第五期 第五話 「はじめての家族旅行」
七月。
幼稚園が夏休みに入った。
朝食の時間。
ひまりはスプーンを握りながら、目を輝かせていた。
「パパ!」
「なあに?」
ユウキが笑顔で返事をする。
「どこか、おでかけしたい!」
その一言に、ミヤビが微笑む。
「実はね。」
「パパと相談して、もう決めてあるの。」
「ほんと!?」
「うん。」
ユウキがスマートフォンを見せる。
「今日は三人で、初めての家族旅行。」
「やったー!」
ひまりは椅子の上で小さく飛び跳ねた。
目的地は、海と自然が楽しめる温泉リゾート。
車の中では、ひまりがお気に入りのアニメソングを歌っている。
「♪~」
ユウキも一緒に口ずさむ。
「パパ、おうたじょうず!」
「ありがとう。」
「でもママのほうが上手かな。」
ミヤビが照れながら笑う。
「そんなことないよ。」
三人の笑い声が車内に響いた。
ホテルへ荷物を預けたあと、海辺へ向かう。
「うみ!」
ひまりは目を丸くした。
「おっきい!」
波の音に耳を澄ませ、小さな足で砂浜を歩く。
ユウキは靴を脱ぎ、ひまりと一緒に波打ち際へ行く。
「つめたい!」
波が足に触れると、ひまりは楽しそうに笑った。
「逃げろー!」
三人で波から逃げたり追いかけたり。
夏の日差しの中、時間を忘れて遊んだ。
昼食は海の見えるレストラン。
窓の外には青い海が広がっている。
「おいしい!」
ひまりは大きな口でハンバーグを頬張る。
「たくさん遊んだから、お腹がすいたね。」
ミヤビが微笑む。
「うん!」
「またあそぶ!」
元気いっぱいの返事に、ユウキも笑顔になる。
午後は水族館へ。
大きな水槽の前で、ひまりは目を輝かせた。
「おさかな!」
「いっぱい!」
色とりどりの魚が泳ぐ姿に夢中になる。
「パパ!」
「みて!」
「ニモ!」
「本当だ。」
ユウキはしゃがんで一緒に水槽を見つめる。
「映画で見たお魚だね。」
「うん!」
ひまりは嬉しそうに何度もうなずいた。
夕方。
ホテルへ戻る。
部屋の窓からは、夕日に染まる海が見えていた。
「きれい。」
ミヤビが静かにつぶやく。
「この景色。」
「新婚旅行を思い出すね。」
ユウキも懐かしそうに笑う。
「あの時は二人だった。」
「今は三人。」
二人は眠そうにあくびをするひまりを見つめた。
「家族が増えたんだね。」
「うん。」
夕食後。
三人で温泉旅館の庭を散歩する。
風鈴の音が静かに響き、夏の夜風が心地よい。
ひまりはユウキとミヤビの手を一本ずつ握って歩く。
「パパ。」
「ママ。」
「たのしいね。」
その一言だけで十分だった。
二人は笑顔でうなずく。
「うん。」
「とっても楽しい。」
夜。
布団へ入ると、たくさん遊んで疲れたひまりはすぐに眠ってしまった。
その寝顔を見ながら、ユウキが小さく話す。
「旅行っていいな。」
「思い出が増える。」
ミヤビも優しく微笑む。
「ひまりが大きくなった時。」
「アルバムを見ながら、今日の話をしようね。」
「『初めての家族旅行だったんだよ』って。」
「うん。」
窓の外では、波の音が静かに聞こえていた。
恋人として出会い。
夫婦となり。
家族になった三人。
これから先も、たくさんの景色を一緒に見て、たくさんの思い出を積み重ねていく。
それが、この家族の何よりの宝物だった。
次回予告 第五期 第六話「夏祭りの約束」
夏休み最後の日曜日。浴衣を着たひまりは、家族三人で夏祭りへ出かける。金魚すくいや花火を楽しむ中、ユウキは初めてミヤビと出会った頃の夏を思い出す。変わらない愛と、新しく増えた幸せを描く温かな物語。




