第93話:激突 その3
前衛の近接部隊と、防壁上の遠距離部隊。
ギリギリのバランスで保たれていた攻防戦。
だが、事態はここから一気に最悪の方向へと転がり始めた。
「な、なんだあれは!?」
誰かの悲鳴に、ガボンが前方を睨む。
土煙の中から現れたのは、数体のラーヴァ・トードだった。
だが、その一体は今までのものとは明らかに大きさが違う。
「特殊個体……か!?」
ドーザが困惑の声を上げる。
なにより目を引いたのは、その背中だった。
広くてぬめり気のある背中に、コボルト・スクラッパーやオークが数体ずつ、『騎乗』していたのだ。
「騎士のつもりか!?ふざけてやがる……!」
ガボンが苛立つ間もなく、ラーヴァ・トードたちは強靭な脚力で地面を蹴る。
驚異的な跳躍力で、防壁めがけて猛突進してきた。
「くそっ!止めろ!!」
ドーザが叫び、すぐにカバーに入ろうと駆け出す。
だが、通常個体が同時に同じような立体的な機動をとって、邪魔をしてきた。
そのせいで、ドーザとガボンを除く他の者が完全に出遅れてしまった。
「なんだこの連携は!?完全に予想外だぞ!」
「くそっ、こっちにもきたぞ!」
混乱する冒険者たち。
ドーザとガボンは、驚異的なスピードで、巨大なカエルに追いついた。
両サイドから剣と斧の斬撃が放たれようとした、その瞬間——
背に乗っていたコボルトたちが自ら飛び降り、刃を向けてドーザとガボンに襲いかかってきた。
「やっかいな!」
「邪魔すんな!」
流れるような剣技と斧技でコボルトたちを一瞬で斬り伏せる。
しかし、その足止めによる数秒の遅れが致命的だった。
すでにラーヴァ・トードは最後の跳躍をしていた。
防壁の目の前までせまる。
「くそが!チビ!」
ガボンが叫んだ。
「させないわ!!」
防壁の上では、既に詠唱を終えたキーニルが杖を向ける。
ファイア・ジャベリン数本が、カエルめがけて一直線に飛んでいく。
ところが。
「グガァァァッ!!」
なんと、カエルの背に乗っていた残りのオーク達が、自ら射線上へと跳んだのだ。
分厚い肉体に炎の槍が突き刺さった。
オークは瞬時に燃え上がり、絶叫しながら事切れる。
しかし、その肉の盾によって、カエル本体への直撃が完全に防がれてしまった。
「なっ……!?」
キーニルの声が裏返った。
自己犠牲、ですって!?
本来、本能のままに動く魔物が、こんな行動をとるなどあり得ない!
種類の違う魔物同士が、一つの目的のためにここまで連携するなんて!
「なんなの!?こんなの……想定外よ!!」
キーニルは焦燥に駆られ、もう一本のファイア・ジャベリンを練り上げる。
だが、遅かった。
無傷のまま防壁の根元に張り付いたラーヴァ・トードは、みるみるうちに気球のようにパンパンに膨れ上がり――。
炸裂した。
ドガガガガガガガガンッ!!!
先程の爆発とは、次元が違った。
大地が激しく揺れ、周囲の空気が強烈な爆圧によって吹き飛ばされる。
想像を絶する破壊的な衝撃波。
ドーザやガボンたち地上部隊もたまらず吹き飛ばされ、地面を転がった。
通常のラーヴァ・トードとは明らかに威力が違いすぎた。
そして、最悪の音が響きわたる。
頑強な石造りの防壁の根元が大きく抉られ、崩壊していく嫌な音。
「やられた!!」
壁の上でバランスを崩したキーニルが悲鳴のように叫ぶ。
もうもうと舞う土煙が晴れた、その先。
西の防壁の下部には、数メートルにも及ぶ巨大な穴が空いてしまっていた。
「門に近い者は、すぐに中に入り、破られた壁の穴の防衛に当たれ!前線の者はそのまま敵を食い止めるんだ!」
ドーザの声が、風魔法による拡声で戦場全体に響き渡る。
「カエルの中に、威力の高い特殊個体が混ざっている!背中に他の魔物を乗せているやつには特に注意しろ!」
だが、ドーザの必死の指示も虚しく、戦況は最悪の空気に包まれつつあった。
最終ラインとしていた防壁が、いとも容易く破られたという事実。
冒険者たちは、大穴が空いた壁を見て完全にパニックに陥っていた。
武器を持ったまま、立ちすくんでしまっている者もいる。
まずい……!
ドーザは歯噛みした。
恐怖という名の伝染病は一瞬で広がる。
このままでは、防衛線を維持できずに、穴から町に魔物がなだれ込んでしまう!
どうにかしなければ!
ドーザが、自ら死地に飛び込もうと剣を握り直した、その瞬間だった。
壊れた壁の内側、町の方角から、空気を震わせる凄まじい砲撃音が鳴り響いた。
「な、なんだ!?」
ドーザが困惑の声を上げる。
直後、大穴の奥から、直径数メートルはあろうかという岩塊が、まるで大砲の弾のように真っ直ぐに放たれたのだ。
それは、穴に殺到しようとしていた魔物たちの群れに真正面から激突した。
パンッ!パンッ!と、乾いた破裂音。
悲鳴を上げる間もなく、風船が割れるように次々と血しぶきを上げ爆散していく。
ズズンと遠くから重い振動が伝わる。
圧倒的すぎる質量兵器の前に、戦場にいた全員の時間がピタリと止まった。
冒険者も、騎士も、そして知能を持たないはずの魔物たちでさえも。
全員の視線が、魔物の血で真っ赤に染まった巨岩の軌道上を滑る。
そして、壊れた壁の大穴の奥へと注がれた。
濛々と立ち込める粉塵。
その奥から、ゆっくりと足音を響かせて現れたのは――。
遠くからでも分かる、人ならざるような頑強な巨躯。
そして、身の丈以上に巨大な杖を肩に担いだ、見覚えのある女性のシルエットだった。
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次回、第94話は【激突 その4】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。




