第78話:ゴーレム対レギオン
レギオンを作り出したのがネクロマンサーだと知り、その所業に憤りを覚えたたきび。
一時でもこの化け物を生かして置くわけにはいかないと、首を切り落とすが、通常のセオリーが全く通用しない相手だった。
次の一手を模索しようとした時、聞き慣れた声がたきびの脳内に届く。
「レーヴァさん!大丈夫ですよ、今は絶賛、異形と戦いの真っ最中です!」
『全然大丈夫じゃねぇじゃねえか!!』
通信の向こうから、お手本のような怒声が響き渡る。
実にいいリアクション!
『ドーザ伯父様は!?騎士様たちはご無事なのですか!?』
被せるように切り込んできたのは、泣き出しそうなテレスタリアさんの声だった。
「怪我はしていますが、生きています!」
『ああっ……良かった……!』
安堵の溜息が聞こえる。
決して、嘘は言っていない!
ただ、一刻も早く治療が必要な状態なのも事実だ!
「レーヴァさん、ちなみに今どこですか?」
『テレスタリアから状況を聞いてな!一刻も早くギルドマスターに緊急事態を伝えるため、二人で走って向かってるところだ!』
テレスタリアさんの荒い息遣いが聞こえる。
「了解です!じゃあ、一旦そこで立ち止まってもらえますか?」
『はあ!?何言ってやがる、一秒でも早く……』
『レーヴァ様、止まってください!たきびさん、例のあれですね!?』
通信越しに、テレスタリアさんの興奮を孕んだ叫びが割り込む。
『おいテレスタリア、お前まで何を……こんな道端で止まってどうすんだ!』
『いいから止まってください!お願いします!』
向こうは大混乱のようだが、こちらもそろそろ悠長に喋っていられない状況になってきた。
ズシン……!ズシン……!
首を叩き切ったはずのレギオンが、赤黒い肉芽で強引に頭部を接合し、地響きを立てて迫ってくる。
体表に浮かぶ無数の濁った眼球が、一斉に俺だけをロックオンしていた。
自分を切り刻んだ相手を、最優先で排除する気らしい。
好都合だ。
「こっちだ!」
俺は壁際で倒れるドーザさんたちから意図的に離れ、ホールの反対側へレギオンを誘い出す。
「ガ……ア……!」
不気味な多重音声を響かせ、数トンの質量を持った巨体が床を叩き割って突進してきた。
大木のような右腕が、俺を叩き潰すべく振り上げられる。
「来い!」
ボォンッ!!
激しい打撃音がホールに轟いた。
だが、それは俺に届いた音ではない。
俺の錬成した巨大ゴーレムが、レギオンの側面に強烈な飛び蹴りを叩き込んだ音だ。
メチャァッ!
しかし、レギオンもただの肉塊ではなかった。
学習したのか、左腕を盾にして足蹴りを受け止めていたのだ。
腕の骨が砕け、肉が弾け飛ぶ。
しかし、レギオンはお構いなしに、体を大きく捻り、全体重を乗せた右腕を振り抜いてきた。
ガガァァァンッ!
何トンもある俺の巨大ゴーレムが体勢を崩し、石畳を深く削りながら後方へ滑っていく。
そのわずかな間に、飛び散ったレギオンの肉片が生き物のように足元へ吸い寄せられ、一瞬で傷口を塞いでしまった。
「本当に厄介だな!」
即座に姿勢を立て直したゴーレムとレギオンが組み合い、巨躯と巨躯が拳を叩きつけ合う、凄惨な怪獣大決戦が始まった。
『おい!そっちからすげぇ地響きと爆音が聞こえるが、本当に大丈夫なのか!?』
通信越しに、レーヴァさんの焦燥しきった声が響く。
「こっちは平気です!それより、完全に立ち止まりましたね?」
『ああ、止まったぞ!だから何だってんだ!』
俺は目の前の殴り合いから目を離さず、脳内の相棒へ命令を下す。
アカシャ、いけるか?
『二人の座標を確認。実行します』
相棒の頼もしい返答を確認し、俺は通信に向かって叫んだ。
「絶対にその場から動かないでくださいね!」
『何を言って──は?……はああああぁぁぁっ!?』
直後、通信の向こうで響いていた荒い息遣いがピタリと止まり、レーヴァさんの絶叫だけが脳内に響き渡る。
「ちょっ!急に大声出さないでくださいよ!頭が割れる!」
『い、いや、だって……!!景色が……急に冒険者ギルドが目の前に現れたんだぞ!?……お前、まさかあの時の転移を俺達に!?』
元Aランク冒険者の傑物も、突然遠隔地へ飛ばされる規格外の事態には形無しらしい。
パニックを起こしているのが目に見えるようだ。
「説明は後です!早くギルドマスターのところへ!テレスタリアさん、お願いしましたよ!」
『は、はいっ!行きましょう!レーヴァ様!』
『お、おう……!』
通信を一旦遮断する。
レーヴァさんがいればギルドも即座に動くだろう。
「さて、問題はこっちだな……」
俺は再び、目の前の怪獣大決戦へ意識を戻した。
パワーと装甲の硬度では、俺のマッド・ゴーレムが圧倒している。
レギオンの腕をへし折り、胴体を穿ち、頭部を砕き続けているのだ。
だが、あの異常な再生力がすべてを無効化していた。
引きちぎられた肉がうねり、数秒で元通りの腕や足が生えてくる。
「このまま打撃戦を続けても埒が明かないな!」
さらに悪いことに、レギオンはゴーレムと殴り合いながら、体中の口で不気味な多重詠唱を開始していた。
異なる属性の呪文が絡み合い、ホールの空気が密度の高すぎる魔力でビリビリと震え始める。
「くそっ、またあれが来るぞ!」
壁際のドーザさんが叫ぶ。
正直、俺の巨大ゴーレムなら、密着状態の弾幕にも耐えられるだろう。
だが、漏れ出た衝撃波や跳弾がドーザさんたちに直撃すれば終わりだ。
俺の切り札はレーヴァさんなんだが……まだか!
『魔法陣の展開を確認。急速に数が増えています!』
炎、氷、水、岩──数十もの魔法陣が、狂い咲くように展開されはじめたって事か!
俺は脳内で素早く問いかける。
アカシャ、『あれ』は使えるか?
『周囲の空間から抽出できる量では到底足りませんが……これまでストックしていたものを全開放すれば、可能です』
彼女の演算結果を聞き、俺は口角を上げた。
「よし、やるぞ!」
全てを破壊しようと俺には見えない魔法陣を展開し続けるレギオンの巨体に向けて、右手のひらを真っ直ぐにかざした。
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次回、第79話は【ゼロ・リアクション・ゴーレム】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。




