第84話:夜が明けたら
ギルドマスターの部屋に、集結したたきび達。
一瞬安堵に包まれたものの、事実を伝えれば伝える程、謎が深まっていく。
果たして、たきび達は明確な答えに辿り着けるのか?
なあ、アカシャ。
職業が二つあるやつなんて、実際にいるの?
『伝説としてそのような話は伝わっていますが、それ以外の情報がありません』
伝説、ねぇ。
まあ、ありえない、とも言い切れないって事か。
「俺はシレルの『ステータスボード』を見ているが、職業は一つだった」
ギルドマスターは冷静に返事をした。
その場にいた全員が、困惑した顔を見合わしている。
「アーティファクトを使っての、職業偽装の可能性は?」
ドーザさんも眉をひそめ、顎を撫でながら聞き返す。
「ありえない」
ガレオさんが迷いなく言葉を返す。
「俺はシレルと何度もクエストをこなしている。シレルはスキルも使えたが、使っていたスキルは間違いなくシーフ系のものだった」
ガレオさんの顔が、更に険しさを増した。
「ギルド職員になる時にも徹底的に身体検査、身分審査を行った上でのステータスボードチェックが行われる。そのチェックをした職員もグル、という可能性もあるが、それを疑っていたらキリがない」
混乱のざわめきの中、クロードさんが静かに口を開いた。
「私が彼と交戦した際、蹴りを腹部に叩き込みました。本来なら内臓が破裂して、即死してもおかしくありません。しかし、彼の身体は妙に硬く、傷一つ負っておりませんでした」
クロードさんは目を細め、言葉を区切る。
「……恐らく、シレル様も『レヴナント』だったと」
「なっ……!?」
俺とレーヴァさんを除く全員が、驚愕に目を見開いた。
副ギルド長が、すでに死んでいて操り人形だった?
あの時見たあの男は、レヴナント特有の肌の色や目の濁り、しゃべりの緩慢さなど微塵もなかった──
全員、そう言いたそうな表情をしている。
「いや、待て」
ギルドマスターが鋭く言い放った。
「仮にシレルがレヴナントだとして、ネクロマンサーの能力を使えるはずがない。レヴナントはあくまで『生前の能力』を引き継ぐだけだ」
揺るぎない事実、しかし、納得がいかない出来事。
謎が謎を呼び、重苦しい空気が部屋の中で膨らみはじめた。
「今回の件も裏でデア・ドゥペルが関与しているとして」
ドーザさんが混乱を切り裂くように発言する。
「デア・ドゥペルの仲間の中に、強力なネクロマンサーがいるとしたらどうだろう」
それだ。
副ギルド長がネクロマンサーでないなら、他の誰かがテキゼン侯爵やシレルをレヴナントに変えた、というのが一番自然だとは思う。
そして、あの多重魔法を使う狂気のレギオンも。
「確かに辻褄は合う。だが……」
今度はガレオさんが顎に手を置く。
「シレルはどちらかといえば、『魔法至上主義者』だった。それを否定するデア・ドゥペルに手を貸す理由がない。それに……」
ガレオさんの眉間に、大きな皺ができる。
「そんな強力な魔力を持つネクロマンサーが、シレル同様、デア・ドゥペルに力を貸す理由があるだろうか?やり方も陰湿すぎて腑に落ちない点が多い」
確かに、どっちに転んでも利は少ない。
暗殺というのも、少し引っかかる。
デア・ドゥペルの目的は世界の変革。
目立つやり方の方が、人を動かしやすいはずだ。
いくつもの線が交差し、一見、綺麗に繋がっているように見える。
だが、その繋がっている状態が何故か、納得ができない違和感。
『情報が少なすぎますね』
それな。
「今考えてもすぐには答えは出ないだろう」
レーヴァさんが聖杖を肩に担ぎながら割って入った。
「わかっているとは思うが明日はスタンピードの本番だ」
ガレオさんが意図を組んだように頷く。
「数千の魔物がこの町に押し寄せてくる。ここで頭を抱えている暇があったら、一秒でも早く休んだ方がいいんじゃねぇかな」
「その通りだ。この事は一旦忘れ、明日、生き残ってから続けるとしよう」
ギルドマスターが、方針を決定した。
「ガレオ様。このテキゼン侯爵の死体ですが、一旦私が預からせていただいてよろしいでしょうか?」
クロードさんが申し出る。
「主であるメイアス様の魔法部隊に、この特異なレヴナントの調査を依頼いたします。何か手がかりが掴めるかもしれません」
「なるほど。構わない。よろしく頼む」
「ありがとうございます」
深々とお辞儀をするクロード。
マリエラさんが、慌てて巨大な麻袋を持ってきた。
マリエラさん、いたのか。全然気が付かなかった。
結局、この件に関しては色々な謎を抱えたまま、俺たちは解散することになった。
心做しか、出口に向かう皆の足取りが重い気がする。
ギルドを出ると、レーヴァさんが俺に声を掛けてきた。
「たきび、お前これからどうするんだ?」
「俺のテントに帰ります」
「そうか……なあ、クロードさんの事だが……」
「?」
「いや、なんでもない。明日、よろしくな!」
レーヴァさんが背を向ける。
俺はその背中をじっと見つめたまま、姿を消した。
◆
生温かい夜風が、テントの布を揺らしている。
俺はコットの上のシュラフに寝転がり、ローテーブルの上に置いたルミエールランタンの灯りを見つめていた。
「なぁ、アカシャ。今回の件、どう思う?」
『極めて複雑な状況です。情報が不足しており、現時点で正確な推論を導き出すのは困難です』
脳内の相棒も、珍しく明確な答えを出せないでいた。
「魔法至上主義の町で、それを憎む者たちが暴れ、死者が踊る、か」
テントの天井を見上げる。
さらには、クロードさんとレーヴァさん。
最後に俺に聞いてきた、あの一言。
「面倒くさいこと、この上ないな」
俺は呟きと共に、軽いため息をついた。
『マスター。今は休息を優先すべきです。あなたの体調は、この町の存亡に直結しています』
わかってるよ。
俺はペブルゴーレムを使い、ランタンの火を落とした。
『おやすみなさい、マスター』
おやすみ、アカシャ。
──夜が明けたら。
やってくる絶望の群れを思い描きながら、静かに目を閉じた。
どんな化け物が来ようと、俺のゴーレムで叩き潰す。
この町を、人を、そして俺のキャンプライフを守るために。
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次回、第85話は【ジレンマを抱えながら】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。




