表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/64

第一期 第八話 「二人きりの水族館」

挿絵(By みてみん)


夏祭りから一週間後。


 月曜日の昼休み。


 営業先から会社へ戻ったユウキは、デスクで昼食を食べながらスマートフォンを開いた。


 通知が一件。


 送り主はミヤビだった。


ミヤビ

「今度のお休み、予定ありますか?」


 ユウキはすぐに返信する。


ユウキ

「今のところ空いてますよ。」


 数秒後。


ミヤビ

「ずっと行きたかった場所があるんです。」


ミヤビ

「よかったら、一緒に行きませんか?」


ユウキ

「もちろん。」


ミヤビ

「海遊館です」


 ユウキは思わず笑みを浮かべた。


(水族館か……いいな。)


 日曜日。


 大阪港駅で待ち合わせ。


 改札を出ると、ミヤビが手を振っていた。


「おはようございます。」


「おはようございます。」


 今日は白いブラウスに、淡い青色のロングスカート。


 どこか海を思わせる爽やかな装いだった。


「今日は楽しみにしてました。」


「俺もです。」


 二人は並んで海遊館へ向かう。


 休日ということもあり、多くの家族連れやカップルで賑わっていた。


 館内へ入ると、幻想的な青い光が二人を包み込む。


「わぁ……。」


 ミヤビが目を輝かせた。


「綺麗ですね。」


 大きな水槽には、色鮮やかな魚たちがゆったりと泳いでいる。


 二人は足を止め、しばらく見入っていた。


「時間を忘れますね。」


「そうですね。」


 静かな空間が心地よかった。


 ペンギンのエリア。


 一羽のペンギンが、よちよちと歩いている。


「かわいい……。」


 ミヤビが思わず笑顔になる。


「写真撮ります?」


「お願いします。」


 ユウキがスマートフォンを受け取る。


「はい、チーズ。」


 カシャッ。


「ありがとうございます。」


「今度は一緒に撮りましょう。」


「はい。」


 近くにいたスタッフへお願いし、二人で記念写真を撮る。


 自然と肩が近づき、少し照れながら笑う。


 大水槽の前。


 巨大なジンベエザメが悠々と泳いでいた。


「すごい……。」


 二人は同時に声を漏らす。


「子どもの頃、一度だけ来たことがあるんです。」


 ミヤビが話し始めた。


「その時も、この水槽が一番好きでした。」


「そうなんですね。」


「いつか大人になって、好きな人と来たいなって思ってたんです。」


「……。」


 ユウキの胸が少しだけ高鳴る。


 ミヤビはすぐに慌てて笑った。


「あっ、深い意味じゃないですよ!」


「はは。」


「ただ、そう思い出しただけで。」


 ユウキも笑いながら頷く。


「でも、その気持ちは分かります。」


 館内のカフェで休憩する。


 窓からは海が見えていた。


「ユウキさん。」


「はい?」


「子どもの頃の夢って何でした?」


 少し考えてから答える。


「野球選手です。」


「意外です。」


「小学生までは本気でした。」


「私は……。」


 ミヤビは少し照れながら笑う。


「お嫁さんでした。」


「素敵な夢ですね。」


「でも、今思えば普通ですよね。」


「普通だからこそ、いいと思います。」


 その言葉に、ミヤビは少し嬉しそうに微笑んだ。


 帰り道。


 海辺の遊歩道を歩く。


 潮風が心地よい。


「今日は来てよかったです。」


 ミヤビが言う。


「俺もです。」


「ユウキさんといると、不思議なんです。」


「?」


「無理に話さなくても居心地がいいんです。」


 ユウキは少し照れながら笑う。


「俺も同じですよ。」


「本当ですか?」


「はい。」


 二人は歩みを止める。


 目が合う。


 少しだけ沈黙。


 どちらも何かを言いたそうだった。


 しかし、その時。


「グゥ〜。」


 ユウキのお腹が鳴った。


 一瞬静まり返る。


 そして。


「ふふっ。」


 ミヤビが吹き出した。


「ご、ごめんなさい。」


「いや……昼ご飯少なかったので。」


 二人は大笑いした。


 張りつめていた空気が一気に和らぐ。


「晩ご飯、食べて帰りませんか?」


 ミヤビが笑いながら提案する。


「ぜひ。」


 そのまま二人は近くのレストランへ向かった。


 別れ際。


「今日はありがとうございました。」


「こちらこそ。」


「また行きたい場所、いっぱいあります。」


「全部付き合いますよ。」


 その何気ない一言に、ミヤビは少し驚いたあと、優しく笑った。


「約束ですよ。」


「約束です。」


 二人は小指を絡め、小さく指切りをする。


「指切りげんまん。」


 子どものような約束だった。


 それでも、二人にとっては大切な約束になった。


 帰宅したユウキは、今日撮ったツーショット写真を見つめていた。


(最近、一緒にいるのが当たり前になってきたな。)


 その「当たり前」が、どれほど幸せなことなのか。


 まだ言葉にはできなかった。


 一方、ミヤビも写真を見ながら小さくつぶやく。


「もっと、一緒にいたいな……。」


 その想いは、もう友達という言葉だけでは隠せなくなっていた。


 二人の恋は、ゆっくりと、しかし確実に動き始めていた。

次回予告 第九話「誕生日サプライズ」


もうすぐユウキの誕生日。サークルメンバーから情報を聞いたミヤビは、感謝の気持ちを込めてサプライズパーティーを計画する。突然の祝福に戸惑うユウキ。そしてミヤビから贈られる、世界に一つだけのプレゼントとは――。二人の距離がさらに縮まる、心温まる誕生日の物語。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ