表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
60/64

第五期 第九話「ありがとう」

挿絵(By みてみん)


十一月。


 秋が深まり、街路樹の葉が赤や黄色に色づいていた。


 ある日、幼稚園のお迎えに行くと、先生が笑顔で声をかけてくれた。


「今日は、おうちで開けてくださいね。」


 先生は一つの封筒をひまりへ渡した。


 ひまりは大切そうに胸へ抱える。


「わかった!」


 ユウキとミヤビは不思議そうに顔を見合わせた。


「何だろうね。」


「お楽しみ、かな。」


 帰り道。


 ひまりは何度も封筒を見つめていた。


「まだあけちゃだめ?」


「先生がおうちでって言ってたからね。」


 ミヤビが優しく答える。


「はやくみたい!」


 その様子がおかしくて、ユウキは笑ってしまった。


 夕食を終えたあと。


 三人でリビングへ集まる。


「じゃあ。」


「開けてみようか。」


 ユウキが封筒をそっと開く。


 中から出てきたのは、一枚の画用紙だった。


 色鉛筆で描かれた三人の家族の絵。


 真ん中には大きな笑顔のひまり。


 左右には、ユウキとミヤビ。


 そして、その下には、まだ少したどたどしい文字で書かれていた。


「ぱぱ まま ありがとう」


 部屋が静かになる。


 ユウキはしばらく言葉が出なかった。


 ミヤビの目には涙が浮かんでいる。


「先生からのお手紙もあるよ。」


 画用紙の裏には、小さなメッセージが添えられていた。


『大好きな人へ、お手紙を書きました。

ひまりさんは迷わず「パパとママへ」と言って、一生懸命書いていました。』


 ミヤビは涙をぬぐいながら笑った。


「こんなの。」


「泣いちゃうよ。」


「ひまり。」


 ユウキが優しく呼ぶ。


「どうして、『ありがとう』って書いてくれたの?」


 ひまりは少し照れながら答えた。


「だって。」


「パパとママ。」


「いつも。」


「ぎゅーしてくれる。」


「いっぱいあそんでくれる。」


「だから。」


「ありがとう。」


 その言葉は短かった。


 けれど、二人の胸には何より深く響いた。


 ユウキはそっとひまりを抱きしめた。


「ありがとう。」


「パパのほうこそ。」


「ひまりが生まれてきてくれて。」


「ありがとう。」


 ミヤビも優しく抱きしめる。


「ママも。」


「毎日幸せをもらってるよ。」


 ひまりは少しくすぐったそうに笑った。


 その夜。


 三人でアルバムを開く。


 ユウキは新しいページへ今日の画用紙を大切に貼り付けた。


 タイトルを書く。


『初めてのお手紙』


 その横には、小さく日付も記した。


「これも宝物だね。」


 ミヤビが微笑む。


「うん。」


 ユウキもうなずいた。


「写真も大事。」


「動画も大事。」


「でも。」


「手紙には、その時の気持ちが残る。」


 寝る前。


 ひまりが布団へ入る。


「パパ。」


「なあに?」


「また、おてがみかくね。」


「今度は。」


「もっとじょうずに。」


 ユウキは優しく笑った。


「上手じゃなくてもいい。」


「ひまりが書いてくれたことが嬉しいんだ。」


「うん!」


 ひまりは安心したように目を閉じた。


 寝室を出たあと。


 ユウキとミヤビはリビングで、今日の画用紙をもう一度眺めていた。


「覚えてる?」


 ミヤビが静かに言う。


「アニソンバーで初めて会った日のこと。」


「もちろん。」


 ユウキは微笑む。


「あの日。」


「まさか、こんな未来になるなんて思わなかった。」


「私も。」


「でも。」


「今、この『ありがとう』がある。」


 二人は自然と笑顔になった。


「人生で。」


「一番嬉しい手紙かもしれないね。」


「うん。」


 窓の外には、静かな秋の夜空。


 リビングには、一枚の画用紙。


 そこに書かれた、たった五文字。


「ありがとう」


 その言葉は、どんな長い手紙よりも温かく、家族の心を優しく包み込んでいた。

次回予告 第五期 第十話「未来へ」


家族で過ごす穏やかな休日。ユウキとミヤビは、ひまりの成長を見守りながら、「いつか大人になっても、この家が帰って来たくなる場所でありますように」と願う。物語はいよいよ感動のクライマックスへ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ