第74話:希望の見えない防衛戦
クロードがテキゼンと激しい戦闘をしていた同時刻、一階のホールでは、テレスタリアを逃がしたドーザと三人の騎士が、レギオンと対峙していた。
圧倒的質量を誇るレギオンの猛攻が襲いかかる。
——同時刻。
薄暗い侯爵邸のホールにて、絶望的な防衛戦が幕を開けていた。
「ライト・バックラー!」
三人の騎士の叫びと同時に、その手にある盾が眩い光を放つ。
ドーザは彼らの背中に向け、両手を突き出した。
「第三階梯魔法──『ガルドル・エクスード』!」
黄金色に輝く巨大な盾型障壁が展開され、彼らと異形の巨体の間を遮る。
直後、レギオンの体表に蠢く無数の口が一斉に多重詠唱を終えた。
訪れた一瞬の静寂──そして、目視不能な密度の魔法攻撃が一丸となって襲いかかる。
「うおおおおおおおっ!!」
ズガガガガガァァァッ!!
障壁の表面で激突する炎、風、水、氷、土。
跳弾した魔力の残滓が床の石畳を削り取り、爆煙と粉塵が視界を白く染め上げる。
「ぐおおっ……!」
「耐えろ!押し返せ!」
砲撃のごとき衝撃と異常な寒暑が、防壁越しに彼らの体力を削っていく。
じりじりと後ろへ滑るドーザのブーツ。
「ドーザさん!大丈夫ですか!」
前列で魔法の盾を支える騎士の一人が、悲痛な声で叫んだ。
「魔法防御に特化したガルドル・エクスードでも、この数の魔法攻撃では!」
「まだいける!俺を信じろ!」
鳴り止まない砲撃の雨の中、ドーザは大声で吠えた。
くそっ……単発の威力より、この圧倒的な数が……!
ギリリ、と奥歯が鳴る。
騎士たちも必死に足を踏ん張り、光の壁を支えていた。
だが、限界は無情に訪れる。
ピキリ。
爆音の隙間に走った不吉な亀裂。
黄金の盾に蜘蛛の巣状のヒビが徐々に広がり──
パリンッ!!
甲高い音とともに障壁が粉々に弾け飛んだ。
防御を失った彼らの上空から、残存した魔法の雨が降り注ぐ。
「お任せを!」
体勢を崩したドーザの前に、三人の騎士が飛び出した。
「魔力出力最大!」
「ドーザ殿を守れ!」
光を纏わせた盾を掲げ、肉の壁となって猛威を受け止める。
爆風に鎧を削られながらも、彼らは決死の覚悟で余波を耐え抜いた。
嵐が去り、荒い息遣いだけがホールに響く。
「みんな、無事か?!」
ドーザが前に立つ三人に問いかける。
「なんとか……。ですが、もう盾は…」
前に立つ騎士たちの鉄盾はひしゃげ、光は完全に途絶えていた。
ズン……ズシン……。
地響きを立て、数トンに及ぶレギオンが再び歩みを踏み出す。
「クソッ……!」
ドーザは大剣を構え直し、荒い息の合間に思考を走らせる。
再度の多重魔法がない──一度放てば一定のインターバルが必要なタイプか。
「連続では撃てんらしい!懐へ潜り込み、接近戦で凌ぐぞ!」
「了解!」
騎士たちが死んだ盾を投げ捨て、一斉に抜刀する。
ドーザも床を強く蹴り、速度を殺さずに間合いを詰めた。
それを待ち構えていたかのように、レギオンが大木のごとき左腕を振り上げる。
ドゴォォォン!!
叩きつけられた拳が石畳をすり鉢状に粉砕し、鋭い破片が弾丸となって飛び散る。
しかし、その圧倒的な破壊力の中心に、誰の血も肉も潰れていなかった。
「散開!」
振り下ろされる直前の号令により、四人は左右へ跳んで直撃を回避していた。
「今だ、斬り刻め!」
「おおおおっ!」
紙一重でかわした騎士たちが反転。
床にめり込んだ巨腕へ刃を叩き込む。
どす黒い体液が噴出する隙を見逃さず、さらに間合いを詰めたドーザが大剣を振りかぶる。
狙うは、巨体を支える膝の関節。
「沈めぇっ!」
渾身の一撃がレギオンの太い膝裏を断ち切る。
「ガ、ギィ……ッ」
支柱が砕かれ、レギオンの巨体が大きく右へ傾いだ。
勝機──そう確信し、追撃の剣を掲げたその時だった。
「ア……ア……」
異形の体表に存在する無数の口が、限界まで歪に開かれる。
「いぎゃああああああああああああっ!!」
ホール全体がビリビリと震え上がった。
男とも女とも、大人とも子供ともつかぬ絶叫の交響曲が、脳と内臓を直接揺さぶる。
「う、あ……っ」
「な……んだ……?」
沈んでいく泥沼の底で、得体の知れない何かに足を撫でられたかのような感覚が支配する。
騎士たちの思考と身体が完全に硬直し、激しく瞳を泳がせている。
「まずい、精神汚染か……!」
一人踏みとどまったドーザが、喉を焼き切らんばかりの声で呪文を叫ぶ。
「【ウォー・ブレザ】!」
発せられた精神浄化の光が三人を包み込み、濁りかけた瞳に正気が戻る。
「クソッ……俺たちは……」
しかし、彼らの金縛りが解けたその瞬間には──レギオンの巨腕による水平薙ぎ払いが、すぐ眼前にまで迫っていた。
「伏せろぉっ!!」
ドーザの悲痛な叫びも虚しく。
「あ……」
ボガガガァァァン!!
圧倒的な質量が、三人の身体をまとめて薙ぎ払った。
硬い鎧がひしゃげる凄惨な音とともに、騎士たちは壁へ激突し、人形のように崩れ落ちる。
「……よくもッ!!」
ドーザの体内から爆発的な魔力が溢れ出す。
沸騰する血管、軋む筋繊維。
大剣を握り締め、彼は鬼神の如き相異へと変貌を遂げていた。
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次回、第75話は【最後の強がり】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。




