第94話:激突 その4
「相変わらずとんでもねぇな…。もう攻城兵器だろ」
巨大な杖を肩に担いだレーヴァが、半分呆れたようなため息をついた。
「俺にはこの攻撃魔法しか、まともに使えないからな」
ウルノラが、どこか残念そうに笑みを浮かべて答える。
土煙の中から、二人が悠々と歩いて出てきた。
「相変わらずデタラメな威力ね」
防壁の上から見下ろしていたキーニルが、引きつった笑いを浮かべる。
「すっげえ……!さすがはギルドマスター!今のは第五階梯ですか!?いや、あの破壊力なら第六階梯の大魔術ですかね!?」
彼女の隣にいた若いスペルキャスターの声が弾む。
顔を紅潮させ、ウルノラに尊敬の眼差しを向けている。
そんな彼を、キーニルは憐れむような横目で一瞥した。
「……第一よ」
「え?」
「あれはただの【ロックバレット】。第一階梯魔法よ」
「……はははっ!冗談はやめてくださいよ。あんな隕石みたいなのが、第一階梯なわけないじゃないですか」
青年は愛想笑いを浮かべる。
しかし、キーニルは一切笑わずに首を振った。
「う、嘘ですよね……?」
救いを求めるように周囲を振り返る。
しかし、歴戦のスペルキャスターも、ハンターたちも、誰一人として笑っていなかった。
ただ無言で、ゆっくりと首を振る。
若い青年の顔からスッと笑顔が剥がれ落ち、血の気が引いていった。
同じようなやり取りが、地上でも起こっていた。
「……久々にギルドマスターのロックバレットを見たぜ。相変わらずとんでもねぇ…」
「さすがは『城落とし』の二つ名を持つだけはある。あれ一発で、戦況がひっくり返っちまった」
「どうやったら、あんなバカげた質量の岩になるんだよ……」
絶望に支配されかけていた冒険者たちが、信じられないものを見たという顔で色めき立つ。
「あれが……ロックバレットだと!?」
最前線で剣を構えていたドーザも、目を大きく見開いて驚愕していた。
土の第一階梯魔法——ロックバレット。
それは土魔法を使うようになるため、子供が一番最初に覚える魔法。
確かに威力はあるものの、大きくても拳大の大きさの石が飛ぶのが普通だ。
それがなぜ、攻城兵器の投石機から放たれたような岩に変貌するのか。
「お、騎士さんが腰抜かして驚いてるぜ」
「久々にその顔を見たな。ギルマスのあれを初めて見た奴は、みんなそういう顔になるんだよ」
極度の緊張状態だった戦場に、不謹慎ともいえる笑い声が響く。
圧倒的な暴力を見せつけられたことで、冒険者たちを縛っていた恐怖という名の枷が外れたのだ。
「特殊なラーヴァ・トードは俺がやる!他の者はもう一度陣形を立て直せ!ひるむな!」
ウルノラの野太い声が、風魔法による拡声なしでも戦場全体に響き渡った。
「「「おおおおおっ!!」」」
地を揺るがすような雄叫び。
一気に士気が跳ね上がる。
「おいおい、あたしも混ぜろよ」
その声とともに、レーヴァが一瞬で前線へと躍り出た。
蛇が巻き付き鎌首を上げている装飾が施された、聖と邪が一体となったような巨大な杖。
それが、空気を切り裂いてうなりを上げる。
レーヴァは、オークの顔面をフルスイングした。
ボッという重い打撃音。
殴られたオークは、頭蓋骨を粉砕されながら、ピンボールのように後方の魔物の群れへと弾き飛ばされていく。
即座に他の魔物に追撃。
一瞬で間合いに入るスピードに、魔物たちは全く反応できずにいた。
顔面を殴る。
頭を殴る。
ひたすらに、殴る。
殴りまくる。
彼女が杖を振り抜くたびに、強靭な肉体を持つはずの魔物たちが、まるでボロ布のように弾け飛んだ。
聖女とは思えない、あまりにも暴力的な肉弾戦。
そして、杖にあしらわれた蛇の口内に、まばゆい光の粒子が収束し始めた。
「第四階梯魔法——【スクラープ・ベルク】!!」
レーヴァの叫びとともに、極太の光線が放たれた。
それは、熱線だった。
圧倒的な高熱を伴う光の線が、魔物の体を貫く。
その傷が溶け出し、穴が大きくなっていく。
同時に、体の水分が沸騰し、水蒸気爆発を起こして内部から肉体を弾けさせた。
レーヴァが杖を横一線に振るうと、光線もそれに追従して横薙ぎに薙ぎ払われた。
ジュウウウウッ……!!
目の前にいた十数体の魔物の体が、一瞬にして溶け分かれ、崩れ落ちる。
その中には、爆発を自慢とするラーヴァ・トードも混ざっていた。
しかし、爆発の起点となる器官ごと一瞬で焼き切られ、何の被害も生むことなく溶け切れる。
「もう終わりかよ!?たきびの奴、もっとこっちに回しても平気なのによ」
周囲の敵をあらかた溶かしたレーヴァが、物足りなさそうに悪態をつく。
その常軌を逸した立ち回りに、周囲の冒険者たちはドン引きしていた。
「……お、おい、あの人、本当に聖女か?バーサーカーの間違いじゃないのか?」
「レーヴァさん一人いれば、このスタンピード、全滅できるんじゃねぇ?」
「俺、スタンピードより、あの人の方が怖い……」
ひそひそと交わされる冒険者たちの声。
それを聞き逃すレーヴァではなかった。
「ああ〜ん?」
レーヴァはゆっくり振り返った。
その瞳の奥に据わった光を宿しながら、冒険者たちに視線を向ける。
「「「た、助かりましたぁぁぁっ!!」」」
冒険者たちは、まるで上官に怒鳴られた新兵のように、一斉に姿勢を正して敬礼した。
「はぁ……まったく。怪我してる奴は、壁の方に集まりな!すぐに回復魔法をかけてやるからよ」
まるで今からBBQでも始めるような軽い口ぶりで、レーヴァは無防備に振り返り、防壁の方へと歩き出す。
しかし、戦場において、その隙は致命的だった。
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次回、第95話は【激突 その5】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。




