第一期 第三話 「二人だけの聖地巡礼」
飲み会から一週間。
サークル「オタクっ子集まれ」のグループチャットは、毎日のように通知が鳴っていた。
「今期アニメ三話、神回だった!」
「劇場版の特典情報出ました!」
「来月のアニメイトフェア行く人?」
仕事の合間に通知を見るたび、ユウキは自然と笑みを浮かべていた。
十年間、アニメは一人で楽しむものだった。
それが今では、「誰かと語れる趣味」になっていた。
その変化は思っていた以上に大きかった。
金曜日の夜。
仕事を終え、自宅へ戻ったユウキがスーツを脱いでいると、スマートフォンが震えた。
送り主はミヤビだった。
お疲れさまです♪
急なんですが、来週の日曜日って空いてますか?
ユウキはすぐに返信する。
空いてますよ。
数秒後。
実は、一緒に行きたい場所があって……
○○坂って知ってますか?
ユウキは思わず立ち上がる。
あのアニメ『春色メモリーズ』のモデルになった場所ですか?
はい!
一緒に聖地巡礼しませんか?
そのメッセージを見て、ユウキは少しだけ胸が高鳴った。
(……二人で?)
サークルのみんなではなく、二人だけ。
少しだけ意識してしまう。
それでも。
喜んで。
そう返信すると、
すぐにかわいらしい笑顔のスタンプが返ってきた。
日曜日。
雲ひとつない快晴。
待ち合わせは大阪駅。
ユウキが十分前に到着すると、改札の前にはミヤビが立っていた。
白いワンピースに薄いベージュのカーディガン。
休日らしい柔らかな服装だった。
「お待たせしました!」
「いや、俺も今来たところです。」
ミヤビは少し照れたように笑う。
「今日はよろしくお願いします。」
「こちらこそ。」
二人は電車に乗り込み、目的地へ向かった。
「実はこの作品、高校生の頃に見たんです。」
窓の外を眺めながらミヤビが話し始める。
「落ち込んでた時期だったんですけど、この作品にすごく救われて。」
「そうだったんですね。」
「だから一度、本当に来てみたかったんです。」
ユウキも頷く。
「俺も仕事が辛かった新人時代、この作品を何回も見返しました。」
「そうだったんですか?」
「何度も。」
二人は顔を見合わせて笑う。
好きになった理由まで似ていた。
坂道の途中。
「ここ!」
ミヤビが嬉しそうに指差した。
「主人公とヒロインが初めて会った場所です!」
そこにはアニメで見たままの景色が広がっていた。
「本当にそのままだ……。」
ユウキも思わず感動する。
二人はスマホを取り出し、同じ構図で写真を撮る。
「ここ、主人公が転ぶシーンですよね。」
「そうそう!」
「ヒロインが手を差し伸べるんですよ。」
二人は笑いながらアニメのワンシーンを再現してみる。
通りすがりの観光客が微笑ましそうに見ていた。
昼食は近くのカフェ。
「美味しいですね。」
「ここも作品に出てきました。」
ミヤビは本当に楽しそうだった。
普段よりも表情が豊かで、よく笑う。
ユウキはそんな姿を見ながら思う。
(今日は今までで一番笑ってるな。)
帰り道。
夕日が街をオレンジ色に染めていた。
「今日は付き合ってくださって、本当にありがとうございました。」
ミヤビは小さく頭を下げる。
「俺も楽しかったです。」
「また別の聖地にも行きたいですね。」
「ぜひ。」
その時だった。
歩道の段差でミヤビの足が少しだけもつれた。
「きゃっ……!」
とっさにユウキが手を伸ばす。
ミヤビの腕を優しく支えた。
「大丈夫ですか?」
「あ……。」
二人の距離が、一気に近づく。
お互いの表情がはっきり見えるほど近い。
ミヤビは少し頬を赤くしながら微笑んだ。
「ありがとうございます。」
「いえ。」
ユウキも少し照れてしまい、ゆっくり手を離した。
しばらく二人とも何も話せなかった。
駅で別れたあと。
ユウキは帰りの電車で今日撮った写真を見返していた。
景色の写真。
料理の写真。
そして。
二人で笑いながら撮った記念写真。
(また行きたいな。)
その気持ちは、趣味の仲間としてだけでは説明できないものになり始めていた。
一方、帰宅したミヤビもスマートフォンを見つめながら、小さくつぶやく。
「ユウキさんといると……安心する。」
まだ、お互いに恋だとは気づいていない。
しかし、その想いは確かに少しずつ育ち始めていた。
次回予告 第四話「初めての映画デート?」
サークルメンバーと観る予定だったアニメ映画。しかし急な仕事や体調不良で次々とキャンセルが続き、参加者はユウキとミヤビの二人だけに。二人は映画を楽しんだあと、お互いの恋愛観について少しずつ語り始める。気まずさとときめきが入り混じる一日が、二人の関係をさらに一歩前へ進めていく。




