第五期 第八話 「家族の宝物」
十月。
秋の風が窓から心地よく吹き込む休日。
朝食を終えたあと、ユウキはリビングの棚から一台のノートパソコンを取り出した。
「今日は何するの?」
ミヤビが温かいコーヒーを運びながら尋ねる。
「写真の整理。」
ユウキは少し照れくさそうに笑った。
「気づいたら、いっぱいになってた。」
「確かに。」
ミヤビも思わず笑う。
「ひまりが生まれてから、毎日写真を撮ってるもんね。」
ひまりも興味津々で隣へやって来た。
「しゃしん!」
「みる!」
ユウキはパソコンをテーブルへ置き、アルバムを開く。
一番最初に表示されたのは、一枚の懐かしい写真だった。
アニソンバー「Sirius」の前で、少し照れながら並んで立つユウキとミヤビ。
「これ。」
ひまりが首をかしげる。
「パパ?」
「うん。」
ユウキは微笑んだ。
「パパとママが初めて仲良くなった頃の写真だよ。」
「まだ、ひまりはいなかったんだ。」
「そうなの?」
ひまりは目を丸くする。
ページをめくる。
サークル「オタクっ子集まれ」の飲み会。
聖地巡礼。
夏祭り。
クリスマス。
プロポーズの日。
「ママ、きれい!」
ウェディングドレス姿のミヤビを見て、ひまりが目を輝かせた。
「ありがとう。」
ミヤビは少し照れながら笑う。
「この日はパパとママが結婚した日なんだよ。」
「けっこん。」
「家族になる約束をした日。」
ひまりは嬉しそうにうなずいた。
さらにアルバムを進める。
病院で撮った小さなエコー写真。
生まれたばかりのひまり。
退院の日。
初めて笑った日の動画。
「これ!」
ユウキが再生ボタンを押す。
画面の中で、小さなひまりが「ばあ!」に合わせて笑っている。
「わぁ!」
今のひまりも、一緒になって笑い始めた。
「ひまり、ちいさい!」
「そうだよ。」
ミヤビが優しく頭をなでる。
「パパもママも、この笑顔を見て泣いちゃったんだ。」
「なんで?」
「嬉しかったから。」
ひまりは少し考えてから微笑んだ。
午後。
三人は押し入れからアルバムも取り出した。
紙のアルバムには、コメントが添えられている。
『初めてのお花見』
『初めての家族旅行』
『初めての幼稚園』
「いっぱいあるね。」
ひまりが一枚一枚、大切そうにページをめくる。
「全部、ひまりの思い出だよ。」
ユウキが言う。
「そして。」
「パパとママの大切な思い出でもある。」
夕方。
写真を整理し終えると、ユウキは新しいフォルダを作った。
フォルダ名は――
『家族の宝物』
ミヤビが画面を見て微笑む。
「いい名前。」
「写真って。」
ユウキは静かに話し始める。
「その時の気持ちまで思い出させてくれる。」
「うん。」
「これからも。」
「いっぱい増やしていこう。」
「もちろん。」
ひまりはアルバムを抱きしめながら、小さく言った。
「ひまりね。」
「このしゃしん。」
「だいすき。」
「どうして?」
ミヤビが尋ねる。
ひまりは満面の笑みで答えた。
「みんな。」
「えがおだから!」
その一言に、ユウキとミヤビは顔を見合わせた。
「そうだね。」
ユウキは優しくうなずく。
「一番の宝物は。」
「この笑顔なんだ。」
夜。
寝る前。
ユウキはパソコンの電源を切る前に、今日撮った三人の写真を保存した。
フォルダには、また一枚新しい思い出が加わる。
タイトルは――
『家族の宝物・今日』
ミヤビが静かにつぶやく。
「特別な日じゃなくても。」
「こういう何気ない日が。」
「一番大切なんだね。」
ユウキは優しく微笑んだ。
「うん。」
「これからも。」
「何十年先も。」
「アルバムを開けば。」
「今日みたいに笑える家族でいよう。」
「約束。」
ひまりは眠そうに目をこすりながら、小さく答えた。
「やくそく。」
その小さな約束は、家族三人の未来を優しく照らしていた。
次回予告 第五期 第九話「ありがとう」
幼稚園で「大好きな人へ手紙を書こう」という授業が行われる。ひまりが初めて書いた手紙の相手は、もちろんパパとママ。たどたどしい文字で綴られた「ありがとう」に、ユウキとミヤビは思わず涙する。




