第五期 第六話 「夏祭りの約束」
八月。
夏休み最後の日曜日。
朝からひまりは落ち着かない様子だった。
「まだ?」
「まだ?」
リビングを行ったり来たりしている。
ユウキは思わず笑った。
「お祭りは夕方からだよ。」
「えー。」
ひまりは少しだけ頬をふくらませる。
「はやくいきたい。」
その姿を見て、ミヤビもくすっと笑った。
「じゃあ、お昼ご飯を食べたら浴衣に着替えようか。」
「やったー!」
夕方。
ひまりは小さな向日葵柄の浴衣に袖を通した。
「どう?」
くるりと一回転する。
「すごく似合ってる。」
ユウキが目を細める。
「かわいい。」
ミヤビも髪に小さな髪飾りをつけながら微笑んだ。
「今日は家族みんなで浴衣だね。」
ユウキも紺色の浴衣。
ミヤビは淡い水色の浴衣を着ていた。
三人で鏡の前に並ぶ。
「写真撮ろう。」
セルフタイマーで一枚。
笑顔いっぱいの家族写真が増えた。
夏祭りの会場は、多くの人でにぎわっていた。
屋台から漂う甘い香り。
提灯の灯り。
どこか懐かしい夏の景色。
「わぁ!」
ひまりは目を輝かせる。
「いっぱい!」
ユウキは小さな手をしっかり握る。
「迷子にならないようにね。」
「うん!」
最初に挑戦したのは金魚すくい。
ひまりは真剣な顔でポイを持つ。
「がんばれ。」
ミヤビが応援する。
そっと水面へ近づける。
しかし。
「ぽちゃん。」
ポイが破れてしまった。
「あっ。」
ひまりは少し残念そうな顔をする。
店のおじさんが笑顔で声をかけた。
「頑張ったね。」
「一匹、持って帰っていいよ。」
「ほんと?」
ひまりはぱっと笑顔になった。
「ありがとうございます!」
元気にお礼を言う姿に、おじさんも笑顔になった。
次は射的。
「パパ、やって!」
ひまりがお願いする。
「よし。」
ユウキは真剣な表情で構える。
パン!
景品のお菓子が一つ落ちた。
「やったー!」
ひまりは飛び跳ねて喜ぶ。
「パパ、すごい!」
ユウキは少し照れながら笑った。
「今日は運がよかったかな。」
屋台でかき氷を買う。
「いちご!」
ひまりは嬉しそうにスプーンを持つ。
「冷たい!」
その表情がおかしくて、ユウキとミヤビは笑ってしまう。
「ママも食べる?」
「ありがとう。」
三人で一つのかき氷を分け合う。
そんな時間が、とても幸せだった。
日が暮れると、河川敷に人々が集まり始めた。
「もうすぐ花火だ。」
ユウキが空を見上げる。
そして。
ドーン!
夜空いっぱいに大きな花火が咲いた。
「わあ……。」
ひまりは目を丸くする。
「きれい。」
赤。
青。
金色。
次々と花火が夜空を彩る。
その光景を見ながら、ユウキは静かにつぶやいた。
「そういえば。」
「昔、ミヤビと二人で夏祭りに来たことがあったね。」
ミヤビは懐かしそうに笑う。
「まだ付き合って一年くらいだった。」
「手をつなぐだけでドキドキしてた。」
「今でもドキドキするよ。」
ユウキが照れながら言う。
ミヤビは少し顔を赤らめた。
「ありがとう。」
その時。
ひまりが二人の手を一本ずつ握った。
「パパ。」
「ママ。」
「またらいねんも。」
「いっしょにこようね。」
二人は同時にうなずいた。
「もちろん。」
「毎年来よう。」
「約束。」
ひまりは満面の笑みを浮かべた。
「やくそく!」
帰り道。
夜風が心地よく吹いている。
ひまりはユウキの腕の中で眠ってしまった。
「いっぱい遊んだからね。」
ミヤビが優しく微笑む。
ユウキは眠るひまりを見つめながら言う。
「今日も宝物みたいな一日だった。」
「うん。」
「恋人だった頃。」
「夫婦になった頃。」
「そして今。」
「どの夏も幸せだった。」
「でも。」
「家族三人で見る花火が、一番きれいだった。」
ミヤビはそっとユウキの肩に寄り添う。
「これからも。」
「毎年、一緒に見よう。」
「うん。」
「約束。」
夜空には、最後の大きな花火が咲いていた。
その光は、三人の笑顔を優しく照らしていた。
次回予告 第五期 第七話「小さな夢」
幼稚園で「将来の夢」を発表することになったひまり。「プリンセスかな?」「ケーキ屋さんかな?」と悩む中、一つのアニメとの出会いが小さな夢を見つけるきっかけになる。娘の成長を見守るユウキとミヤビの心温まる物語。




