第四期 第七話 「赤ちゃんとの初めての対面」
九月。
出産予定日まで、あと数日。
新居のリビングには、小さなベビーベッドが静かに置かれていた。
棚には絵本。
小さな洋服。
ぬいぐるみ。
赤ちゃんを迎える準備は、ほとんど整っていた。
「もうすぐだね。」
ミヤビがお腹を優しくなでる。
「うん。」
ユウキも穏やかに微笑む。
「会えるのが楽しみだ。」
その夜。
夕食を終え、二人で録画していたアニメを見ていると、ミヤビが小さく息をのんだ。
「……あ。」
ユウキがすぐに振り向く。
「どうした?」
「少し、お腹が痛い。」
「大丈夫?」
ミヤビはゆっくり呼吸を整える。
「まだ我慢できるけど……。」
しばらく様子を見ていると、一定の間隔で痛みがやってきた。
「もしかして。」
二人は顔を見合わせる。
「陣痛……かな。」
病院へ連絡すると、助産師が落ち着いた声で案内してくれた。
「すぐに来院してください。」
「分かりました。」
ユウキは入院バッグを持ち、ミヤビを気遣いながら病院へ向かう。
「ゆっくりでいい。」
「焦らなくて大丈夫。」
「うん。」
ミヤビはうなずき、一歩ずつ歩いた。
病院へ到着すると、すぐに診察が行われた。
「陣痛が始まっていますね。」
医師が穏やかに説明する。
「もう少しで赤ちゃんに会えますよ。」
その言葉に、ユウキの胸は高鳴った。
長い時間が流れる。
ユウキはミヤビの手をしっかり握っていた。
「大丈夫。」
「呼吸を合わせよう。」
「うん……。」
痛みの波が来るたびに、ミヤビは懸命に呼吸を整える。
ユウキは何度も励ましの言葉をかけ続けた。
「頑張れ。」
「もう少し。」
「赤ちゃんも頑張ってる。」
そして――。
静かな分娩室に、小さく力強い産声が響いた。
「おぎゃあ!」
その瞬間、時間が止まったように感じた。
ユウキは思わず目を潤ませる。
「生まれましたよ。」
助産師が優しく微笑む。
「元気な女の子です。」
ミヤビは涙を流しながら笑っていた。
「会えた……。」
その一言に、たくさんの想いが込められていた。
助産師が赤ちゃんをそっとミヤビの腕へ抱かせる。
小さな手。
小さな指。
穏やかな寝顔。
「こんにちは。」
ミヤビは優しく話しかける。
「よく頑張ったね。」
ユウキも隣へ近づく。
「抱っこしてみますか?」
助産師に勧められ、ゆっくりと赤ちゃんを受け取る。
両親学級で何度も練習した抱っこ。
でも、本物はまったく違った。
温かい。
軽い。
そして、かけがえのない存在だった。
「……。」
言葉にならない。
涙が静かに頬を伝う。
「ありがとう。」
ユウキは赤ちゃんへ、そしてミヤビへ優しく言った。
「二人とも、本当にありがとう。」
病室へ戻ると、窓から朝日が差し込んできた。
新しい一日の始まり。
そして、新しい家族の始まり。
「名前。」
ミヤビが小さく笑う。
「前に話していた候補の中から決めようか。」
「そうだね。」
二人は以前から考えていた名前をもう一度口にする。
「ひまり。」
ユウキが優しく言う。
「太陽みたいに周りを明るく照らして。」
「温かい心を持った子になりますように。」
ミヤビは何度もうなずいた。
「うん。」
「今日から、この子は『ひまり』。」
数時間後。
双方の両親やサークル「オタクっ子集まれ」の仲間たちへ出産の報告を送る。
ユウキ
「本日、元気な女の子が生まれました。
母子ともに元気です。」
すぐに祝福のメッセージが次々と届く。
タクミ
「おめでとう!!」
ユイ
「ひまりちゃんに会える日が楽しみ!」
リク
「ユウキ、ついにパパだな!」
スマートフォンを見ながら、ユウキは嬉しそうに笑った。
病室には、穏やかな時間が流れていた。
ミヤビの腕の中で眠る、ひまり。
その隣には、優しく見守るユウキ。
恋人として出会い。
夫婦となり。
そして今日、二人は父と母になった。
小さな命が加わったことで、この家族の物語は、また新しい一ページをめくるのだった。
次回予告 第四期 第八話「ただいま、ひまり」
退院の日を迎えたユウキ、ミヤビ、そしてひまり。初めて三人で帰る我が家には、家族みんなの笑顔が待っていた。慣れない育児に戸惑いながらも、少しずつ「家族」としての毎日が始まる。




