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ゴーレムの正しい作り方 〜俺のゴーレム、絶対おかしいと言われるんですが、なにか?〜  作者: 水無月 五色
スタンピード編

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第86話:開戦のカウントダウン

たきびはスタンピードなんて夢なのではと思う程の、清々しい朝の中で目を覚ます。


大好きなコーヒーを飲みながら、考えを巡らし、覚悟を決めながら英気を養っていた。


一方、防壁の中でも冒険者たちが準備を始めていた。

◆


たきびがテントで、優雅に朝のコーヒーを味わいながら英気を養っていた頃──


巨大な防壁の内側では、武装した冒険者たちが続々と集結し始めていた。


防具の留め具を入念に確認する者。


携帯食料を無言で胃に流し込む者。


極限のプレッシャーから逃れるように、武器を抱いて仮眠を取ろうとする者。


それぞれのペースで、数時間後に迫る死線への覚悟を決めていた。


ギルドマスターであるウルノラや、重騎士ドーザ、聖女レーヴァといった中核を担う実力者たちの姿は、まだ見当たらない。


そんな中、防壁を見上げてざわめきが起き始めていた。


巨大な風穴が空いていたはずの壁。


それが、強固な土と岩の塊で完璧に塞がれていたからだ。


常軌を逸した修復作業の速度と精度に、何度も見上げる冒険者たち。


「おい、見ろよ。壁、本当に直ってるぞ」


「本当にあいつがやったのか?一体どうやったんだ?」


「レーヴァさん達も推薦してるし、やっぱり本当にすげーやつなのかな」


その顔には、安堵よりも得体の知れない者への疑念が色濃く浮かんでいる。


だが一方で、その実力を確かに信じ始めてもいるようだった。


「けっ。くだらねぇ」


ひときわ低い舌打ちが、喧騒の中に混じった。


ガボンだった。


彼は広場の隅で岩に腰掛け、愛用の巨大な戦斧を丹念に砥石で磨いていた。


魔力量が著しく低いスパウンが、突如として現れ、規格外の力を見せつけた。


それが、自分の目の前で、英雄のように扱われようとしている。


それが、許せなかったのだ。


「あんな得体の知れない奴、俺は絶対に信用しねぇ!」


ガボンは戦斧の刃に鋭い眼光を走らせながら、低く唸った。


「いつか、あのメッキを剥がして、本当の実力を暴いてやる!」


砥石を持つ手が、ギリリと音を立てた。


その直後──


「あら、随分と感心なことね」


皮肉めいた声が響く。


ガボンが視線を鋭く上げると、そこには杖を手にしたキーニルが立っていた。


彼女はガボンの前に歩み出ると、目を細めて彼を見下ろした。


「こんな朝早くから、私より先に来て準備しているなんて」


「……チッ。何しに来やがった、チビ」


ガボンは斧を磨く手を止めず、忌々しそうに吐き捨てる。


「お前こそ、随分と余裕じゃねぇか。下手くそな魔法を暴発させて、味方まで吹き飛ばすんじゃねーぞ」


ガボンの挑発に対し、キーニルは口元を歪めて鼻を鳴らす。


「ふふん。斧と腰を振り回す事しか脳のないお猿さんに、心配される筋合いはないわ」


キーニルは持っていた杖の石突きで、石畳を軽く鳴らす。


「あんたこそ、魔物の大群を見た瞬間、ビビり散らして逃げ出すんじゃないわよ」


ガボンは立ち上がり、巨大な斧を肩に担ぎ上げてキーニルを睨みつけた。


鋭い視線が交差する。


しかし、それ以上の言葉を交わすことはなかった。


互いに反発し合いながらも、「今日を生き抜く」という目的だけは同じだからだ。


キーニルはガボンから、修復された防壁へと向き直る。


その壁がただの土塊ではないことは、魔導士の彼女には明白だった。


「へぇ……あの子、本当に一晩で直したのね。しかもかなり強固に圧縮されている」


彼女は杖で軽く壁の表面を叩き、その硬質な音に目を見開く。


「魔力を使わずに、一体どうやってこんな……」


キーニルは、周囲の冒険者たちをぐるりと見渡す。


「本人はまだ来てないようだけど。少しは期待していいのかしらね」


そう独り言を呟くと、修復痕を背にして歩き出した。


やがて、広場に静かな緊張が走る。


ギルドマスターのウルノラを筆頭に、重騎士ドーザ、聖女レーヴァといった町の防衛の要となる者たちが到着したのだ。


彼らの堂々とした歩みと歴戦を物語る覇気。


冒険者たちの浮き足立っていた空気が、一気に引き締まった。


日差しと空の青がコントラストが、静かに時の流れを告げていく。


町を覆う重い静寂の中、誰もが己の武器を握りしめていた。


◆


「さて、そろそろ行こうか」


俺は大きく肩を回すと、テントをギアごと一瞬で撤収させた。


さて、どうやって町の中の人達と合流するか。


シフトチェンジ……を大勢の冒険者の前で披露したくないしな。


「俺は既に外にいるって事で、連絡だけ取ってみるか」


『マスター。ドーザさんとレーヴァさんも、防衛の拠点に到着したようです』


脳内に響くアカシャの報告。


おっ!ナイスタイミング!


「じゃあ、ちょっとお耳を拝借させてもらおうかな。アカシャ、準備を頼む」


『完了済みです』


相変わらず仕事が早い!


今日も頼りにさせて貰うよ。


「ドーザさん、レーヴァさん。聞こえますか?たきびです」


『ひぁ!?』


通信網の向こうから、妙に可愛らしい声が脳内を揺らす。


おっ!今の可愛らしい声、ドーザさんか?


『レーヴァさんに決まっているじゃないですか。声の周波数解析も必要ですか?』


アカシャの呆れたようなツッコミが、今日も鋭く突き刺さる。


冗談だよ、冗談!


『お、おい!いきなり耳元で話しかけるのはやめろ!』


レーヴァさんのツッコミとギャップは、今日も健在だ。


よし、今日も一日頑張れそうだ!


「すいません、驚かせるつもりはなかったんですが。俺は、壁の外にいます。このままここで待機すると、ギルドマスターにも伝えておいてください」


通信の向こうで、レーヴァさんが小さく息を吐く音が聞こえた。


『……わかった。ギルドマスターには私から伝えておく。いいか、絶対に無理はするなよ!』


乱暴な口調の中の確かな気遣いを感じて、俺は自然と口角を上げた。


『たきび殿』


続いて、ドーザさんの低く落ち着いた声が響く。


『いつも損な役回りを押し付けてしまって、本当にすまない』


申し訳なさの滲む声に、俺はわざと明るく返した。


「いいですって。その代わり、この騒ぎが終わったら、とびきり美味しいお酒を楽しみにしてますよ!」


『はっはっは!ああ、約束しよう!』


豪快な笑い声の後、わずかな沈黙が落ちる。


『……無茶は承知だが、この町の防衛、どうかお願いする』


祈りにも似た、血の通った響きだった。


「ええ、任せてください」


俺は背後の壁に軽く寄りかかる。


足元の草が揺れる音だけが、耳に届いた。


――そしてそれは、太陽が町を完全に見下ろす位置まで昇った頃だった。


『ギルドの偵察部隊が、スタンピードの接近を確認したと知らせが入った。数、およそ5千〜6千!各自、戦闘の準備!』


拡声の魔道具を使ったであろうギルドマスターの怒号が、空気をビリビリと震わせた。


同時に、防壁の上を忙しなく駆け回る足音が響く。


配置の指示と装備がぶつかり合う音が、まるでカウントダウンのように聞こえた。


『マスター。前方のエア・ゴーレム索敵網から、複数の生体反応。約三キロメートル前方より、急速に接近中』


アカシャの冷徹な報告が、開戦の合図だった。


「……来たかよ」


俺は壁から背中を離し、ゆっくりと前へ歩き始めた。


視線の先、地平線の彼方から絶望の土煙が舞い上がっている。


だが、不思議と恐怖はなかった。


俺は、革袋に手を突っ込み、ラマ・アガールの残骸を取り出す。


軽く握り込み、勢いよく地中に埋め込んだ。


儀(・)式(・)の(・)素(・)振(・)り(・)は、完了した。


大きく息を吸い込み、意識を集中させる。


「――起きろ」


地面が震え始めた。

ご一読いただきありがとうございます。


面白い、続きが気になる!と思っていただけましたら、気軽にブックマークや評価、応援していただけると継続の励みになります!


次回、第87話は【開戦】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。

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