↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴーレムの正しい作り方 〜俺のゴーレム、絶対おかしいと言われるんですが、なにか?〜  作者: 水無月 五色
ベルシア編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/113

第65話:還死者たち

ドーザとテレスタリアはクロード、そして騎士3名と共に、サーベツェリ侯爵邸に入る事に。


今までに無い雰囲気がする侯爵邸に、緊張する一行。


そして、とうとう建物内に入るも、そこに現れたのはサーベツェリ邸内で働く「人々」だった。

肌からは完全に生気が失われ、まるで植物の根のようなドドメ色の血管が全身に浮き出ている。


白く濁った瞳は焦点を結ばず、ただ不気味にキョロキョロと動き回っていた。


そして何より、彼らの首や胸元には、生きた人間であれば即死しているはずの致命的な大穴が開き、どす黒い血がこびりついている。


「やはり…」


この地獄絵図を予測していたかのように、クロードが冷たく呟いた。


「あ、あれは……一体……!?」


テレスタリアの全身の震えが止まらない。


奥歯がカチカチと鳴り、美しい肌から急速に血の気が引いていく。


「レヴナント(還死者)か!来るぞ!」


ドーザの怒声が広間に響き渡った瞬間。


何十体もの動く死体たちが、侵入者を徹底的に排除する絡繰のように、一斉に襲い掛かってきた。


「なっ!?」


騎士の一人が驚愕の声を上げる。


無理もない。


重い鎧を着た騎士姿のレヴナントの動きは、鈍重な屍のそれではなく、生きた人間のように機敏だった。


ガキンッ!


ドーザの大剣が、襲い来る騎士レヴナントの剣を弾き返す。


その太刀筋は、紛れもなく熟練の剣士が放つ鋭い一撃だった。


「な、なんでゾンビが剣術を!?」


「くそっ、囲まれるぞ!」


騎士たちも即座に応戦するが、相手の予想外の力と技量に、明らかに押されている。


その瞬間。


「ぐあっ!」


陣形の右翼を担っていた騎士が、苦悶の声を上げた。


彼の腕の鎧の隙間に、小ぶりのナイフが深々と突き刺さっている。


「どこからだ!?」


別の騎士が視線を向けた先。


大広間の二階の回廊に、数本のナイフを指の間に挟んだ『料理人姿の女』が立っていた。


その腕は、すでに次の投擲フォームへ入っている。


「しまっ……!」


負傷した騎士を庇うように別の騎士が盾を掲げた瞬間。


ガキンッ!!


女性の腕力からは到底出せない凄まじい衝撃音が鳴り響き、騎士の体勢が崩れた。


「テレスタリア!頭を下げろ!」


ドーザの声に、テレスタリアは弾かれたようにその場にしゃがみ込み、頭を抱えた。


剣戟の音、肉を断つ音、怒声が頭上を飛び交う。


この恐るべき状況と敵の正体を正確に把握しているのは、ドーザとクロードだけだった。


未知の脅威に混乱する騎士たちは、明らかに動きの精彩を欠き始めている。


このままでは全滅する。


ドーザはすぐさま声を張り上げた。


「対人・乱戦対応!飛び道具に注意して応戦しろ!首から上を狙え!」


『化物との戦い』ではなく、『対人戦』として思考を切り替えろという明確な号令。


その言葉に騎士たちはハッとし、瞳に戦士としての決意を取り戻した。


明確な指針を得た彼らの動きが、劇的に向上する。


だが、しゃがみ込むテレスタリアは、まだこの悪夢を咀嚼しきれていなかった。


レヴナント。


彼女が初めて聞く言葉。


彼女の知識にある『ゾンビ』は、もっと動きが鈍く、ましてや剣術や投擲など、生前の技能を使うことなどあり得ない。


魔力の気配も不自然極まりない。


何が起きているのか。


テレスタリアの目は、現実から逃げ場を探すように泳いでいた。


震えながら、自分を守る騎士たちの足元へ視線を落とした、その時だった。


布陣を敷く騎士達の足の間から、ナイフを握る細い腕がヌッと伸びてきた。


テレスタリアの瞳孔が一瞬で開ききる。


「いやああああああっ!!」


悲鳴が喉を切り裂いて飛び出した。


彼女が何に叫んだのか、激戦中の騎士たちには視認できない。


目の前のレヴナントを蹴り飛ばして間合いを開けたドーザが、弾かれたように振り返る。


そこにいたのは――


血塗れのナイフを握りしめた、五、六歳ほどの小さな男の子の――上半身だけだった。


乱戦の中、幾度となく踏まれ続け、踏み千切られたのであろう下半身を置き去りにし、両腕だけで這いずり、絶望で硬直するテレスタリアに向かってナイフを振り上げている。


「テレスタリア!目を瞑れ!!」


ドーザの絶叫に、テレスタリアは反射的にぎゅっと目を閉じた。


直後。


ズッ……ガキンッ!……ゴロ……。


鉄の塊が肉を貫通し、硬い石畳に深々と突き刺さる音。


「ひっ……」


何が起きたのか確かめようと薄目を開けかけたテレスタリアに、再びドーザの声が飛ぶ。


「そのまま目を閉じて、絶対に動くな!」


彼女は再び震えながら目を強く閉じ、両腕で頭を抱え込んだ。


ドーザの声で理解した。


すぐ目の前に、完全に活動を停止した、あの小さな男の子の姿があるのだと。


想像するだけで、胃液が込み上げてきそうになる。


「各自、足元の死角にも注意しろ!」


ドーザの檄が飛び、再び剣戟の嵐が吹き荒れる。


四方から際限なく押し寄せるレヴナント。


生前の技術を持った死者たちによる、絶望的な乱戦。


敵味方関係なく飛び交う凶器。


「クロード殿!無事か!?」


ドーザが状況確認のために叫ぶ。


しかし、返事はない。


「クロード殿!?」


再び呼んでも、沈黙だけが返る。


クロードの姿は見えない。


だが、ドーザには今、湧き出す疑念に囚われる余裕など無かった。


着実に敵の数を減らしてはいるものの、腕を切り落とされようが、腹を割かれようが、襲い掛かってくるレヴナントたち。


騎士たちもドーザも確実に疲弊し、傷を負い始めている。


このままでは――。


ドーザが焦燥に駆られた、その時だった。


当初から切り結んでいた、あの熟練の剣が、ドーザの一瞬の隙を見逃さず、鋭く突き出された。


「しまっ――」


ドーザが下から剣を斬り上げ、軌道を逸らそうとする。


だが、明らかに間に合わない距離感だった。


ドーザがあらゆる打開策を脳内に巡らせるも、死の刃がドーザの首筋を貫くイメージを拭えない。


くそっ!このままでは!


イメージが現実になろうとした、その時——


ピタリ。


唐突に、剣の動きが停止した。


「!?」


直後、ドーザの斬り上げがレヴナントの剣を撥ね退け、宙へ吹き飛ばす。


カラン……カラン……。


吹き飛ばされた剣が石畳に落ちて、虚しい音を立てた瞬間。


広間を埋め尽くしていた数十体のレヴナントが、まるで操り人形の糸を切られたかのように、一斉にその場へ崩れ落ちた。


床に転がる無数の骸が、完全に物言わぬ肉塊へと変わる。


ホールを支配していた鉄錆のような血の匂いと、耳障りな剣戟の残響だけが、事の凄惨さを物語っていた。


「はぁ……はぁ……」


ドーザを含め、騎士たちの荒い息が、静まり返ったホールに響き渡る。


「な、なんだ?どうなって……」


傷だらけの騎士たちが、荒い息を吐きながら呆然と周囲を見渡す。


ドーザも眉間に皺を寄せ、警戒を解かずに周囲を睨んでいた。


やがて何かを察したように、ふっと肩の力を抜く。


そして、背後で小さくうずくまるテレスタリアの前へ片膝をつき、優しい声で問いかけた。


「怪我はないか?」


テレスタリアはゆっくりと顔を上げ、首を横に振った。


だが、その美しい瞳からは一切の光が消え去り、虚ろな闇だけが広がっている。


ドーザは己の武器を捨て、震える姪の身体を、その大きな腕でしっかりと抱きしめた。


「もう大丈夫。……大丈夫だからな」


耳元で何度も繰り返される、その低く温かい声。


鉄錆のような死の匂いに満ちたこの地獄で、ドーザの体温だけが、彼女の心を現実に繋ぎ止めていた。


小刻みに震えていたテレスタリアの身体は、彼の温もりに包まれ、少しずつ、少しずつ、生きている温度を取り戻していった。

ご一読いただきありがとうございます。


面白い、続きが気になる! と思っていただけましたらブックマークや評価応援していただけると嬉しいです。


次回、第66話は【ネクロマンサー】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。