第83話:職業が2つ?
クロードとレーヴァは顔見知りだった。
クロードが勇者達の戦術指南役だった事実がレーヴァから伝えられ、驚愕する一同。
深く事情を聞く時間もなく、たきびはギルドマスターに事の真相を伝えるために全員を転移させるのだった。
──少し時間を遡った、ギルドマスター室。
「……にわかに信じられん話だな」
ギルドマスターの厳格な声が、静かな部屋に響いた。
重厚なデスクの向こう側で、彼は深く眉間に皺を寄せている。
「本当なのです!ドーザ伯父様たちが、今もその化け物を相手に命懸けで戦っています!」
泥だらけの服のまま、テレスタリアが必死に訴えかけていた。
だが、ギルドマスターは困惑を隠せなかった。
確かにシレルの動向は気になっていた。
高ランク冒険者が示し合わせたように、この町にいない事実。
依頼の管理をしていたのは、シレルだ。
そして、マリエラに嘘までついて居なくなっている現状。
それでも、『侯爵を殺した』という発言を、すぐに信じろと言われても無理があるのだ。
「テレスタリア嬢。どうにも状況が飲み込めない」
「なら、今すぐサーベツェリ侯爵邸へ向かってください!ご自分の目で確かめればわかります!」
テレスタリアの声が強く響く。
しかし、ギルドマスターは、迂闊に動けなかった。
確かに、行けば何かわかるかも知れない。
しかし、こんな状況の中、自分が動いていいものか決断しかねていたのだ。
そんな重苦しい沈黙を跳ね除けるような声が、テレスタリアの肩から響く。
『テレスタリアさん!こっちは終わりました!今ギルドの前にいるので、そっちに向かいます!』
「たきびさん!?皆さんは、無事なのですか!?」
テレスタリアが勢いよく立ち上がる。
『大丈夫です。レーヴァさんが対応してくれました』
その報告を聞き、テレスタリアはその場に泣き崩れそうになるのを必死に堪えた。
「よかった……本当によかった……」
ギルドマスターは、声を発する見えないゴーレムを凝視した。
……あの少年。たきび、だったか。
レーヴァさんを転移させる事といい、能力の底が知れんな。本当にゴーレム使いなのか?
眉間に小さい皺を寄せた。
◆
ギルドのホールが突如として騒然となった。
深夜にもかかわらず待機していた幾人かの冒険者たちが、悲鳴に近い声を上げていた。
「お、おい、なんだあれ!魔物か?!」
「いや……首無し死体を引きずってやがるぞ……!」
「ヒィッ!顔が!殺人鬼か!?」
いつもより静まり返っていたはずのホールを、クロードさんが侯爵の死体を引きずりながら堂々と闊歩していた。
その後ろを、俺やドーザさん、レーヴァさんたちが気まずそうについていく。
なんで、あんなに堂々と死体引き摺れんの?!
冒険者たちのドン引きした視線が痛い。
俺たちは逃げるように、ギルドマスター室へと駆け込んだ。
「伯父様……!」
テレスタリアさんがドーザさんの無事な姿を見て、目に涙を浮かべながら駆け寄る。
「無事でよかった、テレスタリア。お前が助けを呼んでくれたおかげだ」
優しく肩に手を置くドーザさん。
テレスタリアさんは笑顔で頷くと、すぐにクロードや騎士たちにも分け隔てなくお礼を述べた。
騎士達のデレ顔がひどい。
だが、背後から放たれたドーザさんの無言の圧に当てられ、即座に姿勢を正した。
テレスタリアさんの未来の夫は大変だぞ、これは!
『マスターには、毛の先程の希望もありませんね』
くっ!どうしていちいちそんな所を突くんだよ、君は!
「たきびさん!テレスタリアさんも!本当にありがとう存じます!」
俺とレーヴァさんが、口元を緩めながら頷く。
空気が落ち着いたところで、ドーザさんとクロードさんが事の経緯をギルドマスターに報告をし始めた。
侯爵邸の惨状。
ネクロマンサーの存在。
レヴナントの群れ。
巨大な肉塊レギオン。
そして──裏で操っているであろう黒幕の存在。
「……なるほど。テレスタリア嬢の話とも完全に一致する」
ギルドマスターはテキゼン侯爵の首を鋭く睨みつけ、拳をドンッとデスクに叩きつけた。
「このギルドの長でありながら、これほどの陰謀にシレルが関わっていたことに気づけなかった……己の不甲斐なさが腹立たしい!」
彼は大きく息を吐き出すと、痛恨の面持ちでテレスタリアに頭を下げる。
「テレスタリア嬢、申し訳なかった。疑うわけではなかったが、この状況だ。迂闊には動けなかった」
「いえ。私こそ声を荒げてしまい、申し訳ございませんでした」
「ギルドマスター殿」
少しの静寂の後、ドーザさんが割って入った。
「ウルノラで構わない、ドーザ殿」
「それではウルノラ殿。副ギルド長についてお聞きしたい」
その問いかけに、ギルドマスターの誠実だった目は、ふっと冷たい光を宿した。
ドーザさんは一歩前に出ると、ずっと真っ向から彼を見据え、引っかかっていた疑問を口にした。
「……シレル殿は、ネクロマンサーだったのか?」
ギルドマスターは重々しく首を横に振った。
「いや。シレルは優秀なシーフマスターだ。ネクロマンサーではない。死霊魔術の素養など、欠片もなかったはずだ」
ざわめくギルドマスター室。
「じゃあ、なんでテキゼン侯爵を操れたんだ?」
「違うネクロマンサーか?」
「いや、他にはいなかったぞ」
そのざわめきを切り裂くようにクロードさんが冷静に、しかしとんでもない事を発言した。
「職業が二つあった、という可能性は?」
時間が止まる。
「職業が二つ!?」
ドーザさんとレーヴァさんが、同じ言葉を発する。
途端に部屋の空気が動き出した。
「職業が二つあるやつなんかいるのか?」
「いや、聞いた事が無い!」
ざわめきが更にヒートアップした。
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次回、第84話は【夜が明けたら】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。




