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第四期 第九話 「眠れない夜も、三人で」

挿絵(By みてみん)


十月。


 ひまりが生まれて一か月。


 秋風が心地よく吹く季節になった。


 しかし、ユウキとミヤビの生活は昼と夜の区別があまりなくなっていた。


 午前二時。


「ふぇ……。」


 静かな寝室に、小さな泣き声が響く。


 ユウキはすぐに目を覚ました。


「ひまりだ。」


 隣を見ると、ミヤビもゆっくり起き上がる。


「私、抱っこするね。」


「ミルクの準備は俺がやる。」


 二人は眠そうな目をこすりながら、それぞれ動き始めた。


 リビング。


 ミヤビは優しくひまりを抱っこし、小さく揺らしている。


「大丈夫。」


「大丈夫だよ。」


 優しく語りかける声に、ひまりは少しずつ落ち着いていく。


 その間にユウキは哺乳びんを準備していた。


「温度、大丈夫かな。」


 何度も確認する。


「ちょうどいいと思う。」


 ミヤビが微笑む。


 まだ慣れない育児。


 それでも、二人で声を掛け合いながら少しずつリズムをつかみ始めていた。


 ミルクを飲み終えたひまりは、安心したように小さくあくびをした。


「かわいい。」


 ユウキが思わず笑う。


「今、笑った?」


「まだ寝ぼけてるだけかも。」


 ミヤビも笑顔になる。


 ほんの少しの表情の変化に、二人は幸せを感じていた。


 ようやく寝かしつけが終わった頃には、時計は午前三時を回っていた。


 ソファに腰掛けたユウキが、大きく息をつく。


「眠い……。」


 ミヤビも苦笑した。


「私も。」


 二人は顔を見合わせる。


 そして同時に笑ってしまった。


「こんなに寝不足なのに笑えるなんて。」


 ユウキが言う。


「不思議だね。」


「うん。」


「ひまりの顔を見ると疲れが少し飛んでいく。」


 翌朝。


 朝食の席。


 ユウキは少し眠そうだった。


「今日は在宅で資料作成の日だから助かった。」


「無理しないでね。」


「ミヤビこそ。」


「昼間、ひまりが寝たら一緒に休んで。」


「うん。」


 夫婦で予定を確認しながら、一日を組み立てていく。


 昼頃。


 タクミからメッセージが届いた。


タクミ


「夜泣き、大変だろ?」


「無理しすぎるなよ。」


「困ったらいつでも相談して。」


 そのあとには、娘を抱っこしながら眠そうにしている自撮り写真が添えられていた。


 ユウキは思わず笑う。


「先輩パパも大変なんだな。」


 ミヤビも写真を見て笑った。


「みんな同じなんだね。」


 夕方。


 ユウキは仕事を終え、エプロンをつけて夕食を作る。


「今日は俺が担当。」


「ありがとう。」


 ミヤビはその間、ひまりを抱っこしていた。


「チームプレーだね。」


「営業課長から育児課長へ異動した気分。」


 ユウキが冗談を言う。


「その部署、忙しそう。」


「残業もあるし。」


 二人は笑い合った。


 夜。


 ひまりがお風呂に入り、気持ちよさそうに眠っている。


 その寝顔を見ながら、ユウキが静かに話し始める。


「正直。」


「育児ってもっと大変なんだなって思った。」


 ミヤビは静かにうなずく。


「私も。」


「思っていた以上だった。」


「でも。」


 ユウキは優しくミヤビを見る。


「一人だったら、きっと心が折れてた。」


 ミヤビは微笑みながら答える。


「私も。」


「ユウキが夜中に起きてくれるだけで。」


「『一人じゃない』って思える。」


 二人はそっと手を重ねた。


 その時。


 ベビーベッドから小さな声が聞こえる。


「うー。」


 二人が振り向くと、ひまりが目を開けていた。


 そして、ほんの一瞬。


 口元がふわっと緩んだように見えた。


「今……。」


 ユウキが目を丸くする。


「笑った?」


 ミヤビも優しく微笑む。


「きっと。」


「パパとママの話、聞いてたのかな。」


 二人は顔を見合わせて笑った。


 眠れない夜は続く。


 慣れないことも、たくさんある。


 それでも。


 一人ではない。


 三人だから乗り越えられる。


 小さな泣き声も、小さな笑顔も。


 そのすべてが、家族の大切な思い出になっていく。

次回予告 第四期 第十話「初めての笑顔」


生後二か月を迎えたひまり。ある朝、ユウキとミヤビに向かって初めてはっきりと笑顔を見せる。その瞬間、二人は疲れも忘れて笑顔になり、「この笑顔を守っていこう」と新たな決意を胸にする。

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