第三期 第八話 「独身最後の夜」
八月。
夏空が広がる朝。
結婚式を翌日に控えたユウキとミヤビは、それぞれの実家へ向かっていた。
「結婚式の前日は、それぞれ家族と過ごそう。」
そう話し合って決めた約束だった。
ユウキの実家。
玄関を開けると、母が笑顔で迎えてくれた。
「おかえり。」
「ただいま。」
「明日はいよいよね。」
「うん。」
リビングへ入ると、父が新聞をたたみながら笑った。
「主役が来たな。」
「やめてよ。」
ユウキは照れくさそうに笑う。
夕食は、ユウキの好物が並んでいた。
煮物。
焼き魚。
味噌汁。
子どもの頃から変わらない味だった。
「久しぶりだ。」
ユウキがほっとした表情を見せる。
「明日は忙しくなるからね。」
母が優しく微笑む。
「今日はゆっくり食べて。」
三人で囲む食卓。
何気ない会話。
テレビの音。
そのすべてが、懐かしく感じられた。
食後。
父と二人で庭へ出る。
夏の夜風が心地よい。
「ユウキ。」
父が静かに口を開く。
「結婚、おめでとう。」
「ありがとう。」
「小さい頃は、こんな日が来るなんて想像もしなかった。」
「俺も。」
二人は笑う。
「これからは、自分の家庭を守る立場になる。」
「うん。」
「無理をしすぎるな。」
「困った時は、一人で抱え込まず、ちゃんと話し合うんだ。」
ユウキは真剣な表情で頷いた。
「分かった。」
「ありがとう。」
一方その頃。
ミヤビも実家で母と夕食の準備をしていた。
「最後の親子料理かな。」
母が笑う。
「そんな言い方しないで。」
ミヤビも照れながら笑う。
「結婚しても、また帰ってくるよ。」
「もちろん。」
「でも。」
「明日からは、帰る場所が一つ増えるのね。」
その言葉に、ミヤビは静かに頷いた。
夕食後。
ミヤビは父と縁側へ座る。
虫の声が静かに響く。
「緊張してるか?」
父が尋ねる。
「少しだけ。」
「でも。」
「楽しみの方が大きいかな。」
父は嬉しそうに笑った。
「いい顔をしてる。」
「ユウキ君と出会ってから、本当によく笑うようになった。」
「そうかな。」
「うん。」
「安心して送り出せる。」
ミヤビは目を潤ませながら笑った。
「ありがとう。」
夜。
それぞれの部屋。
ユウキは子どもの頃のアルバムを開いていた。
運動会。
卒業式。
家族旅行。
ページをめくるたびに、たくさんの思い出がよみがえる。
「ここまで育ててくれたんだな。」
小さくつぶやいた。
ミヤビも、自室の机を整理していた。
学生時代のノート。
部活動の写真。
卒業アルバム。
そして、一年前にもらったユウキからのメッセージカード。
「ここから新しい人生が始まる。」
そう思うと、不思議と怖さはなかった。
眠る前。
二人のスマートフォンが同時に光る。
ユウキ
「今日はありがとう。」
「明日、よろしく。」
ミヤビは微笑みながら返信する。
ミヤビ
「こちらこそ。」
「明日、一番幸せな日にしようね。」
すぐに返事が届く。
ユウキ
「もちろん。」
たった一言。
それだけで十分だった。
夜空には満天の星が輝いていた。
家族への感謝。
仲間への感謝。
そして、お互いへの感謝。
さまざまな想いを胸に抱きながら、二人は静かに眠りにつく。
明日になれば、恋人でも婚約者でもなく、「夫婦」として新しい人生が始まる。
その一歩を踏み出す朝は、もうすぐそこまで来ていた。
次回予告 第三期 第九話「結婚式」
ついに迎えた結婚式当日。純白のウェディングドレスに身を包むミヤビ、緊張しながらも笑顔で待つユウキ。そしてサークル「オタクっ子集まれ」の仲間たちが用意した感動のサプライズ。二人が夫婦となる、人生で最も幸せな一日が幕を開ける。




