第7話:ジャイアント・キリングしてやる!
命からがら逃げ帰った永灯だが、心のダメージが大きくテント内に引きこもってしまう。
ネガティブの塊となっている自分をなんとかしようと、大好きなキャンプギアを広げているうちに、ある事に気付く永灯。
そこから一気に検証を始めるのであった。
俺は今、絶賛引きこもり中である。
あれからどうやって逃げ帰ってきたのか、正直よく覚えていない。
無我夢中で走っていて、気づけば遠くにこの岩が見えて、すぐに身を隠した。
そして涙を流しながら、しばらく大岩に隠れてガタガタと震えていた。
少し落ち着いてきたところで、とりあえずインベントリの中にあるテントを適当に設営して、寝袋の中に飛び込み縮こまっていたら、いつの間にか寝てしまっていた。
で、目が覚めて今に至る。
「50にもなって泣きながら逃げるとか、経験するとは思わなかったな」
そして、まだあのレベル102のウサギが俺のゴーレムを一撃で粉砕した残像が脳裏にチラついて……。
「どうしても外に出る勇気が出ない……」
そもそもどうしてこんなところに転生させられたんだ。約束してた感じの場所と全然違うし。
あの自称神様、本当は全部演技で、そもそも俺のことを生かすことなんて考えてなかったとか……。
ふと、最後の笑顔を思い出す。
……あれが到底、演技だとは思えない。じゃあどうして……。
「……だめだ。ネガティブな時にはネガティブな感情に引っ張られ過ぎる」
あれこれ考えても分からないことだらけだし、それより今は少しでも楽しいことを考えて気を紛らわそう。
「インベントリでも見てみるか……」
スキルを稼働させると、頭の中に各アイテムの情報が綺麗に整理されて出てきた。
この仕様、本当にすごく便利だな。
「あ、そうだ。コットやインフレーターマットも出さなきゃ」
インフレーターマットも無しで寝ちゃってたから、身体痛いな…。
とりあえずお気に入りのキャンプギアに囲まれれば、少しは気が紛れるかも知れない。
俺は一通りのキャンプギアを出して、テント内に配置していった。
「いいね。一気にキャンプっぽくなってきた!」
やっぱりキャンプはストレス解消にはもってこいだな。でも……。
「異世界の初キャンプがこんな場所なんてな……しかも引きこもりとかどんな冗談だよ……」
いかんいかん! 違うことを考えよう。他には……。
「お! 黒毛和牛とか入ってるぞ! マジか!」
他にもたくさん入れてくれてるな。ぱっと見、10日分くらいの食料はありそうだ。
……生かそうと思っていない者に、こんなに食料を持たせるのはやはり違和感がある。そうなると、何かあった可能性が高いよな。
自称神様、さっき変なこと考えてごめんなさい。
「肉見たら急に食べたくなってきた! でもBBQなんかしたら、周囲の魔物を呼び寄せる最悪の『集客マーケティング』になってしまう」
完全にお預け状態だな。
「テントが大きいから中で炭を起こして焼くことも出来るけど、一酸化炭素中毒にはなりたくないしなぁ」
異世界にまで来てキャンプをして、死因が一酸化炭素中毒って、冗談でも笑えない。
「まぁ、ガスコンロ使ってフライパンで焼けばいいか」
徐にガスコンロをインベントリから取り出そうとした瞬間──。
「……一酸化炭素中毒、 ガスコンロ……」
そう呟いた瞬間、俺は勢い良く立ち上がり、ゴーレムマスターのスキルを再度、解析・鑑定にかけた。
『物質同士を繋ぎ合わせて「人型」にし、稼働させることができる』
そうだよ! ゴーレム=木や土、金属みたいなイメージだから、考えが及ばなかった。
「俺からしたら『気体』だって立派な『物質』だ! これってゴーレムにできるんじゃないか?!」
よし、とりあえず焚き火台で炭を起こそう。
俺は焚き火台を出して炭を起こし始めた。
その間に、まず空気がゴーレム化できるか確認だ。
「ゴーレム!」
……だめだ。スキルが作動した感じはしない。どういうことだ? 空気だって立派な物質のはずなのに。
「鑑定してみるか」
【対象】:空気
【ステータス】:正常
地上に生ける殆どの生物に必要。
微妙だな。物質と認識されてないのか? って、あれ? 概要みたいなのが追加されて流れ込んでくるな。
もしかして解析・鑑定のスキルが上がってる?
俺は自分のステータスを鑑定すると、解析・鑑定のスキルがレベル2に上がっていた。
「お! 上がってる。このスキルをよく使ってるからかな。それともあのウサギを鑑定したからか?
なんにせよ、あんな死に目に遭ったんだ、これくらいのインセンティブは当然だな!」
ちなみにゴーレムマスターのレベルは……1のままか。
「これも使ってないと駄目かな。とりあえずペブルゴーレムを作って動かしておくか」
俺はペブルゴーレムを作り、適当に歩かせ始めた。カチャカチャとかわいい音を立てながらテント内を行進している。
さて、空気がゴーレム化できないのは、そもそもこっちの空気は魔力と同じ物質とか?
それとも空気自体に魔力を帯びているとか? それだと詰んでるんだけどな……。
色々悩んでいるうちに、俺はふと自称神様の言葉を思い出した。
『基本物質構成は地球とほぼ変わりません。重力、空気、気候、大地の構造、人族の肉体構造も地球とほぼ同じです。──────』
ほぼ同じって部分が引っかかるけど、物質構成がほぼ同じってことは、やっぱり物質ってことだよな。
「もしかして、認知されていないからか?」
確かこの世界は地球と違ってかなり遅れているみたいな事を言ってた気がする。
地球でも中世では空気が物質だと認知されていなかったはずだ。
「世界で認知されていないから、解析・鑑定でも表示されないとしたら……」
どうやって認知させればいいんだ?どうやって……。
『スキルも魔法もまだまだ進化する可能性はあります』
……自称神様の言葉に賭けてみるか。物質のことを自称神様が認知しているってことは、知識としての地盤はあるって事だし。
「空気は重さもある。だから物質だということを俺が強くイメージして……! 鑑定!」
……あれ? 全然情報が来ないな。もう一度……。
と思った瞬間。
【対象】:空気
【ステータス】:正常
地上に生ける殆どの生物に必要な物質
構成は、
窒素(N₂):約78%
酸素(O₂):約21%
アルゴン(Ar):約0.93%
二酸化炭素(CO₂):約0.04%
その他:微量の物質……
「来たぁ!」
俺は思わず大声を上げた。
恐らく新しい情報を世界でも人でも認知させられれば、解析・鑑定もアップグレードし関連情報を引き出す事ができるようになるんだ! この検証結果は凄いぞ!
「次だ。もし気体をゴーレム化することが可能なら、このスキルは大化けする!」
俺は空気を見つめ、
「ゴーレム!」
すると、ゴーレムマスターのスキルが稼働したのを感じた。
「できた! 俺にはスキルの感覚でそこにいるとハッキリ分かるが、他人が見たら完全に『何も無いただの空間』にしか見えないはずだ。念の為、鑑定!」
【対象】:エアゴーレム
【ステータス】:正常
空気で構成されているゴーレム。
予想通り!次はある特定の物質だけをゴーレム化する実験だ。
これが出来るか出来ないかで、今後この森で生きて行けるか決まる!
俺は先程起こした炭を火消し壺に入れ、蓋を少しだけ開けて不完全燃焼させ、その蓋の辺りを鑑定した。
【対象】:空気
【ステータス】:異常
一酸化炭素(CO)を大量に含む。
あるな。その上で一酸化炭素だけで作るゴーレム強くイメージして……。
「ゴーレム!」
……来た! 俺にはわかる! 目の前にいる!
【対象】:モノキサイド・ゴーレム
【ステータス】:正常
一酸化炭素(CO)で作られたゴーレム。
よし!物質として解析・鑑定できれば特定の物質だけでもゴーレムを作れるのがわかったぞ!
「後は、色々実験するだけだ!」
俺はそれからご飯も食べずに、様々な検証をした。
へし折れた心は、いつの間にか完全に息を吹き返し、あのウサギを倒すための執念に変容し、検証の糧となっていた。
「ふう。できること、できないことは大体把握したかな」
集中し過ぎてすっかり夜になってる。でも、勝ち筋は見えた。
「……ジャイアント・キリングしてやる!」
恐怖と闘争心が入り混じった奇妙な興奮の中、俺は寝袋に入り、明日の決戦に向けて目を閉じた。
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次回、第8話は【死闘】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。




