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第四期 第八話 「ただいま、ひまり」

挿絵(By みてみん)


九月。


 出産から数日。


 病室の窓から差し込む朝日が、穏やかに部屋を照らしていた。


 今日は退院の日。


 ユウキは朝から何度も荷物を確認していた。


「着替え。」


「母子健康手帳。」


「おむつ。」


「おしりふき。」


「チャイルドシートの確認もした。」


 指を折りながら確認するユウキを見て、ミヤビがくすっと笑う。


「課長モードだね。」


「初めてのことだから。」


 ユウキは照れくさそうに笑った。


「忘れ物だけはしたくない。」


「大丈夫。」


 ミヤビは優しく答える。


「ひまりも一緒だから。」


 看護師から退院後の生活について説明を受ける。


「最初は無理をしすぎないこと。」


「分からないことがあれば、いつでも相談してくださいね。」


「ありがとうございます。」


 二人は深く頭を下げた。


 ひまりは小さなベビー服に包まれ、静かに眠っている。


 その寝顔を見ているだけで、自然と笑顔になった。


 病院の玄関。


 秋の風が心地よく吹いている。


「行こうか。」


 ユウキは慎重にチャイルドシートへひまりを乗せる。


 両親学級で習ったことを思い出しながら、ベルトを一本ずつ確認する。


「大丈夫そう?」


 ミヤビが尋ねる。


「うん。」


「でも、緊張する。」


「ふふっ。」


「安全運転でお願いします。」


「もちろん。」


 車の中。


 ひまりは小さな寝息を立てている。


 信号待ちでユウキはルームミラー越しに何度も後ろを見てしまう。


「ちゃんと眠ってる。」


「安心した?」


 ミヤビが笑う。


「うん。」


「でも、気になっちゃう。」


「私も。」


 二人は顔を見合わせて微笑んだ。


 新居へ到着。


 玄関のドアを開ける。


「ただいま。」


 ユウキが静かに言う。


 ミヤビも優しく続けた。


「ただいま。」


 そして、ひまりへ語りかける。


「ひまり。」


「ここがおうちだよ。」


 リビングには、以前組み立てたベビーベッドが待っていた。


 ユウキはそっとひまりを寝かせる。


「やっと使う日が来たね。」


「うん。」


 ミヤビの目には、うっすら涙が浮かんでいた。


 昼過ぎ。


 インターホンが鳴る。


「こんにちは!」


 やって来たのは、ユウキの両親とミヤビの両親だった。


「退院おめでとう。」


「ありがとう。」


 祖父母になった四人は、ひまりの寝顔を見て目を細める。


「小さいねぇ。」


「かわいい。」


「ユウキが生まれた時を思い出す。」


 ユウキの母が懐かしそうに笑う。


「ミヤビも赤ちゃんの頃は、こんなふうによく寝てたのよ。」


 ミヤビの母も微笑んだ。


 部屋は温かな笑い声に包まれる。


 夕方。


 両親を見送ったあと、部屋は再び静かになった。


 その静けさを破るように、小さな泣き声が聞こえる。


「ふぇ……。」


「起きた。」


 ミヤビが優しく抱き上げる。


 ユウキは慌てて哺乳びんやガーゼを用意する。


「これで合ってる?」


「ありがとう。」


 二人で声を掛け合いながら、少しずつお世話をしていく。


 まだ慣れない。


 それでも、二人でなら乗り越えられる気がした。


 夜。


 ひまりが眠ったあと、ユウキとミヤビはソファへ腰掛けた。


「今日はあっという間だった。」


 ユウキが大きく息をつく。


「うん。」


「でも。」


 ミヤビはベビーベッドを見つめながら微笑む。


「家がもっと温かくなった気がする。」


「俺もそう思う。」


 ユウキは静かにうなずく。


「恋人の時も。」


「夫婦になった時も幸せだった。」


「でも。」


「今日から始まる幸せは、また少し違う。」


「家族三人の幸せだね。」


「うん。」


 眠る前。


 ベビーベッドの中では、ひまりが安心したように眠っていた。


 ユウキはそっとベッドのそばへ立つ。


「ひまり。」


「おかえり。」


「今日から、ここが君の家だよ。」


 ミヤビも隣に立ち、小さく微笑む。


「たくさん笑って。」


「たくさん遊んで。」


「元気に大きくなろうね。」


 二人は顔を見合わせ、そっと手をつないだ。


 恋人として始まった物語は、今、新しい家族の物語へと歩みを進めている。


 小さな命とともに過ごす毎日は、きっとこれからも、かけがえのない思い出で満ちていくのだった。

次回予告 第四期 第九話「眠れない夜も、三人で」


夜泣きが始まり、睡眠不足になるユウキとミヤビ。戸惑いながらも交代でひまりをあやし、「一人じゃないから頑張れる」と支え合う二人。大変だけれど、愛おしい新米パパとママの毎日が描かれる。

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