第91話:激突 その1
とうとう壁に進軍してくる魔物たち。
飛行系の魔物がいない事に気づくキーニルは、地上戦は近接戦闘に任せる事判断した。
そして、とうとう地上戦がはじまる。
舞い上がる土煙と、魔物たちの放つ獣臭い体臭。
そして、すでに流れている血の匂いが、門の隙間から町の中へと濁流のように流れ込んできた。
視界を遮る砂塵の向こうには、黒い波のように蠢く魔物の大群が迫っている。
完全に門が開き終わる前だった。
「どけぇっ!!」
ガボンが、誰よりも早く地を蹴った。
強靭な脚力が、石畳を爆発的に砕く。
魔物の先頭集団までの距離はまだ数十メートルあったが、彼のスピードは想像以上だった。
「強化魔法を使うまでもねえ!!」
ガボンは一気にトップスピードへ乗ると、背中のバトルアックスの柄を右手で鷲掴みにした。
そのまま大地を強く蹴り上げ、大きく跳躍する。
空中で体を捻り、遠心力を極限まで乗せた大斧を、先頭を走っていたゴブリンとオークの混成部隊めがけて叩きつけた。
ドゴォォォォォンッ!!
地面が爆発したかのように割れ、放射状にひび割れが走る。
直撃したオークは、薪を割ったように綺麗に分断され、ピクピクと体をひくつかせる。
巻き込まれた魔物は、握りつぶされたトマトのように粉砕していた。
「オラァッ!!」
ガボンは間髪入れず、大地に食い込んだ斧を引き抜き、横へ薙ぎ払う。
風切り音と共に、刃が魔物たちの胴体を無慈悲に通過した。
上半身と下半身が泣き別れになった魔物たちが、次々と地面に転がり落ちる。
ガボンは鬱憤を晴らすかのように暴れ回った。
吹き出す体液が、全身を形容しがたい色に染めていく。
「うぉぉぉぉぉらっ!!死ねよ!」
その目には狂気じみた光が宿っていた。
見下していた少年の力で、守られているという屈辱。
それを打ち消すためには、自分の力を誇示する。
いや、俺の方が強いという確認をしたいがために、魔物を屠る姿があった。
「凄まじいな……」
後方から前線に到着した騎士ドーザが、その狂乱の戦いぶりを見て低く呟いた。
「戦闘センスだけを見れば、相当なものだ。ゆえに、あの粗暴な性格と態度が悔やまれるな……」
なんとか変わってほしいものだ。
ドーザは小さく息を吐き、自らも剣を抜いて防衛ラインを押し上げていく。
ガボンの先制攻撃を皮切りに、後続の騎士や冒険者たちも次々と戦場へなだれ込んだ。
「一匹金貨一枚だぞ!」
「入れ食いじゃねえか!稼ぎ時だぜ!!」
熟練の冒険者たちが、欲に目を血走らせながら叫ぶ。
ガボンの迷いのない突撃が、結果的に彼らの士気を最高潮にまで引き上げていた。
だが、ガボンの進軍はあまりにも無軌道だった。
目の前に現れた敵を、ただ手当たり次第に叩き斬っていく。
ギルドからの「カエルを優先的に狙え」という指示を完全に無視した特攻に近いものだった。
しかし、その圧倒的な暴力が、魔物たちの進軍速度を削ぎ落としているのもまた事実だった。
「どうした魔物ども!もっと来やがれ!!」
血に染まった斧を振り回すガボン。
その時、乱戦の中で誰かの悲鳴のような声が響いた。
「カエルだ!!ラーヴァ・トードが来たぞ!!」
ドーザがいち早く声の方向へ視線を向ける。
土煙を割って姿を現したのは、赤と黒の毒々しい斑点模様を持つ巨大なカエルだった。
巨牛ほどもある巨体が、不気味に喉を鳴らしながら跳び進んでくる。
「あれが自爆するカエルか……近くで見るとかなり大きいな」
あれほどの質量の肉の塊が、膨張し爆発した際の威力を想像し、ドーザは背筋を凍らせた。
「盾持ち!前に出ろ!」
ドーザの鋭い号令が飛ぶ。
「ディフェンダーはヘイトを取って引きつけろ!陣を組むんだ!自爆の範囲から他の者を遠ざけろ!」
ガシャン!と音を立てて、重装備の戦士たちが分厚い盾を並べ、壁を作る。
同時に、防御力を上げる魔法詠唱が、そこかしこから聞こえてきた。
「自爆だけでなく、他の魔物の強襲にも注意しろ!」
ドーザの懸念は的中した。
自爆持ちの魔物を相手にする場合、どうしても警戒から手数が減り、戦闘に時間がかかる。
その分、シージ・ライノやボアなどの突撃やコボルトやオークたちの攻撃の手数が多くなってしまう。
「くそがっ!連携がうざ過ぎる!」
「奴ら、自分が死ぬのが怖くないのか?!カエルのすぐそばで平気で攻撃を仕掛けてきやがるぞ!」
魔物であっても、自爆の巻き添えで死ぬ事は避ける。
しかし、目の前の魔物たちは違った。
まるで自らの命など毛ほども惜しくないかのように、無謀な特攻を繰り返してくる。
冒険者たちの間に、じわじわと混乱と恐怖が広がり始めた。
「落ち着け!」
ドーザのよく通る声が、戦場を切り裂く。
「カエルにダメージを与えたら、すぐに盾持ちの後ろへ下がれ!一撃離脱だ!後は少し離れた場所で爆発させろ!それが難しい者は、距離の取れる魔法やスキルで止めを刺せ!」
冷静な指示が、冒険者たちのパニックを食い止める。
「周りの魔物ごと、巻き添えにして倒すのが一番早い!陣形を崩すな!」
ドーザの的確な指揮により、防衛ラインが再び膠着状態へと持ち直した。
「……ちっ!めんどくせー指示出しやがって!」
ガボンは舌打ちをすると、自身の身体に膨大な魔力を練り上げ始めた。
「ヴォーラ。ゼン・ガルダ、リトゥ・ファッシュ(吹き荒れよ。我が刃を運ぶ、還りの風)」
彼の周囲の空気がビリビリと震え、風が巻き起こる。
「無の第二階梯魔法……『リターン・ゲイル』!!」
ガボンは叫ぶと同時に、愛用のバトルアックスをラーヴァ・トードに向かって全力で放り投げた。
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次回、第92話は【激突 その2】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。




