第二期 第六話 「ユウキの実家へ」
六月。
梅雨の晴れ間が広がる日曜日。
ユウキは朝から少し落ち着かない様子だった。
鏡の前で何度も服装を確認し、時計を見ては深呼吸を繰り返している。
「……営業の商談より緊張するな。」
思わず独り言が漏れる。
今日はミヤビを、自分の実家へ連れて行く日だった。
待ち合わせ場所である難波駅前。
ミヤビは小さな紙袋を抱えて立っていた。
「おはよう。」
ユウキが声をかける。
「おはよう。」
ミヤビは少し緊張した笑顔を見せた。
「やっぱり緊張する?」
「うん。」
「ご両親に気に入ってもらえるかなって。」
ユウキは優しく笑う。
「大丈夫。」
「父さんも母さんも、ミヤビに会えるのを楽しみにしてる。」
「そうだといいな。」
二人は電車に乗り込み、ユウキの実家へ向かった。
実家は大阪府内の住宅街にあった。
庭には季節の花が咲き、小さな家庭菜園もある。
「ここが実家なんだ。」
「うん。」
インターホンを押すと、すぐに玄関が開いた。
「いらっしゃい!」
笑顔で迎えてくれたのはユウキの母だった。
「初めまして。」
ミヤビは丁寧に頭を下げる。
「ミヤビと申します。本日はお招きいただき、ありがとうございます。」
「そんなにかしこまらなくていいのよ。」
母は優しく笑った。
その後ろから父も顔を出す。
「ようこそ。」
「初めまして。」
ユウキの父は穏やかな笑顔で二人を迎え入れた。
リビングでは、テーブルいっぱいに手料理が並んでいた。
「すごい……。」
ミヤビが思わず声を漏らす。
「今日は腕によりをかけたの。」
母が笑う。
「ユウキは昔からよく食べる子だったから。」
「母さん、その話はいいって。」
「照れてる。」
家族みんなが笑った。
最初は緊張していたミヤビも、その温かい雰囲気に少しずつ表情が柔らかくなっていく。
昼食を終えると、母が棚から一冊のアルバムを持ってきた。
「これ、見て。」
「えっ。」
ユウキが慌てる。
「やめようよ。」
「いいじゃない。」
母は楽しそうにアルバムを開いた。
「わぁ。」
ミヤビが目を輝かせる。
「小さい頃のユウキ?」
そこには、幼稚園の運動会で転んで泣いている写真や、大きなランドセルを背負って入学式に立つ写真が並んでいた。
「かわいい。」
ミヤビは思わず笑う。
「今と面影ある。」
「勘弁して……。」
ユウキは耳まで赤くなっていた。
「この写真なんて。」
父が指差す。
「ヒーローアニメに夢中で、毎日変身ポーズをしていた頃だ。」
「本当?」
ミヤビは楽しそうにユウキを見る。
「秘密にしておきたかった。」
「ふふっ。」
その照れた表情が、ミヤビには新鮮で愛おしく感じられた。
午後。
庭でお茶を飲みながら、母がミヤビへ話しかける。
「ユウキは昔から責任感が強い子なの。」
「何でも一人で抱え込んじゃうところがあるから。」
ミヤビは静かに頷く。
「私も、そう思います。」
「だから。」
母は優しく微笑む。
「これからも、たまには頼っていいんだよって伝えてあげてね。」
その言葉に、ミヤビはしっかり頷いた。
「はい。」
「私も支えられるように頑張ります。」
帰る時間になり、玄関で見送ってもらう。
「今日は本当にありがとうございました。」
ミヤビが深く頭を下げる。
「こちらこそ来てくれてありがとう。」
母が手を握る。
「またいつでも遊びに来てね。」
「はい。」
父も穏やかに言った。
「二人とも、体を大事にな。」
「ありがとうございます。」
ユウキとミヤビはそろって頭を下げた。
駅へ向かう帰り道。
少し歩いたところで、ミヤビが笑った。
「今日ね。」
「うん?」
「ユウキが愛されて育ったことが、すごく伝わってきた。」
ユウキは照れくさそうに笑う。
「そうかな。」
「うん。」
「だから今のユウキがいるんだね。」
その言葉に、ユウキは少し立ち止まる。
「ありがとう。」
「私も今日、お父さんとお母さんに会えて嬉しかった。」
「俺も。」
「ミヤビが来てくれて、本当に良かった。」
二人は自然と手をつなぐ。
家族という存在が少しずつ重なり始めた一日。
未来への距離は、また一歩近づいていた。
次回予告 第二期 第七話「一緒に暮らす未来」
ある休日、不動産会社の前を通りかかった二人。「見るだけなら」と軽い気持ちでモデルルームを見学することに。新しい生活を想像しながら歩く部屋の中で、二人は「いつか一緒に暮らしたい」という気持ちを、少しずつ確かなものにしていく。




