの日常は、ようやく落ち着きを取り戻していた。
久しぶりに定時で会社を出る。
夕暮れの大阪の街を歩きながら、ユウキはスマートフォンを取り出した。
送信先は、もちろんミヤビ。
ユウキ
「今度の日曜日、時間ありますか?」
数秒後。
ミヤビ
「あります♪」
その返信の速さに、思わず笑みがこぼれる。
ユウキ
「この前のお礼も兼ねて、ご飯でもどうですか?」
ミヤビ
「ぜひ!」
画面の向こうでも笑っている気がして、ユウキの心は少し軽くなった。
日曜日。
待ち合わせは難波駅前。
秋らしい風が吹く中、ユウキは約束の場所へ向かう。
「お待たせしました。」
ミヤビが軽く手を振る。
今日は落ち着いたベージュのワンピースに、薄いカーディガン。
いつもの柔らかな雰囲気が、秋の景色によく似合っていた。
「久しぶりですね。」
「そうですね。」
ほんの二週間ほど会えなかっただけなのに、もっと長く感じていた。
二人は少し早めの昼食を取り、そのあと近くの公園を散歩する。
木々は少しずつ色づき始めていた。
「この前は、ごめんなさい。」
ユウキが立ち止まる。
「え?」
「仕事のことで余裕がなくて。」
「そんな……。」
「心配してくれていたのに、ちゃんと話せなかった。」
ミヤビはゆっくり首を振った。
「謝らないでください。」
「でも。」
「お仕事が大変なのは分かってました。」
少し間を置いて続ける。
「ただ……少しだけ寂しかったです。」
その言葉は、とても小さかった。
でも、ユウキにはしっかり届いた。
「ごめん。」
「だから謝らないでください。」
ミヤビは優しく笑う。
「無事に終わって、本当に良かったです。」
二人はベンチへ腰掛ける。
風が落ち葉を運んでいく。
「ユウキさん。」
「はい。」
「覚えてますか?」
「何を?」
「最初に会ったアニソンバー。」
「もちろん。」
「あの日、勇気を出して話しかけてくれましたよね。」
「実はすごく緊張してました。」
「え?」
「綺麗な人だなって思って。」
ミヤビは驚いたあと、照れ笑いを浮かべた。
「そんなこと思ってたんですか?」
「はい。」
「私もです。」
「え?」
「優しそうな人だなって思ってました。」
二人は顔を見合わせ、自然と笑った。
その後も、これまでの思い出を一つひとつ振り返る。
初めての飲み会。
聖地巡礼。
映画。
相合い傘。
一緒に作った肉じゃが。
夏祭り。
水族館。
誕生日。
どの思い出にも、お互いの笑顔があった。
「こんなに楽しい一年になるなんて思ってませんでした。」
ユウキが言う。
「私も。」
ミヤビはゆっくり頷く。
夕方。
難波の川沿いを歩く。
夕日が水面をオレンジ色に染めていた。
少し沈黙が流れる。
ユウキは静かに口を開く。
「ミヤビさん。」
「はい。」
「最近、気付いたことがあるんです。」
「?」
「仕事が終わったら、一番最初に話したい相手がミヤビさんなんです。」
ミヤビは足を止める。
「嬉しいことがあった時も。」
「落ち込んだ時も。」
「まず、ミヤビさんに伝えたいって思う。」
ミヤビの瞳が少し潤む。
「それって……。」
ユウキは少し照れながら笑う。
「まだ上手く言葉にできません。」
「でも。」
「ミヤビさんがいる毎日が、俺にとって当たり前になっていました。」
ミヤビは胸の前で両手を重ね、小さく微笑む。
「私も同じです。」
その言葉だけで十分だった。
今はまだ、お互い「好き」とは言わない。
けれど、その想いが同じ方向を向いていることは伝わっていた。
帰り道。
改札前で別れる。
「今日はありがとうございました。」
「こちらこそ。」
「また来週。」
「はい。」
ミヤビが改札へ向かって歩き出す。
その背中を見送りながら、ユウキは心の中でつぶやいた。
(次は、ちゃんと伝えよう。)
一方、電車に乗ったミヤビも窓の外を見ながら、小さく微笑む。
(もう少しだけ勇気を出せたら……。)
二人の心は、もう恋人になる一歩手前まで近づいていた。
次回予告 第十二話「クリスマスイブの約束」
街がイルミネーションに包まれる十二月。サークルのクリスマスパーティーが開かれることになり、交換プレゼントや楽しい時間を過ごす仲間たち。しかしパーティーの終わり、ユウキはミヤビに「少しだけ二人で話せませんか」と声をかける。胸に秘め続けてきた想いが、ついに言葉になろうとしていた――。




