第四期 第六話 「初めての両親学級」
八月。
夏の日差しが照りつける土曜日。
今日は病院で開催される両親学級の日だった。
ユウキは朝から少し落ち着かない。
「営業の研修より緊張するかも。」
苦笑しながら靴を履く。
その様子を見たミヤビが、くすっと笑った。
「そんなに?」
「だって、お父さんの勉強だから。」
「ふふっ。」
「一緒に頑張ろう。」
「もちろん。」
二人は笑顔で家を出た。
病院の会議室には、十組ほどの夫婦が集まっていた。
助産師が穏やかな笑顔であいさつをする。
「本日はご参加ありがとうございます。」
「今日は赤ちゃんのお世話について、一緒に体験していきましょう。」
机の上には、新生児サイズの人形が並べられていた。
最初は抱っこの練習。
「首をしっかり支えてくださいね。」
助産師が手本を見せる。
ユウキは慎重に人形を持ち上げる。
「……。」
ぎこちない。
まるで壊れ物を持つような手つきだ。
「課長、商談より慎重ですね。」
隣の参加者が冗談を言うと、会場に笑いが広がる。
ユウキも照れながら笑った。
「失敗できないですから。」
ミヤビも思わず吹き出す。
「その抱っこじゃ赤ちゃんより緊張してるよ。」
「そう見える?」
「うん。」
二人は笑い合った。
助産師が優しくアドバイスする。
「お父さんも最初は皆さん同じですよ。」
「赤ちゃんは、お父さんの温かさもしっかり感じています。」
その言葉を聞いて、ユウキの表情が少し柔らかくなった。
もう一度抱っこしてみる。
「……こうかな。」
「うん。」
ミヤビが優しくうなずく。
「さっきより自然。」
続いて、おむつ替えの体験。
「テープはきつすぎず、ゆるすぎず。」
説明を受けながら二人で挑戦する。
「前と後ろ、逆じゃない?」
ミヤビが笑う。
「あ、本当だ。」
ユウキは慌ててやり直す。
「本番までに練習しないとな。」
「赤ちゃんは待ってくれないもんね。」
そんなやり取りに、また笑顔が広がった。
途中、休憩時間。
二人は病院のラウンジで冷たいお茶を飲む。
「思ったより難しい。」
ユウキが正直に言う。
「でも。」
「少し楽しくなってきた。」
ミヤビは嬉しそうに微笑む。
「私も。」
「一緒に覚えていけばいいんだよ。」
「うん。」
「完璧じゃなくても。」
「二人で協力すれば大丈夫。」
その言葉に、ユウキは安心したように笑った。
午後は沐浴の実習。
赤ちゃんの人形を使って、お風呂の入れ方を学ぶ。
「頭を支えて。」
「ゆっくりお湯をかけます。」
ユウキは真剣な表情で人形を支える。
「こう?」
「上手ですよ。」
助産師に褒められ、少し照れくさそうに笑う。
「営業課長より、お父さん一年生ですね。」
ミヤビが笑う。
「新人だからね。」
「でも、頑張る。」
「うん。」
「一緒に頑張ろう。」
帰り道。
夕焼けが街をオレンジ色に染めていた。
「今日は勉強になったね。」
ミヤビが言う。
「知らないことばかりだった。」
ユウキもうなずく。
「でも。」
「知らないから怖いんじゃなくて。」
「知っていけばいいんだな。」
「そうだね。」
二人はゆっくり歩く。
家へ帰ると、ベビーベッドが静かに迎えてくれた。
ユウキは人形を抱っこした時のことを思い出しながら笑う。
「本物はもっと軽いのかな。」
「もっと小さいかも。」
ミヤビも微笑む。
「でも。」
「きっと抱っこした瞬間。」
「今日とは比べものにならないくらい感動するよ。」
ユウキは静かにうなずいた。
「早く会いたいな。」
その夜。
眠る前。
ミヤビのお腹にそっと手を添えると、小さく赤ちゃんが動いた。
「今日、お父さん頑張ってたよ。」
ミヤビが優しく話しかける。
「まだまだ練習中だけどね。」
ユウキが笑う。
「でも。」
「君が安心できるお父さんになれるように頑張る。」
静かな寝室に、穏やかな笑い声が響く。
父と母になる日は、もう少し先。
けれど二人は、その日へ向けて、一歩ずつ確かに歩み続けていた。
次回予告 第四期 第七話「赤ちゃんとの初めての対面」
出産予定日が近づき、期待と少しの緊張の中で過ごすユウキとミヤビ。ある夜、突然始まる陣痛。病院へ急ぐ二人の前に、いよいよ新しい家族との出会いの瞬間が訪れる。




