第五期 第十二話 「それぞれのありがとう」
二月。
冷たい風の中にも、少しだけ春の気配を感じる季節になった。
休日の朝。
いつものように三人で朝食を囲んでいた。
「いただきます!」
ひまりの元気な声に、ユウキとミヤビも笑顔になる。
何気ない朝。
何気ない会話。
でも、それが何より幸せだった。
朝食のあと。
ひまりは幼稚園で折ってきた折り紙を二人に見せた。
「みて!」
「ちょうちょ!」
「上手だね。」
ミヤビが優しく頭をなでる。
「せんせいがね。」
「ありがとうっていうと、みんなえがおになるよって。」
その言葉に、ユウキは静かに微笑んだ。
「本当にそうだね。」
午後。
ひまりがお昼寝をしている間。
ユウキとミヤビは温かい紅茶を飲みながら、静かな時間を過ごしていた。
「ねえ。」
ユウキが少し照れながら口を開く。
「改めてだけど。」
「ありがとう。」
ミヤビは驚いたように目を瞬かせる。
「急にどうしたの?」
「なんとなく。」
「ちゃんと伝えたくなった。」
「仕事で疲れて帰った日も。」
「ひまりが生まれて眠れなかった日も。」
「いつも隣にいてくれた。」
「だから今の俺がいる。」
ユウキは穏やかに笑った。
「本当にありがとう。」
ミヤビは少し目を潤ませながら笑う。
「私も。」
「ユウキがいてくれたから。」
「子育ても。」
「毎日の生活も。」
「一人じゃないって思えた。」
「ありがとう。」
二人は静かに手を重ねた。
その時。
寝室から小さな足音が聞こえる。
「おきた!」
ひまりが眠そうな顔でやって来た。
「おはよう。」
ミヤビが抱きしめる。
「もう、お昼だけどね。」
三人は笑った。
おやつの時間。
ひまりはクレヨンで一生懸命何かを書いている。
「できた!」
そう言って二人へ渡した。
画用紙には三人の笑顔。
そして、大きなハート。
その下には、少したどたどしい文字で、
「ぱぱ まま だいすき」
と書かれていた。
ユウキは思わず目を細める。
「ありがとう。」
「ひまり。」
ミヤビも優しく抱きしめる。
「ママも大好き。」
「パパも!」
ひまりは嬉しそうに笑った。
夕方。
三人で近所を散歩する。
梅の花が少しずつ咲き始めていた。
「もうすぐ春だね。」
ミヤビが空を見上げる。
「うん。」
ユウキもうなずく。
「ひまりも。」
「また一つお姉さんになる。」
「おおきくなる!」
ひまりは元気よく両手を広げた。
帰り道。
ひまりはユウキとミヤビの手を一本ずつ握って歩いていた。
「パパ。」
「なあに?」
「いつも。」
「おしごと、ありがとう。」
ユウキは思わず立ち止まる。
「ママ。」
「ごはん、ありがとう。」
ミヤビも目を潤ませる。
「どうしたの?」
ユウキが尋ねる。
ひまりは照れながら答えた。
「せんせいがね。」
「ありがとうは。」
「ちゃんというんだよって。」
その小さな言葉に、二人は胸がいっぱいになった。
ユウキはしゃがんで目線を合わせる。
「ひまり。」
「パパも。」
「ありがとう。」
「生まれてきてくれて。」
「ありがとう。」
ミヤビも続ける。
「毎日笑ってくれて。」
「ありがとう。」
三人は自然と抱き合った。
夜。
ひまりが眠ったあと。
ユウキはリビングのアルバムを開く。
最初のページには、アニソンバーで撮った一枚。
最後のページには、今日描いてくれた絵。
「全部つながってる。」
ユウキが静かにつぶやく。
「一つでも欠けていたら。」
「今はなかった。」
ミヤビは優しく微笑んだ。
「人生って。」
「ありがとうの積み重ねなんだね。」
「うん。」
「だから。」
「これからも。」
「何度でも伝えよう。」
「ありがとうって。」
二人は穏やかに笑い合った。
窓の外には、春を待つ夜空。
家の中には、今日も優しい笑顔があふれている。
「ありがとう」。
その一言が、この家族を何度も支え、何度も幸せにしてきた。
そして、その言葉はきっと、これから先もずっと、この家族の中心にあり続けるのだった。
次回予告 第五期 最終話「いつまでも、この幸せを」
ついにシリーズ完結。ユウキとミヤビは、初めて出会ったアニソンバー「Sirius」を家族三人で訪れる。あの日、隣の席から始まった奇跡を振り返りながら、「ありがとう」と「これからも」を語り合う、感動のフィナーレ。




