第五期 第七話 「小さな夢」
九月。
夏が少しずつ終わり、涼しい風が吹き始めた。
夕食の時間。
ひまりはいつもより少し考え込んだ表情をしていた。
「どうしたの?」
ミヤビが優しく尋ねる。
ひまりはスプーンを置いて答えた。
「ようちえんでね。」
「しょうらいのゆめ、はっぴょうするの。」
「将来の夢?」
ユウキも興味深そうに聞き返す。
「うん。」
「でもね。」
「まだきまってない。」
食後。
三人はソファに並んで座る。
「何になりたい?」
ユウキが尋ねる。
ひまりは少し考える。
「プリンセス……。」
「でも。」
「ケーキやさんもいい。」
「おはなやさんも。」
「いっぱいある。」
その真剣な表情がかわいらしくて、ユウキとミヤビは思わず笑顔になった。
翌日の休日。
三人で録画していたアニメを観る。
主人公は、人々を助ける優しい女性。
困っている人を放っておけず、仲間と協力して笑顔を届ける物語だった。
エンディングまで見終わると、ひまりはぽつりと言った。
「やさしいね。」
「うん。」
ミヤビが微笑む。
「みんなを助けていたね。」
ひまりは小さくうなずいた。
その日の夜。
お風呂から上がり、歯みがきを終える。
寝る前にユウキが絵本を読んでいると、ひまりが突然話し始めた。
「パパ。」
「なあに?」
「ゆめ。」
「きまった!」
ユウキとミヤビは顔を見合わせる。
「本当?」
「うん!」
「ひまりね。」
「みんなをえがおにするひとになる!」
二人は少し驚いた。
「みんなを笑顔にする人?」
「うん!」
「こまってるひとがいたら。」
「たすけてあげたい!」
その言葉は、幼いながらも真っすぐだった。
ユウキは優しく微笑んだ。
「素敵な夢だね。」
「仕事の名前は、これから大きくなって知っていけばいい。」
「でも。」
「誰かを笑顔にしたいっていう気持ちは、とても大切だよ。」
ミヤビもうなずく。
「ママも、その夢を応援する。」
「ありがとう!」
ひまりは嬉しそうに笑った。
数日後。
幼稚園。
順番に前へ出て、みんなが夢を発表していく。
「ケーキやさんになりたいです。」
「しょうぼうしになりたいです。」
そして、ひまりの番。
少し緊張しながらも、しっかり前を向く。
「ひまりは。」
「みんなをえがおにするひとになりたいです。」
「こまってるひとを。」
「たすけてあげたいです。」
教室には大きな拍手が響いた。
先生も優しく微笑む。
「とても素敵な夢ですね。」
ひまりは照れながら席へ戻った。
お迎えの帰り道。
「ちゃんと言えた?」
ミヤビが聞く。
「うん!」
「みんな、ぱちぱちしてくれた!」
ひまりは嬉しそうに話す。
ユウキはしゃがんで目線を合わせた。
「夢はね。」
「途中で変わってもいいんだよ。」
「え?」
「大事なのは。」
「優しい気持ちを忘れないこと。」
ひまりは少し考えてから、大きくうなずいた。
「うん!」
夜。
リビングで幼稚園から持ち帰った画用紙を見る。
そこには、大きな笑顔の絵と一緒に、先生が書いた言葉があった。
『みんなをえがおにするひとになりたいです。』
ユウキは静かにその文字を見つめる。
「立派な夢だ。」
ミヤビも微笑む。
「きっと。」
「ひまりなら、どんな道を選んでも。」
「誰かを笑顔にできる子になるね。」
寝る前。
ひまりは布団にもぐりながら小さく言った。
「パパ。」
「ママ。」
「ひまりね。」
「まずは。」
「パパとママを、いっぱいえがおにする!」
その言葉に、ユウキとミヤビは思わず笑ってしまう。
「もう十分。」
ユウキは優しく頭をなでた。
「毎日、笑顔をもらってるよ。」
ミヤビもそっと抱きしめる。
「ありがとう。」
窓の外には、秋の月が静かに輝いていた。
小さな夢は、まだ始まったばかり。
けれど、その夢を応援してくれる家族がいる限り、ひまりはきっと、自分らしい未来へ歩いていける。
次回予告 第五期 第八話「家族の宝物」
ある休日、ユウキはこれまで撮りためた家族写真や動画を整理し始める。アニソンバーでの出会い、結婚式、ひまりの誕生、初めての笑顔――思い出を振り返りながら、三人は「一番の宝物は家族なんだね」と改めて実感する。




