第9話:スキル検証の時間です ①
※予告タイトルからタイトルを変更しました。
バイオレットホーン•ラビットとの死闘を生き抜いた永灯だが、直後そのウサギなど比にならないプレッシャーを受け、命からがら全速力で逃げ帰るはめに。
大岩に着いた永灯は、安堵しながらも自身に起きた変化を確認するため、ステータスを確認するのであった。
――ふざけんな、あの化物!
ハァハァと激しく荒い息を吐き出しながら、手元にあった冷えた水を一気に喉へと流し込む。
俺のホームグラウンド、いや、今や完全にセーフティエリアと化している「引きこもりの大岩」の隙間。
ここまで命からがらたどり着いたというのに、俺の心臓は未だにドラムの激しい連打みたいに、バタバタと肋骨の裏側を叩き続けていた。
死ぬかと思った。
いや、恐怖のあまり頭の髪の毛が全部綺麗に抜け落ちるかと思った。
あの謎の化物。結局、その姿を直接視認することはできなかった。
それなのに、気配を感じた瞬間に脳内の全細胞が、それこそ遺伝子レベルで「今すぐここから逃げろ!」と大絶叫するような、とんでもないプレッシャーだった。
本当、この森は初心者向けじゃないだろ。冗談が過ぎる!
だが、今、俺が猛烈に腹を立てて、理不尽な怒りに身を焦がしている理由は、その死の恐怖に対してではない。
ウサギだよ!せっかく命懸けで仕留めた、あのデカいウサギを回収し忘れたんだよ……っ!
「ちくしょう……っ!」
思わず頭を抱えて、テントの床、大岩の地面に拳を叩きつける。
あの化物が放ったデタラメなプレッシャーのせいで、完全にパニックになっていた。
仕留めた獲物をインベントリへ格納するという、サバイバルにおいて最も基本的な手順を完全に失念してしまっていたのだ。
おのれ化物め!色々と検証したかったのに!初めてソロで倒せた記念すべき獲物だったというのに、全てが水の泡だ。
……まあ、実際は俺が勝手にテンパって、一目散に逃げ出しただけなんだけどさ。完全に理不尽な八つ当たりだと自覚はしている。しているが、悔しいものは悔しい。
「……でも、もしここから外に出るってなったら、いつかはあの化物とも戦うことになるのかな……。ヤダヤダ」
はあ、と深い溜息が口から漏れる。
しかし、まだ見ぬ強敵のことを考えても、現時点ではどうしようもない。いくら恐怖したところで、あいつが目の前に現れたら今の俺では一瞬で肉塊に変えられるだけだ。
そんな不確定な未来の心配よりも、今はやるべきことがある。生き残るために、何よりも重要な確認作業だ。
「よし、ステータスを見るぞ!」
あのウサギを倒した瞬間に身体を駆け巡った、あの独特な全能感。
あれは間違いなく、この世界における「レベルアップ」の感覚だろ。今までにないくらい、身体の奥底から力が漲ってくるのを感じたし。
俺は深く息を吸い込み、意識を内側に向けた。
「鑑定」
【対象】:篝永灯49歳
【レベル】:28
【職業】:ゴーレム使い
【ステータス】:正常
◆◇繧ィ繝ゥ繝シ◇◆によって転生させて貰った転生者。アラフィフ。もうすぐ誕生日でアラフィフ卒業。
【スキル】解析・鑑定:レベル3
インベントリ:レベル2
ゴーレムマスター:レベル2
HP:296
MP:423
【派生スキル】
危険察知
気配隠蔽
認識阻害
並列思考
思考加速
自律制御
【加護】
◆◇繧ィ繝ゥ繝シ◇◆の加護
「レベル28……!?」
おいおい!一気に上がりすぎじゃないか?!でも、自分の身体が驚くほど軽かったのを覚えている。体感速度が以前とはまるで違っていた。
ステータスが全体的に底上げされているのは、どうやら間違いなさそうだ。
「……待てよ。もしかして、あの時レベルが上がっていなかったら……」
ゾッと、背筋に冷たいものが走る。
もしレベルアップによる身体能力の向上がなければ、あの状況で足が速くなっていなかった。そうなれば、あの化物のプレッシャーに押し潰されるか、あるいは追いつかれて今頃は胃袋の中だったかもしれない。
そう考えると、あのウサギを倒してレベルを上げておいたのは、まさに九死に一生を得る分岐点だったわけだ。心底、運が良かったと思わざるを得ない。
「よし、次はスキルだ」
『解析・鑑定』がレベル3になっている。やはりこのスキルは、使用回数を重ねるか、あるいは自分より強力な相手、格上の存在に対して鑑定を成功させると熟練度が上がる仕様らしい。
あの不条理なウサギを識別したのが効いたのだろう。
今までは対象の魔力残量やステータスが「なんとなく多い」「少ない」といった大雑把な雰囲気でしか分からなかったが、より詳細な「数値」として、個別にはっきりと可視化されるようになっているな。
敵の残りHPや魔力の枯渇具合を正確に測れる恩恵は、かなりでかい!戦略の立てやすさが段違いになるはずだ。
俺自身のHPが296で、MPが423という数値。これがこの世界の人間として高いのか低いのかは、他者との比較ができないから今は保留だな。
次に『インベントリ』。
レベル2に上がっている。意識を向けてみると、空間の広がりが感覚的に以前の2倍ほどになっているのが分かった。これは分かりやすい。
「レベル×初期の広さ」という単純な掛け算で容量が増えていく仕様だろうか。それともレベルが上がるごとに倍々になっていくのか。
次回のレベルアップの時に、この仮説が正しいかはっきりするはずだ。何にせよ、荷物がたくさん入るのはありがたい。
「で、本命はこっちだな……」
俺のメイン職業の根幹たるスキル、『ゴーレムマスター』。
これもレベル2に上がっている。そして何より大きいのは、その影響で派生スキルとして『並列思考』『思考加速』『自律制御』の一挙に3つが生えてきたことだ。
まず、『並列思考』と『思考加速』。この2つの名称から察するに、俺の予測が正しければ……。
実験のため、俺はその2つの派生スキルを同時に発動させてみた。
瞬間、視界がぐにゃりと引き延ばされるような、奇妙な感覚に襲われる。
「お、おお……!?」驚いた。大岩の隙間から見える、風に揺れる木々の葉の動きが、まるで超スローモーションの映像のようにゆっくりと動いている。
これが『思考加速』の効果か。
俺の脳の処理速度が、周囲の時間の流れを置き去りにするほど爆発的に向上している。
予想通り、これならいける!この加速した思考のまま、
「マッドゴーレム生成!」
俺の主観視点では、いつも通りに足元の土を捏ね上げ、魔力を込めてゴーレムを形作るという手順を踏んでいる感覚だ。
しかし、思考が加速しているため、その全行程がコンマ数秒の間に凝縮されている。現実時間においては、目の前へテレポートするかのようにマッドゴーレムが出現した形になっているはずだ。
しかも、それだけではない。
作成している間も、『並列思考』がバックグラウンドで別の処理を同時に行ってくれている。今まではマッドゴーレムを1体作るだけでも、脳に強い疲労感を感じていたが、今は1体作った程度では全くと言っていいほど疲労を感じない。
脳のCPUが最新のマルチコアに換装されたかのような快適さだ。
「……じゃあ、どこまで行ける?」
俺は『思考加速』と『並列思考』をフル稼働させ、泥の人形を限界まで量産してみることにした。大岩の広い床面に、次々とマッドゴーレムが立ち上がっていく。
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次回、第10話は【スキル検証の時間です ②】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。




