第10話:スキル検証の時間です ➁
スキル検証を続ける永灯。想像以上に強くなった事に喜びと嬉しさを隠せず、検証が止まらない。一方で今後について、色々と考え始める。
永灯が決断した事は?
10、50、100、500……。
作業感はなく、ただ思考の波に乗って増殖させていく。延々と生成を続け、明確に脳のキャパシティに「限界」の壁を感じたのは、なんと2,800体を数えた時だった。
「はぁ、はぁ……っ!」
こめかみのあたりがズキズキと痛むが、この実験で重要な法則が見えてきた。
恐らく、俺が同時に維持・生成できるゴーレムの最大枠は、俺の現在のレベルに依存している。
「レベル28×100=2,800体」
この計算で間違いなさそうだ。
そして、この超思考状態を以てしても、一度に瞬間配置できる限界は100体程度。それ以上は脳への負荷が強すぎる。
だが、検証結果としては十分すぎる。
「……すっげー作れるじゃないか!」
思わず、その場で誰も見ていないのをいいことにガッツポーズを決めてしまった。
2,800体の土の人形。これだけの数があれば、あのトラウマ物のデカいウサギが相手だろうと、数の暴力でフルボッコにできるんじゃないか?!
四方八方から泥まみれにして圧殺する光景が目に浮かぶ。一斉に突撃させるだけでも、ちょっとした土砂崩れ並みの脅威になるはずだ。
「くっ、くっ、くっ。来たね。ついに俺の時代が来たよ」
我ながら少々悪役っぽい笑い方だが、誰も見ていないからセーフだ。
しかし、これだけで満足してはいけない。
もう一つの派生スキル『自律制御』のテストが残っている。名前からして、大体の機能は予想がつくんだけどね。
俺は2,800体ものゴーレムを作ることができる。しかし、それらを一斉に、自分の手足のように動かそうとしたら、到底無理だった。
いくら『並列思考』を使っても、俺が直接意識を割いて細かく操作できるのは、せいぜい3体が限界だ。
その致命的な欠陥を補うのが、この『自律制御』というわけだ。
スキルを起動してみると、まずオーダーという感覚が流れ込む。それを対象のゴーレムに追加すると、そのゴーレムがそのオーダーに従い動くのだ。
例えば「俺を守れ」オーダーを受理したマッドゴーレムが、すぐさま俺の周囲を取り囲むように移動した。
それはまるで、要人を警護するSPのように、的確なポジショニングで俺に付き従ってくれている。
また、多少曖昧なニュンスの命令でもちゃんと動いてくれる。
「タンクとして俺を守れ」とオーダーを変更してみると、今度は先頭に立って、自らの泥の身体を盾にするような防御態勢を取ってくれた。
これくらいシンプルな、いわゆる1行で済むような命令であれば、2,800体に対して同時に、何の問題もなく追加・実行させることができそうだ。
しかし、「もし敵が右から来たら左の奴が盾になり、その隙に後ろの奴が回り込め」といった、プログラミングで言うところの「IF文(条件分岐)」のように複雑な命令にした場合、目に見えて俺の脳のリソースが削られていくのが分かった。
複雑な命令を維持しようとすると、操作を維持できるゴーレムの総数がガクンと減ってしまう。どうやら命令の複雑さと、制御できる個体数は反比例するらしい。
ちなみに、ダメ元で「自分で考えて適切に行動しろ」という、完全なAI化を投げてみたのだが、ゴーレムたちはピクリとも動かなかった。
さすがに自我を持たせるような高度な命令は無理らしい。
「ふむ……。これは完全に、地道なプログラミング作業だな。前世での仕事の経験や知識が、思わぬところで役に立ちそうだ。」
何より、このスキルが「有る」と「無い」とでは、今後の戦力に天と地の差が生まれるといっても過言ではない。
『並列思考』で処理を分散、『思考加速』で一瞬の判断して『自律制御』で軍勢にプログラムを組み込む。
この3つの派生スキルを組み合わせることで、俺の理想に近いゴーレム操作ができるって事だ。
「うん、これぞまさに『THEゴーレムスキル』って感じだな」
しかし、どうしてこんなゴーレム使いの根幹を成すような便利スキルが、レベル1の初期状態から生えていないんだ?本当に『ゴーレムマスター』ってのは、仕様が歪というか、変なスキルだな。まあ、今更考えても仕方ないか。
「あとは……これか」
【加護】:◆◇繧ィ繝ゥ繝シ◇◆の加護
これだ。恐らくというか、100%確実に、俺をこの世界に送り込んだあの自称神様の名前だろう。
表示が奇妙に文字化けしているのは、俺がまだその神の正確な名前を知らないからだろうか。
「鑑定」
【対象】:◆◇繧ィ繝ゥ繝シ◇◆――解析不能――
「だとは思ったよ」思わず苦笑する。さすがに人間風情が神様のスペックを解析できるはずもないか。
じゃあ、その下が持っている効果はどうだ?
【対象】:◆◇繧ィ繝ゥ繝シ◇◆の加護
◆◇繧ィ繝ゥ繝シ◇◆の加護。効果不明。
こっちも駄目か。
効果不明って、加護として機能しているのかすら怪しいな。
これも俺がいつか、あの自称神の本当の名前を知ることができれば、詳細が明らかになるってことだろうか。まあ、そんな日がいつになることやら、見当もつかないが……。
「で、最後にちょっと言わせてくれ。解析・鑑定さんよ。あの俺の個人情報、『もうすぐ誕生日でアラフィフ卒業』っていう余計な一言、本当にいる……!?」
静寂が満ちる大岩の隙間で、俺の虚しい突っ込みが響く。無機質な『解析・鑑定』のシステムは何も反応を返してくれなかった。
―――その後、俺は早めの夕食を済めることにした。
インベントリから、前世から持ってきたお気に入りのアウトドアグッズである「ルミエールランタン」を取り出し、そっと傍らに置く。
小さなガラスホヤの中で、キャンドルのように優しく揺れる炎。その淡い光が、薄暗いテント無いを照らす。
「はあ……。やっぱり、火の優しい揺らぎってのは、最高のリラクゼーションだな」
前世でもキャンプが趣味だった俺にとって、この炎の揺らぎは何よりの癒やしだ。これを見ているだけで、都会の喧騒や仕事のストレスを忘れられたものだった。
今では、魔物の恐怖を和らげるための必須アイテムになっている。心臓のバクバクも、完全に収まっていくのが分かる。
とはいえ、流石にまだ外で堂々と焚き火を起こして火を楽しむなんて勇気はミリ単位もないけれど。
そんな感傷に浸りつつ、俺は今後の生存戦略のためにインベントリの中身をチェックする。
「インベントリの中には、まだ食料も水もある。でも……」
レベルが28まで上がり、強力なスキルを手に入れたとはいえ、この森の危険度は未知数だ。さっきの化物の件もある。
「この森を自由に探索し、移動するのは、現時点ではまだ困難が過ぎるな。」
そうなると、長期戦を見据えた時に必ずぶち当たる壁がある。
「食料問題、か」
実は、飲み水に関する問題は既に完全に解決している。なぜなら、俺のスキルを使えば、空中から直接『ウォーター・ゴーレム』を作り出すことができるからだ。
多分純水で構成されたゴーレムなので、いくらでも安全な飲料水を作り出せる。
さっきのウサギと戦う時、実はこのウォーターゴーレムを戦闘に使うことも一瞬頭をよぎったのだ。
水の特性を活かして、相手の顔を覆って窒息死させるような戦術も理論上は可能だと思ったからだ。水中に引きずり込むようなイメージ。
ただ、生成スピードと相手を倒すのに時間がかかりそうだから却下したんだよな。
ともあれ、水は潤沢にある。問題は「食い物」だ。
「採取となると、考えられるのは野草、キノコ、そして肉だよな」
野草やキノコに関しては、毒があるかどうかを『解析・鑑定』のレベルが上がった今なら、かなり正確に見分けることができるだろう。それはいい。問題は、肉だ。
「……あのデカいウサギ、食べられるのかなぁ」
それを確かめるためも含めて、命懸けで倒したあのウサギを持って帰りたかった。今更ながら、置いてきてしまったことが悔やまれる。
異世界転生もののライトノベルやアニメなんかでは、不気味なオークの肉だとか、巨大なヘビの肉なんかを調理して「食べてみたら意外と美味!」なんてお決まりのシーンがたくさんあった。
はたして、このリアルな異世界でもそのお約束が通用するのだろうか。ウサギなら、前世でもジビエとして食されているわけだから、普通に考えれば美味い部類に入るはず。
「よし。とりあえず、明日は食料調達を兼ねて、もう一度ウサギ狩りに行ってみるか」
俺はインベントリの奥に眠っている缶ビールを飲みたい衝動を、今はまだ贅沢をする時じゃないとグッと堪えた。無事に肉を手に入れた時の祝杯用にとっておこう。
そして、ルミエールランタンの優しく揺れる炎の揺らぎに心身を癒やされながら、この異世界に来てはじめて、張り詰めた緊張を解いたのんびりとした夜を過ごしたのだった。
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次回、第11話は【ウサギ狩りと食料と】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。




