↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴーレムの正しい作り方 〜俺のゴーレム、絶対おかしいと言われるんですが、なにか?〜  作者: 水無月 五色
ベルシア編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/114

第85話:ジレンマを抱えながら

謎が謎を呼ぶサーヴェツェリ侯爵邸でのレヴナント事件。


堂々巡りする答えにレーヴァが釘刺し、スタンピードの事に頭を切り替える提案が通る。


たきびも様々な事を抱えながら、朝を迎えた。

テントの薄い生地越しに、柔らかな朝日が差し込んできた。


視界の端で微かに光る、オレンジ色の光膜。


それは、外が明るくなり始めたことを告げている。


俺は自然と目を覚まし、シュラフから身を起こした。


どうやら、二度寝をする必要はなさそうだ。


そのままゆっくりと立ち上がり、幕体のジッパーをジリジリと引き下げる。


見上げれば、雲一つない完璧な青空が広がっていた。


少しだけひんやりした清々しい空気が、頬を撫でる。


まるで、これから起こるであろう絶望的な事態が、ただの悪い夢であるかのように。


俺は、肺の底まで吸い込んだ。


「んんっ……!」


体を目覚めさせるように、両腕を天に向かって大きく伸ばした。


『おはようございます。マスター』


いつもの声が響く。


「おはよう、アカシャ」


『コーヒーは飲みますか?』


「お願い」


俺が短く返すと、テントの横に控えていたマッド・ゴーレムが静かに動き出した。


朝の光が差し込む前室で、「コリコリ」と静かな音が響き始める。


マッド・ゴーレムの指先が、手動ミルを一定のリズムで回している。


コーヒー豆がミルに砕かれていく小気味良いリズム。


まだ起きたての頭に、心地よく染み渡っていく。


一日のはじまりを告げる、愛おしい空白の時間。


でも、ファンタジー世界では鈍重なイメージの存在が、絶妙な力加減で豆を挽く姿は何度見てもシュールだな。


俺はハイバックチェアを広げ、ゆっくりと腰を下ろした。


『マスター』


なにかね、アカシャくん。


『豆がそろそろ無くなりそうです』


上質な雰囲気を切り裂き、アカシャが現実を突きつけてきた。


「そうだったぁ!」


俺は思わずチェアから身を乗り出した。


この町に来てからここ数日、バタバタし過ぎてすっかり忘れていた!


「今日を乗り越えられたら、絶対に新しい豆を手に入れる!何が何でもだ!」


『スタンピードの脅威よりも、嗜好品の枯渇に焦りを感じるとは、さすがですね』


この一杯のコーヒーがあるからこそ、俺は極限のプレッシャーにも耐えられるんだよ!


俺は火にかけられたパーコレーターを見つめた。


「コポコポ」と愛用のパーコレーターが甲高い音を立てて鳴いている。


パーコレーターの仕組みは実にシンプル。


火にかけられた下部の水が沸騰し、その蒸気圧によってお湯が昇っていく。


そして上部にあるコーヒー粉の入ったバスケットに降り注ぎ、抽出されたコーヒーが再び下へと戻る。


熱の対流と圧力という、基本的な物理法則。


魔力なんて便利なものがなくても、理屈さえわかっていれば、この世界もちゃんと回るんだ。


その音を目を瞑って静かに聞きながら、俺はくすぶり始めた高ぶりを落ち着かせていく。


「……スタンピード、か」


実際に経験することになるとは思わなかった。


いや、ちょっとは期待してたか。


数千という魔物の群れが、怒り狂ったようにこのベルシアの町へ押し寄せてくる。


ゲームや小説の中の厄災が、数時間後には現実の物理的質量となって迫ってくるのだ。


自分の期待に胸の奥が、チクリ、とした。


「アカシャ。周辺に変化は?」


『現在、エア・ゴーレムからの反応はありません』


アカシャは昨夜のうちに、町周辺のおよそ三キロメートルの範囲に、数十体のエア・ゴーレムを配置していた。


「あと数時間後か……」


俺はぽつりと呟いた。


防壁に開けられた大穴は、俺のマッド・ゴーレムたちで強固に塞いである。


だが、あのラマ・アガール(狂響鈴)によって呼び寄せられる魔物の数は桁違いだ。


「……ノリア、それにナディ」


俺の口から、敵対した者たちの名前がふと漏れた。


『マスター。もしかして、彼女達にまだ同情しているのですか?』


アカシャの声が、思考の波間にスッと入り込んできた。


「同情……かあ」


俺はチェアの背もたれに体を預け、空を見上げた。


彼らのやり方は、やはり間違っている。


だけど……


「ノリアは論外だが、ナディが抱えていた絶望の深さだけは、否定したくないんだ」


『論理的に言えば、敵対した以上、彼女達は排除すべき障害です』


わかっているよ。


でも、割り切れない感情があるんだよ。


『その割り切れない感情が、過去どれほどの犠牲を生んできたか。他者を害する平和は自滅を招く、それが歴史の証明です』


「俺は既に今の平和に害されてるんだけどね」


俺は苦笑した。


しばしの沈黙。


『ジレンマ、ですね』


「だな」


「コポッ、コポッ」


深まりゆく琥珀色が、抽出完了が近い事を教えてくる。


マッド・ゴーレムが火から下ろし、熱々のコーヒーを慎重にチタンマグへと注いでいく。


深く香ばしい香りが周囲に漂った。


「ありがとう」


俺はゴーレムからマグカップを受け取り、ゆっくりと一口含んだ。


「……ふぅっ」


適度な苦味と酸味。


至福の瞬間だ。


強張っていた神経を優しく解きほぐしてくれる。


俺はハイバックチェアに深く腰を落とし、青いキャンバスのような空をもう一度見上げた。


俺の行動は、果たして功利主義か。義務論か。


……今はそんな事、どうでもいいな。


守りたい人達を守る。


それだけだ。


マグカップの温もりを両手で感じながら、俺は再度、静かに決意を固めた。

ご一読いただきありがとうございます。


面白い、続きが気になる!と思っていただけましたら気軽にブックマークや評価、応援していただけると継続の励みになります!


次回、第86話は【開戦のカウントダウン】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。