第三期 第一話 「新しい一歩」
二月。
冬の澄んだ空気の中、ユウキは左手の薬指にはめたペアリングを見つめながら会社へ向かっていた。
婚約してから一週間。
何かが劇的に変わったわけではない。
それでも、心の中には以前にはなかった安心感があった。
(帰ったら、ミヤビに今日の出来事を話そう。)
そう思うだけで、自然と足取りが軽くなる。
一方、ミヤビも出勤前に鏡の前へ立っていた。
薬指で静かに輝くペアリング。
思わず頬が緩む。
「おはよう。」
スマートフォンには、ユウキから毎朝届く短いメッセージ。
ユウキ
「今日も一日頑張ろう。」
ミヤビは笑顔で返信する。
ミヤビ
「うん。いってきます。」
婚約しても、二人の日常は変わらない。
だからこそ、その日常が何より愛おしかった。
その週末。
二人は難波のカフェで向かい合って座っていた。
テーブルの上にはノートが一冊。
「今日は作戦会議。」
ユウキが笑う。
「何の?」
ミヤビも笑顔になる。
「結婚までにやること。」
「そうだった。」
二人はノートを開き、一つずつ書き始める。
・両家へ正式なあいさつ
・新居探し
・結婚式について相談
・入籍日の候補
・新婚旅行
「結構あるね。」
ミヤビが苦笑する。
「一つずつ進めよう。」
「うん。」
ユウキは穏やかに頷いた。
「まずは新居かな。」
ユウキが言う。
「難波の近くがいい?」
「通勤しやすい場所がいいな。」
「私も。」
「それと。」
ミヤビは少し照れながら笑う。
「本棚は大きいのが欲しい。」
「アニメとライトノベルで埋まりそう。」
「絶対埋まる。」
二人は声を上げて笑った。
昼食を終えたあと、不動産会社へ向かう。
以前モデルルームを見学したことを思い出しながら、いくつか物件を紹介してもらう。
「二人暮らしなら、このくらいの広さがおすすめですね。」
担当者が図面を広げる。
対面キッチン。
広めのリビング。
書斎にも使える小さな部屋。
ユウキとミヤビは顔を見合わせた。
「ここ……。」
「いいね。」
まだ契約はしない。
それでも、少しずつ未来が形になっていくのを感じていた。
夕方。
二人は近くの家具店へ立ち寄る。
「ソファはどうする?」
「映画を観るなら大きめがいい。」
「テレビも少し大きくしたい。」
「休日はアニメ鑑賞会だね。」
「毎週開催。」
そんな他愛ない会話が楽しかった。
帰り道。
夕焼けに染まる街を歩く。
「ユウキ。」
「うん?」
「婚約してからね。」
「未来が少しずつ現実になってきた気がする。」
ユウキは静かに頷く。
「俺も。」
「今までは『いつか』だった。」
「でも今は『これから』なんだ。」
ミヤビは嬉しそうに微笑んだ。
駅へ向かう途中。
ユウキは足を止める。
「ミヤビ。」
「うん?」
「これから準備で忙しくなると思う。」
「でも。」
「一つだけ約束してほしい。」
「何?」
「忙しくても、一緒にご飯を食べる時間は大切にしよう。」
「疲れた日は無理をしない。」
「ちゃんと話し合う。」
「笑うことを忘れない。」
ミヤビは何度も頷いた。
「約束。」
「私も一つお願い。」
「うん。」
「何か悩んだら、一人で抱え込まないで。」
「ちゃんと半分、私にも持たせて。」
ユウキは優しく笑った。
「ありがとう。」
「これからは夫婦になる準備だからね。」
「一人じゃなくて、二人で。」
「うん。」
その夜。
帰宅したユウキは、今日書いた「やることリスト」を机の上へ置いた。
その隣には、ミヤビとの写真。
そして薬指のペアリング。
一歩ずつ。
焦らずに。
二人らしいペースで未来を築いていこう。
そう心に誓う。
一方、ミヤビも部屋で新しいノートを開いた。
一ページ目には、大きくこう書く。
『結婚準備ノート』
その文字を見て、小さく笑う。
「楽しみだな。」
恋人から婚約者へ。
そして、その先に待つ「夫婦」という新しい未来へ向かって、二人はまた一歩、歩き始めた。
次回予告 第三期 第二話「両家顔合わせ」
ユウキとミヤビは、両家の家族が初めて集まる食事会を開くことに。それぞれ少し緊張しながら迎えた当日だったが、アニメという意外な共通の話題をきっかけに、和やかな時間が流れ始める。二つの家族が一つの縁で結ばれる、心温まる一日。




