第76話:どんだけ撃てるんだよ!
テレスタリアの願いを聞き、サーヴェツェリ侯爵の屋敷入口の扉に転移したたきび。
間一髪で、ドーザを救う事に成功し、一時の安堵が心を撫で下ろした。
しかし、姿が見えないレギオンが、次の行動を起こし始める。
崩落した石壁の向こう側。
俺が創り出した巨大ゴーレムが、圧倒的な威圧感を放ちながら仁王立ちしていた。
その足元で、緊張の糸が切れたように大剣を取り落とし、背中から倒れ込もうとする血まみれの巨漢──ドーザさんの姿が見えた。
「ドーザさん!」
慌てて駆け寄り、崩れ落ちる巨体を下からガシッと受け止める。
……あれ?拍子抜けするほど軽い。
連日の強行軍で痩せたのか!?
『マスター。今のあなたの身体能力なら、成人男性を鎧ごと片手で軽々と持ち上げられます』
脳内でアカシャが冷静に事実を告げる。
あ……そうだった。
掴まれた腕を引くだけでも……。
若干自分自身に引きつつも、俺は彼を抱え直した。
「すまない……まさか、たきび殿が来てくれるとは……。テレスタリアが……?」
「はい。今はレーヴァさんのところにいます」
「なっ!?テ、テレスタリアに何かあったのか!?」
ドーザさんの顔が、一瞬にして不安と焦燥に支配された。
口元から血を撒き散らしながら、彼は俺の肩を掴んでガクガクと激しく揺さぶってきた。
「ちょ、落ち着いてください!傷に触りますから!」
「テレスタリアは大丈夫なのか!?」
「な、何もなかったとは言いませんが、今はレーヴァさんが診ているので大丈夫ですから!」
絶対の治癒力を持つ彼女の名前を出して、俺は必死に説得するとドーザさんの肩からスッと力が抜けた。
姪のことになると痛みすら忘れちゃうのな。
絶対、ニースコンプレックスだろ!
俺は彼を丁寧に誘導し、倒壊を免れた石壁に背中を預けさせた。
「すまない……取り乱した……」
「いいから今は楽にしてください。彼女のことは後で詳しく話しますから。それより今は──」
言いかけたその瞬間、脳内でアカシャの警告が鋭く鳴り響いた。
『マスター。奥の部屋より、広域の魔力反応を検知』
『現在……三十、四十以上の多重魔法が同時展開中です。まだ増えています』
四十以上の同時詠唱!?
体中に生えた口が、それぞれ独立して呪文を紡いでいるとでも言いたいのか!?
『鋭いですね。その通りです』
……マジかよ。冗談だろ?
『展開されている魔法は、火、水、氷、土、風の多属性。いずれも第一、あるいは第二階梯魔法です』
あれ?それなら、大した事ない?
『確かに単発の威力は低いですが、飽和攻撃による物理的破壊力は高位階梯魔法に匹敵すると推測』
どんなイカれた魔法回路をしてんだよ!
『猶予はありません。タクティカル・シェルを、彼と倒れている騎士たちに付与してください』
俺はすぐに行動を開始した。
床に倒れてピクリとも動かない三人の騎士たちの位置を視認する。
そして、三人の騎士をエア・ゴーレムと入れ替えてドーザさんの側へと一瞬で転移させた。
「タクティカル・シェル!」
同時に、空気の断熱層と土の剛性を組み合わせた高密度ゴーレムの装甲を、彼らの体に鎧として展開させる。
「こ、これは……?」
「俺のスキルで作ったゴーレムの鎧です。これから大量の魔法が飛んでくる気配があります」
「なっ……!また、あの魔法の嵐が来るというのか!」
ドーザさんが再び身を乗り出そうとして激しく咳き込み、大量の血を吐いた。
「無茶しないでください!」
ちょっとヤバいんじゃないの、これ!?
呼吸のたびにヒューヒューと嫌な音が鳴っているし!
戦闘を巨大ゴーレムに任せて、レーヴァさんを強制的に転移させるか?!
そう考えた矢先だった。
『マスター、来ます!』
せわしないな!
だが、迷っている暇はない!
「行け!!」
ホール中央に立つ巨大ゴーレムが、ズシン!ズシン!と地響きを立てて崩れた壁の正面へ立ちはだかった。
大の字になって穴を塞ぐ最大の盾。
──直後。
ズガガガガガガガァァァッ!!
視界を白く染め上げるほどの絶大な閃光と爆風が押し寄せてきた。
炎の球体、氷の矢、風の刃、水の弾丸、そして岩の尖角。
五属性の極彩色の魔法群が、狂乱の嵐となって押し寄せる。
一発一発は下位魔法だとしても、四十の連続掃射となればもはや爆撃だ。
ミニガンの一斉射撃を至近距離で浴びるような凄絶な着弾音が、ドーム越しに空気を震わせ続ける。
だが──。
「おお……!」
装甲の隙間から外を見ていたドーザさんが、驚愕の声を上げた。
自分たちを壊滅寸前まで追い詰めた死の雨が、巨大ゴーレムの分厚い装甲によって完璧に阻まれていた。
『表面の削れを確認。ですが、対処可能なレベルです』
アカシャの報告に胸を撫で下ろす。
ちょっと表面が削られるのは悔しいが、後で修復していけば突破されることはないか。
問題は時間だ。
「ドーザさん、騎士たちの状態は!?」
「分からん……化け物の直撃を喰らい、意識がない……」
『生命反応はありますが、一刻も早い治療が必要です』
激しい着弾の閃光が、暗いホールを真昼のように照らし続けている。
敵の弾幕は衰えるどころか、さらに手数を増しているようだった。
どんだけ撃てるんだよ!
爆音と粉塵が踊り狂う中で、俺はそれらを掻き消すようにドーザさんに問いかけた。
ご一読いただきありがとうございます。
面白い、続きが気になる! と思っていただけましたらブックマークや評価応援していただけると嬉しいです。
次回、第77話は【死んだ人の願いを叶える職業だから】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。




