第82話:予期せぬ邂逅
レーヴァの力により、レギオンを消滅させる事に成功。
聖女の力の凄まじさを改めて感じるたきびだった。
ようやく戦闘が終わったのも束の間、男の声がホールに響き渡る。
俺は手の中にある黒い石──アテル・キャパシタを握りしめたまま、声のした方向へ視線を向けた。
二階の瓦礫の山を踏み越えて、一人の男が姿を現した。
上品な執事服はボロボロに引き裂かれ、あちこちに血が滲んでいる。
だが、その足取りは恐ろしいほどに静かで、一切のブレがない。
右手には重そうな胴体を引き摺り、左手には白目を剥いた人間の頭部を無造作にぶら下げていた。
その顔を見て、俺は思わず声を上げた。
「クロードさん……!?」
「おや、たきび様もいらしていたのですか。気が付きませんでした」
わざと!?
『恐らく魔力感知を行ったのかと』
ああ、なる程。
そりゃあ、俺は魔力0ですからね。
「そんな事より、手にぶら下げてるのって…」
「ああ、これですか。テキゼン・サーベツェリ侯爵様だったものの頭と体です」
ズルズルと音をたてて、クロードさんがゆっくりと階段を降りてくる。
……俺は一体何を見せられているんだ……。
「ん……うぅ……」
レーヴァさんの回復魔法を受けていた騎士たちが、うめき声を上げながら次々と目を覚ました。
彼らが身を起こした次の瞬間──顔を青ざめさせた。
「あ、あの執事殿……また死体を引き摺って現れたぞ……」
「ネクロマンサーの時とまったく同じ構図じゃないか……」
「なんなんだ、あの人……」
騎士たちが悪魔でも見るように囁き合う。
またって何!?前にも同じ事してんの!?
本当、ヤバイだろ、あの人……
ドーザさんが静かに立ち上がる。
口元にかすかな笑みを浮かべながら、穏やかな口調で話しかけた。
「クロード殿。上の階の敵を片付けてくれたのだな。感謝する」
「いえいえ。それにしても、お互い随分と派手にやられましたね」
クロードさんは事も無げに笑う。
しかし、その身体から発せられる覇気は、以前会った時とはまるで違っていた。
研ぎ澄まされた刃のような、隠しきれない強者の気配。
服の切れ目から見える、彫刻のような体。
その圧倒的な存在感を肌で感じて、俺は背中に変な汗をかいた。
本当に俺、あの人に勝ったんだよな……
脳内にすかさず冷ややかな声が響いた。
『はい。間違いなく。ただ、本人が全力だったとは限りませんが』
……うん。絶対に何か隠してそう……。
その時、俺の隣にいたレーヴァさんが目を見開いて、硬直していることに気づいた。
「レーヴァさん?」
彼女の口から、信じられないものを見るような声が漏れる。
「……クロード、さん?」
クロードさんが足を止め、レーヴァさんを見て目を細めた。
「おやおや。これは……レーヴァ様ではありませんか」
生首と体を無造作に捨て、綺麗な一礼をする。
「お噂はかねがね。ますますご健勝のようで何よりです。」
「やっぱり……昔、俺たち勇者パーティの戦術指南だったあんたが、なんでここに…」
「「「えっ!?」」」
全員が声を上げる。
勇者パーティの戦術指南役だったの!?
「昔の話ですよ。今の私は、ただのしがない執事に過ぎません」
「王命で俺達の前から姿を消したのはわかるが、本当に執事をやってるのか!?」
レーヴァさんの動揺が止まらない。
「色々ありまして。その話はまた機会がございましたら」
クロードさんはふわりと笑って、その話を強引に打ち切った。
そして、打ち捨てた肉塊に視線を落とす。
「さて。このテキゼン侯爵様の死体ですが、レヴナントとして蘇った明確な証拠です。ギルドへ持ち帰り、報告せねばなりませんな」
また頭と体を拾おうとする。
「「「引き摺って帰る気かよ!!」」」
俺と騎士たちが、全く同じタイミングでツッコミを入れた。
「さすがに夜の町でそれをやってたら、ヤバい殺人鬼ですよ!」
俺が慌てて止めに入ると、レーヴァさんが深くため息をついた。
「おい、たきび。転移か何か知らないが、今すぐ全員まとめてギルドの前まで飛ばせるか?」
「はい。問題ないです」
「なら、頼む。こんな悪趣味なもん、一秒でも早くギルドマスターに押し付けたい」
レーヴァさんはそう言って、クロードさんの背中を複雑な視線で見つめていた。
「今から、皆さんを転移させます」
「転移?」
「あれ?そう言えば、あいつ誰だ?馴染みすぎてて、全然わからなかった」
「レーヴァさんもいるよな!何がどうなってるんだ!?」
ようやく周りが見え始めたような騎士三人。
うんうん。起きた瞬間、クロードさんの死体引き摺りシーンだったし、仕方ないよね。
「たきび様。この死体も一緒に転移させて頂けますでしょうか?」
クロードさんは、丁寧な言葉遣いと頼む内容のギャップが凄いな!
「多分いけますよ。とりあえず今回はそのまま置いといてください」
「かしこまりました」
「動いたら死ぬかも知れないので、絶対動かないでくださいね」
「死ぬ!?」
騎士達は自分の体に力を入れる。
それよりも、ドーザさんの方が必要以上に固くなるのを俺は見逃さなかった。
まあ、死なないけどね。
アカシャ、準備はいい?
『問題なく』
「行きますよ。シフトチェンジ!」
次の瞬間──俺たちは冒険者ギルドの巨大な扉の前に立っていた。
ご一読いただきありがとうございます。
面白い、続きが気になる!と思っていただけましたら、気軽にブックマークや評価、応援していただけると継続の励みになります!
次回、第83話は【職業が2つ?】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。




