第80話:寿命が10年は延びた気がする
レギオンの多重魔法を完全に封殺する事に成功したたきび。
一気に形勢が逆転するも、レギオンの回復力と学習能力は衰えを知らない。
そんな中、レーヴァさんの声と強制転移が逆転の糸口を手繰り寄せる。
「ちょっと待てぇぇぇい!!」
変なポーズのまま固まっていたレーヴァさんが、爆発的な勢いで叫んだ。
顔を耳の先まで真っ赤に染め上げ、猛烈な勢いで俺の胸ぐらに掴みかかってくる。
「お前、本当にふざけんなよ!?許可なくポンポン人を転移させるとか、どんな高度な嫌がらせだよ!?私だって、その……なんというか、心の準備が……っ」
照れてゴニョった!
あの勝気なレーヴァさんが、テレゴニョったよ!
ああ、尊い。
俺の寿命が10年は延びた気がする。
俺は目を瞑り、ふっと息を漏らして顔を上向かせた。
『はあ……』
脳内に響くアカシャの深く呆れた溜息。
「お前!!聞いてるのかよ!」
「聞いてます聞いてます!文句は後でいくらでも聞きますから!ほら、それより後ろ!傷病者!大至急お願いします!」
俺が必死の形相で指差しした方向に、レーヴァさんが勢いよく振り返る。
壁に背を預けて血を吐くドーザさんと、ピクリとも動かない三人の騎士たち。
その凄惨な現場を目にした瞬間、彼女の顔からコメディの色彩が完全に引き散った。
「……チッ、文句言ってる場合じゃねぇな」
レーヴァさんは荒っぽく舌打ちすると、即座にドーザさんの元へ駆け寄る。
俺もドーザさん達のタクティカル・シェルをすぐに解除した。
一瞬俺の方を見て、何か言いたそうだったが、すぐにしゃがみ込みながらその目に鋭い魔力を込める。
続けて横たわる騎士たちにも、素早く診察の視線を向ける。
そんな緊迫した空気の中──
ズズズ……ッ!
崩落した石壁の巨大な風穴から、地響きのような不気味な足音が響いてきた。
もう再生して動き出したか。
「レーヴァさん!化け物が来ますが、俺が抑えるので集中してください!」
レーヴァさんはこちらを見向きもせず、コクリと頷いた。
さっきまで真っ赤になって胸ぐらを掴んできていた人と同一人物とは思えない。
めちゃくちゃカッコいいな!
『マスターも、そろそろあれくらい頼もしくなって貰わないと困ります』
善処しますよ。
俺は目線の先を変えて指示を出す。
「行け、ゴーレム!」
巨躯のゴーレムが風穴に向かって一気に疾走し、屋敷の外へ飛び出していく。
すぐさま怪獣大決戦の第2ラウンドが始まったような、激しい打撃音が轟き始めた。
よし、そのまま足止めしておいてくれ。
俺が再び室内に視線を戻す。
すると、ちょうど初診を終えたレーヴァさんが静かに立ち上がるところだった。
「……かなり危険な状態だが、これなら間に合う」
そう呟いた彼女は、傷ついた者たちの胸元へ向けてすっと両手をかざした。
すぐに、透き通った声で呪文を紡ぎ始めた。
それまでの荒々しい口調からは、想像もつかない程の神々さが伝わる。
「アル・フィナ、ルシエ・エル・ヴィータ(天の息吹よ、命を満たせ)──。第三階梯魔法【レベレーション・ルクス(聖光の大福音)】!」
その圧倒的で温かな神聖魔力は、眩いばかりの純白の光となり、一瞬にしてドーザさんと騎士たちの全身を包み込んだ。
塞がっていく酷い傷口、急速に整っていく呼吸。
死の影が差していたドーザさんの顔色に、みるみるうちに生気が戻っていく。
「うぉぉ……」
ドーザさんが感極まったような、声にならない声を漏らした。
「ふぅ……内臓の破裂も繋ぎ合わせた。あとは安静にしてりゃ助かる。騎士たちもじきに目を覚ますだろう」
「かたじけない、レーヴァ殿……」
身体を起こしたドーザさんが、深々と頭を下げて礼を尽くす。
「さすが聖女様!やはりレーヴァさんがいると安心感が段違いですね!」
「調子のいいこと言ってんじゃねぇ!治療費と精神的慰謝料は後でたっぷり請求するからな!」
レーヴァさんが一息を吐きながら俺を睨みつける。
だが、一同が胸を撫で下ろしたのも束の間──
ボーンッ!!ガリガリガリガリ!
崩落した石壁の風穴から、俺のゴーレムが地面へ激しく背中を擦りつけながら吹き飛んできた。
「抑えきれなかったか」
『いえ、あれを相手にここまでよく持ち堪えてくれたと言うべきでしょう』
よく見ると、ゴーレムの岩のような土肌が所々大きく削れ始めている。
「確かに、よくやってくれてるな」
俺が手をかざすと、削れた部位が修復されて元の形を取り戻していく。
「お、おい!あの巨大なゴーレムもお前が錬成したのか……!?あんな規格外のサイズまで作れるのかよ……」
目を大きく見開きつつも、どこか呆れたようなトーンでレーヴァさんが呟く。
「ええ。ただ、相手も相当デカくて」
そんな会話を交わした直後、レーヴァさんが急に眉をひそめて風穴の外を凝視した。
屋外の敷地へ吹き飛ばされたレギオンが、赤黒い肉芽で強引に再構築しながら、ゆっくりと屋敷の中へ戻ってきたのだ。
「おい……あれ、レギオンだろう?」
「ええ、ドーザさんもそうだろうと」
「……ゾンビ、いや、レヴナントを集積体にしやがったのか…」
そう呟くレーヴァさんの拳が、ギリギリと音を立てて強く握り締められる。
この人も、死者の尊厳を汚す行為に本気で怒りを覚える人なんだ。
そう確信できた瞬間、俺の胸の奥がじんわりと暖かくなった。
レギオンの体表に浮かぶ無数の口が動き、再び多重魔法の不気味な詠唱を始めようとする──が。
「無駄だよ」
俺は冷たく言い放った。
レギオンの全身を包む『アルゴン』の不活性膜は、未だ完全に機能を維持している。
背後に浮かび上がったであろう魔法陣は、その先の現象を起こす事は無い。
ただ、不発のまま虚空でネオンのように明滅を繰り返すだけなのだろう。
「魔法が発動……しない……!?お前、あの化け物に一体何をしやがった?」
驚愕するレーヴァさんを背に庇い、俺は右手を開いて目の前の巨躯へと一歩踏み出した。
「レーヴァさん。もう一仕事、お願いできますか?」
一瞬の沈黙の後、背後から力強い声が返ってきた。
「安心しろ。最初からそのつもりだ」
その頼もしい言葉に、俺は思わず表情を和らげた。
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次回、第81話は【聖女の力】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。




