第81話:聖女の力
恥ずかしい登場をさせたたきびに対し、女性らしい一面を覗かせるレーヴァ。
その姿に満足感を覚えるたきびだが、レーヴァの治癒への姿勢と実力に尊敬の念を抱く。
そして、レーヴァに対し聖女としての仕事を再依頼するのであった。
「行けっ!」
俺の命に応じ、完全に修復を終えた巨大ゴーレムが再び跳躍した。
数トンの質量が、上空から起き上がりかけたレギオンの脳天へ向かって叩きつけられる!
メギャァァァッ!!
容赦のない踏みつけ。
レギオンの上半身が、砕けた石畳もろとも地面へ深くめり込む。
その激しい衝撃波が、周囲の粉塵を吹き飛ばした。
「ガ、ギ……ア……ッ」
再生しようと蠢く無数の肉芽。
だが、ゴーレムは攻撃の手を緩めず、ひたすら巨大な拳と脚で猛攻を浴びせ続ける。
俺のすぐ後ろで、レーヴァさんの凛とした声が響き渡った。
「──顕現せよ。【スクレピオ】」
その声に思わず振り向くと、レーヴァさんの手には、清濁を併せたような圧倒的な存在感のある杖が握られていた。
うぉぉぉ!?もしかして、めちゃくちゃ格好いい武器召喚だった!?
くそっ、見逃した!
『今後いくらでも見る機会はあるでしょうから、今は前を向いてください』
冷気すら感じるアカシャの声に、俺は「はいっ」と心の中で縮こまり、サッと前を向いた。
レーヴァさんの呪文の詠唱が、ホールに響き渡る。
「——サンクタム・ソリドゥム。アブルエ・ヴルネラ、ドローレム・ペッレ。ファネーロシス・タウマトス、アルジェントゥム!(不可侵の理よ、此処に無垢なる平穏を敷け。穢れし呪縛を洗い流し、嘆きを打ち払え。大いなる奇跡よ、現世を全て白銀に染め上げよ!)」
魔力を感じ取れないはずの俺の肌にすら、圧倒的な威厳と神聖さが伝わってくる。
しかし、それは圧迫感ではない。
まるで全身が浄化されていくような、心地よい暖かさ。
レギオンの濁った無数の目が、一斉にレーヴァさんの方へと向く。
ゴーレムの猛撃すら無視し、自らの肉体をちぎり飛ばしながらも、狂ったようにレーヴァさんへ突進を開始した。
レギオンの動きには、死に物狂いの焦りが滲み出ていた。
あれはまずい!
——喋れないレギオンからそんな叫びが聞こえてきそうな程に。
「させないよ!」
俺は、即座にもう一体の土のゴーレムを錬成した。
そして、レギオンの進行ルートへ強固な壁として割り込ませる。
「ぎぃぃいい……ぐぅぅ……あああ……!」
怒り、焦り、困惑、そして絶望。
あらゆる感情が混ざり合ったような叫びが、体中の口から漏れ出す。
その瞬間──。
「第五階梯魔法──【アルジェーリア・レクティスマ(白銀の大葬送)】」
聖杖が硬い石畳を「コン」と突く。
瞬間、ホールの床一面に見たこともないほど巨大で、緻密な銀色の魔法陣が展開し始めた。
圧倒的な白光を伴う魔法陣。
その輝きが、俺の目にもはっきりとその全貌を視認させてくれた。
「す、すげぇ……魔法って、こんな風に展開するのか……!」
白銀の魔法陣から、光の奔流が怒涛の如く逯る。
やがて、巨大な白銀の光芒がホール全体を真昼のように照らし出し始めた。
視界の全てが、純白の光で覆い尽くされていく。
俺は思わず腕で目を覆った。
神ワラン様と相まみえた、あの神聖な空間を思い出す程の圧倒的な浄化の光。
やがて光が収まり、おそるおそる目を開けると──
レギオンの巨体は、影も形もなく消滅していた。
振り返ると、そこには聖杖を手に静かに目を閉じ、何かの言葉に耳を傾けるように佇むレーヴァさんの姿があった。
まるで神殿に祀られた女神像。
紛れもない聖女たる神聖さが、そこにあった。
やっぱり、凄いわ、この人……。
『レギオンの消滅を確認しました』
脳内に響くアカシャの冷静なアナウンス。
同時に、コン……と乾いた打撃音が石畳に響いた。
「ん……?」
ゴーレムが立っていた足元を見ると、そこに3センチほどのどす黒い石が転がっていた。
手に取ってみると、魔力を感じない俺の皮膚にすら、不気味な圧力が伝わってくる。
「……間違いない。それは、アテル・キャパシタだ」
いつの間にか、レーヴァさんの回復魔法で動けるようになったドーザさんが、誰の肩も借りずに歩み寄ってきていた。
その表情は極めて厳しく、いつも以上に鋭い眼光が黒い石に注がれる。
「ドーザさん、もう動いて大丈夫なんですか?」
「ああ、聖女殿のおかげでな。この通りだ」
そう言って胸をバンバンと力強く叩いてみせる。
「そいつが恐らく、あの化け物の動力源だな」
後から近づいてきたレーヴァさんも、眉間に皺をよせ凝視しながら口を開く。
「無尽蔵の再生能力も、その石から絶え間なくエネルギーを得ていたからだと考えれば納得がいく」
『アテル・キャパシタは、周囲の魔力を自動で吸収する性質があります。巨大なものだと、それ一つで国一つの魔力的生活基盤を補えます』
とんでもない代物だな!
こんなものを使うなんて……。
俺は大きなため息をついた。
「取り込まれていたレヴナント達は……?」
「……ああ、穢れごと綺麗に浄化されて天へ還ったよ」
「そうですか……」
それ以上、深く語ろうとしないレーヴァさんの横顔を見て、俺も多くを尋ねることはしなかった。
俺は手の中にある黒い石を、壊れんばかりに強く握りしめた。
幼い子供の顔まで素材として弄び、死者の尊厳を踏みにじった姿なき外道。
「そのツラ拝んだ暁には……覚悟しろよ」
俺が暗い執念を込めて天井を見上げた、まさにその時だった。
「おやおや、皆さんお揃いでしたか」
静まり返ったホールに、戦闘の余韻を吹き飛ばす、場違いな声が響き渡った──。
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次回、第82話は【予期せぬ邂逅】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。




