第8話:油断大敵
※タイトル変更しました。
気体のゴーレム化に成功した永灯。満を持して心をへし折られたあのバイオレットホーン・ラビットに再戦を挑むべく、決戦の場に向かう。
今、死闘が始まる!?
翌朝。
興奮して寝られないと思ってたが……凄い寝れたな。スキルの有用性が拡張された安堵感だろうか。おかげで体調はバッチリだ。
「朝食、食べるか」
俺はサンドクッカーを取り出し、パンをセット。大きめのソーセージとチーズを乗せて折りたたみ、ガスコンロで温めた。
仲間とキャンプに行くと朝は決まってこれだ。同時にシングルバーナーで湯も沸かし、インスタントコーヒーを作る。
「うん、キャンプの朝はやっぱりこれだな」
俺はこっちに来て、今一番くつろげている。これが最後の朝食となるかもしれないのに、なんでこんなに落ち着いているんだろう。
「フラグ、じゃないことを祈ろう」
朝食を終えると、俺はテントを出た。目指すはあのバケモノウサギと遭遇した場所だ。
「あのウサギ、あそこにくるかな」
うろ覚えの記憶を頼りに森を彷徨うことしばらく、ついに見覚えのある開けた場所に辿り着いた。
「……正直嫌な場所だが」
この場所に来たらあの恐怖が襲ってきて動けなくなるんじゃないかと思っていたが、大丈夫なようだ。
俺は早速ブッシュの陰に身を潜め、息を殺してその時を待つことにした。ここは周囲に身を隠せる遮蔽物が多く、ゲリラ戦を仕掛けるには絶好の場所だ。
「ふぅ、集中」
その後、昨日考えた作戦を何度も思い返し、頭の中で様々なシミュレーションを行いながら、体感で二時間ほど経過した頃だろうか。
「──!!」
とんでもないプレッシャーだ! そしてこの危機感は!
心臓の鼓動が跳ね上がるのを抑えながら、慎重に周囲を見渡す。
──いた。
前方、約四十メートル先の草むらから、あの不気味な紫色の瞳が動いている。
【対象】:バイオレットホーン・ラビット
【ステータス】:レベル 102 奈落の森に生息している魔物。縄張り意識が強く、自分のテリトリーに入るものは容赦しない。角を射出する攻撃は脅威で、想像を絶する破壊力と貫通力からバイオレット・レールガンとも呼ばれる。
──間違いない。この前俺に完全な「完敗」を刻みつけた個体。やはりここを縄張りにしていたのか。
俺は恐怖や高ぶる感情を、浅い呼吸を繰り返すことで無理やり抑え込んだ。そして、注視するのは一点。
──こいつは『呼吸』をしているか?
鼻と胸と思われる辺りに意識を集中して、解析・鑑定。
【呼吸をしている可能性】100%
よし……! これで俺のゴーレム攻撃が通る可能性はほぼ確定した! 後はタイミングだ。
そしてそのタイミングは程なく訪れた。
しばらくするとウサギが警戒を緩め、地面に生えた青々とした草をモグモグと食べ始めたのだ。
草食系かよ!? ちょっとかわいいじゃないか。……じゃない! この機を逃すわけにはいかない!
俺はウサギの顔辺りに意識を集中させ、ゴーレムを作成した。
俺が強くイメージして作成したのは、テントで作った一酸化炭素ではなく、空気中の約七十八%を占めるありふれた物質、窒素。
ゴーレムの名は『ナイトロ・ゴーレム』。
今、ウサギの顔の目の前に最大サイズのナイトロ・ゴーレムがいるのがわかる。そしてすぐに──。
ゴーレム化、解除。
ゴーレム化を解除することによって、ウサギの顔の周りだけに純度100%の窒素空間が出来上がる。ゴーレム状態だと相手に吸い込ませられないのだ。
頼む、食べ物と一緒に思いっきり吸い込んでくれ……!
俺の祈りが通じたのか、ウサギが大きく鼻腔を広げた。その直後、
──ドサッ
ウサギの目がくるんと回り、何の抵抗も見せないまま、糸が切れた人形のようにその場にドサリと倒れ伏した。
「……やった」
思考より先に身体が動いていた。俺はブッシュから飛び出し、ウサギの元へと駆け寄った。
ウサギはピクリとも動かない。
「やった、やったぞ……! ジャイアント・キリング達成だ!」
胸の奥からとんでもない達成感と全能感が爆発し、俺は思わずガッツポーズを決めた。
レベル100超えのバケモノを、レベル1の俺が倒したんだ!あっけない程に!
「やはり窒素にして良かった!」
一酸化炭素でゴーレムを作った時はこれで倒せると思ったんだが、どうしても気になることがあった。
一つは一酸化炭素は効果が出るまでにタイムラグがあること。もう一つは、あのウサギに「毒耐性」があった場合だ。
倒すまでに時間がかかれば逃走、最悪反撃を受けるリスクがあり、そもそも毒が効かなければ意味がない。
その二つの問題点を解決したのは窒素だ。
窒素による攻撃は「毒」ではなくただの酸欠。しかもひと呼吸で脳のシステムをシャットダウンさせる即効性がある。
さらに空気中に大量にあるのでゴーレム化しやすいという超優良物質。
「窒素さまさまだな!」
ナイトロ・ゴーレムは脳があり、呼吸をしている相手だったら間違いなく主戦力になるな。
まあ異世界だから想定外のやつもいるかもしれないけど。
さて、なにも感じないけどレベルアップしたかな。
【対象】:篝 永灯 49歳
【ステータス】:レベル 1
◆◇繧ィ繝ゥ繝シ◇◆によって転生させて貰った転生者。アラフィフ。
アラフィフっている!?……って、レベル1のままか。まだ倒してない? それとも一番懸念している『ゴーレムで倒すと俺のレベルアップには繋がらない』仕様か!?
「それはまずい!」
どんな方法でも直接攻撃をしてチームとして認識して貰うか、死にかけのターゲットを自分で殴ってラストアタックを奪わなければ、パワーレベリングが成立しないっていうソシャゲやラノベではよくあるやつかもしれない。
「念のため一発殴っとこう」
俺はウサギに素早く近づいて、拳でウサギの体を叩こうとした──その時だった。
!!この嫌な感じは!!
視線をウサギの顔の方に向けると、ウサギの目が!
至近距離で、真っ赤に血走った紫の瞳と視線が完全に噛み合う。
しまっ──!?
こちらに顔を向けたウサギの額が、強烈な何かを帯びてみるみる盛り上がっていくのが分かった。
あの、すべてを粉砕する超高速の角射出が来る!
「ナイトロ・ゴーレム!」
そう叫んだ瞬間。
───ボンッ!!!!
鼓膜を破らんばかりの爆音。
射出された角が、最大に強化したナイトロ・ゴーレムに激突、大気を巻き込んで木っ端微塵に爆散した。
角はそのまま俺の右頬を派手に切り裂き、鮮やかな鮮血が宙に飛び散った。同時に、凄まじい風圧で後ろに吹き飛ばされた。
「が、はっ……!」
とっさのナイトロ・ゴーレム最大硬化と、反射的に頭を左側に傾けたことで角の射線から外れたのか。
運が良かった……初戦で技を見ていなかったら、今の一撃で俺の頭部は確実に消し飛んでいたな。
そう思ったのも束の間、ウサギを見るとすぐに第二波の攻撃体勢に入ろうとしていた。すでに額の穴は無く、盛り上がり始めている。
くそ! 右の鼓膜が潰れたか? 身体のバランスが保てない……世界が回る!
「……ま、ずい」
だが、ウサギも"無酸素脳震盪"ともいうべきダメージは確実に残っているらしく、足元をふらつかせている。
「させるかよっ!!! ナイトロ! 解除! ナイトロ! 解除ォオオ!!! 」
吸え、吸え、吸え、逝けよ!!!
目が合った。確実に俺を捉えた目だ。
くそ! 来るぞ!
ウサギが射出態勢をとった瞬間、
──ドサッ
最初に気絶させた時と同様に、突然崩れ落ちた。
「今度は確実に仕留める!」
さっきは気絶した後、窒素が口元から無くなり、酸素が供給されて息を吹き返したんだ。だから今度は!
俺は倒れているウサギに向かって、ナイトロ・ゴーレムを作っては解除し続けた。
時間にしたら20秒くらいだと思うが、永遠のように感じた。
ウサギの身体が、まるで高電圧を流されたかのようにビクンビクンと激しく痙攣した。
まるで脳の電源が落ちる寸前の、生命の最後の暴走のように。
そして大きく跳ねたのを最後に、ピタリと動きを止めた。
「もう……限界だ」
ハァ、ハァ、と荒い呼吸を繰り返しながら、俺はその場に倒れ込む。
「……やった、のか?」
その時、じわじわと、自分の身体が信じられないほど軽くなっていくのを感じた。
「なんだ!?」
内側から爆発的な力が満ちていくような感覚! これは、直感でわかる。
──今、ステータスが上がった。
はは……やった……レベルアップだ……!
「勝った。俺は、ついに勝ったんだぁ!」
極限の緊張から解放され、俺は地面に笑顔のまま大の字になった。
本当に危なかった。気絶から復帰するパターンは想定外だった。
「あのシーンを思い返すと、今も心臓が凍りつく感じがする……本当に油断大敵だな」
だが、これで勝ちパターンの構築ができた。これからだ。
勝利の余韻と未来への希望に浸ろうとした、その瞬間だった。
──ゾクゾクゾク
「う……あああああ」
『危険察知』が、心臓を握りつぶす勢いで警告してくる。ウサギの比ではない!
立ち上がった俺は、一目散に走り出した。
だめだ、一瞬でもここにいたら!!
その最中、地響きとともに、明らかにこの世のものとは思えない「ナニカ」の咆哮を聞いた。
まるで、「俺の森で何をしている?」と言っているかのように。
「ひぇっ……!? 冗談だろおい!! なんなんだよ、このくそ森!」
俺は、あの引きこもり用の大岩へと向かって、全力走りするしかなかった。
ご一読いただきありがとうございます。
面白い、続きが気になる! と思っていただけましたらブックマークや評価応援していただけると嬉しいです。
次回、第9話は【ウサギ狩りと食料】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。




