第四期 第十話 「初めての笑顔」
十一月。
ひまりが生まれて二か月が過ぎた。
少しずつ生活のリズムにも慣れ始め、ユウキとミヤビにも笑顔が戻ってきていた。
ある休日の朝。
カーテンを開けると、やわらかな朝日がリビングいっぱいに差し込む。
「おはよう。」
ユウキがベビーベッドをのぞき込む。
ひまりは目をぱちぱちと開け、小さく手を動かしていた。
「今日も元気だね。」
ミヤビも隣へやって来る。
「おはよう、ひまり。」
優しく声をかける。
朝食を終えたあと。
三人はリビングでゆっくり過ごしていた。
ユウキはプレイマットの上に寝転ぶひまりの前へ座る。
「ひまり。」
「パパですよ。」
少し大げさに手を振る。
ひまりはじっとユウキを見つめている。
「今日は営業課長じゃなくて、ひまり専属の遊び相手です。」
ミヤビが思わず吹き出す。
「今日だけじゃなくて、毎日でしょ。」
「もちろん。」
ユウキは胸を張った。
ガラガラのおもちゃをゆっくり振ってみる。
カラカラと優しい音が鳴る。
ひまりは音のする方へ顔を向け、小さな手を動かした。
「見て。」
ミヤビが嬉しそうに言う。
「ちゃんと追いかけてる。」
「本当だ。」
ユウキは目を輝かせた。
「毎日少しずつできることが増えてる。」
その時だった。
ユウキが「いないいない……」と言いながら顔を隠し、
「ばあ!」
と顔を出した瞬間。
ひまりの口元がふわっとゆるみ、はっきりと笑顔になった。
「……!」
ユウキは固まった。
「ミヤビ!」
「うん!」
二人は同時にひまりを見る。
もう一度。
「ばあ!」
ひまりはまた嬉しそうに笑った。
「笑った!」
ミヤビの目に涙が浮かぶ。
「今、ちゃんと笑ったよ!」
ユウキも思わず笑顔になる。
「俺たちを見て笑ってくれた。」
何気ない出来事だった。
でも、二人にとっては世界で一番嬉しい瞬間だった。
そのあとも、ひまりは二人の声を聞くたびに小さく笑顔を見せてくれた。
「かわいい……。」
ミヤビは優しく頬をなでる。
「こんな笑顔を見たら。」
「夜泣きも全部忘れちゃう。」
ユウキも大きくうなずく。
「本当に。」
「疲れが一瞬で吹き飛ぶ。」
昼過ぎ。
三人で近所の公園へ散歩に出かける。
ベビーカーを押すユウキ。
隣を歩くミヤビ。
木々は赤や黄色に色づき始めていた。
「いい天気。」
「うん。」
ベビーカーの中では、ひまりが気持ちよさそうに眠っている。
「今日はいっぱい笑ったね。」
ミヤビが微笑む。
「きっと楽しかったんだ。」
ユウキも優しく笑った。
帰宅後。
スマートフォンで朝に撮った動画を見る。
画面の中では、ひまりが「ばあ!」に合わせて満面の笑みを浮かべていた。
「保存しよう。」
ユウキが言う。
「一生の宝物だ。」
「バックアップも忘れずにね。」
「もちろん。」
二人は笑い合う。
夜。
ひまりを寝かしつけたあと、ソファに並んで座る。
「今日。」
ユウキが静かに口を開く。
「初めて笑ってくれた時。」
「親になれてよかったって思った。」
ミヤビはゆっくりとうなずく。
「私も。」
「この笑顔を。」
「ずっと守っていきたい。」
「うん。」
ユウキは力強く答える。
「これから先。」
「楽しいことも。」
「大変なこともある。」
「でも。」
「ひまりが安心して笑える家を、三人で作っていこう。」
「約束。」
ミヤビはそっと手を重ねた。
「約束。」
ベビーベッドでは、ひまりが安心したように眠っている。
その寝顔を見つめながら、ユウキとミヤビは静かに微笑んだ。
初めての笑顔。
それは、父と母への何より素敵な贈り物だった。
そして、その笑顔を守ることが、これからの二人の新しい夢になった。
次回予告 第四期 第十一話「初めてのクリスマス」
ひまりにとって初めてのクリスマス。小さなサンタ服を着せて写真を撮り、家族三人で穏やかな夜を過ごすユウキとミヤビ。「来年は一緒にプレゼントを開けようね」と語りかける二人に、ひまりは優しい笑顔を返す。




