第59話:瞳の色はどんな色
※タイトル名を変更しました。
たきびへの質問が始まり、耳を疑うような回答に驚きを隠せない冒険者達。
ガボンが食ってかかるが、それまで大人しくしていたテレスタリアの怒りに触れ、ドーザとレーヴァの手によって黙らさせられる。
はたしてたきびの能力は、冒険者達の希望になるのか?
「うおぉぉっ!?」
冒険者たちが、爆発的などよめきを上げた。
テレスタリアさんの瞳が、青色に変化したのだ。
「Aランクのレーヴァさんが十人追加とか、それだけで防衛戦の勝利確定じゃねーか!」
「いや、馬鹿言え。相手は数千のスタンピードだぞ。いくら強くても、十体じゃ数が違い過ぎる。押し潰されるぞ!」
希望と絶望。
二つの感情が入り混じった声が、ギルド内を飛び交う。
「じゃあ、質より『数』を重視したら!?」
キーニルさんが、身を乗り出して俺に食いついてきた。
「もちろん、そこそこ魔物を倒せるレベルは維持した上でよ」
「それなら、数千体はいけます」
「す、数千!?」
ギルド内の空気が、完全に変わった。
「……それは、本当か!?」
おおっ?!
初めてギルドマスターが、身を乗り出して食いついてきたぞ。
「はい」
すかさず、テレスタリアさんが俺に尋ねる。
「たきびさん。あなたは今回の防衛戦で、魔物を倒せる数千体のゴーレムを出すことはできますか?」
「はい」
案の定、彼女の瞳は青く輝いた。
一瞬の静寂。
そして――。
ギルド内に、地鳴りのような歓声が巻き起こった。
「これなら……これなら、なんとか勝てるかもしれん!」
絶望に染まっていたギルドマスターの目に、確かな闘志の火が宿る。
「……ねぇ、あなた」
キーニルさんが、怪訝そうな目で俺を見る。
「あの鈴の魔力、一体どうやって使うつもりなの?」
魔導士特有の猜疑心というやつだろうか。
「ん〜、企業秘密です」
俺は肩をすくめる。
「でも、ああいう禍々しいものと俺のスキルは相性がいいんですよ。なんせ、『邪神の落とし子』なんて言われてますから」
皮肉交じりに笑うと、キーニルさんは少し首を傾げた。
「きぎょう?何だかよく分からないけど……」
フッと口角を上げる。
「いいわ。今回はあなたの言葉、信じてあげる」
そう言うと、彼女はギルドマスターへ振り返った。
「ギルマス。私も参加するわ。金貨一枚、忘れないでよね」
それを皮切りに、次々と冒険者たちが参加を表明し始めた。
結果として、ギルドに集まっていた冒険者の約四分の一――およそ百五十名が、この命懸けの防衛戦に残ることになった。
それが全体として多いのか少ないのか、素人の俺には分からない。
ただ、残った彼らの目には、先ほどまでとは違う確かな覚悟が宿っていた。
ギルドマスターが、再び壇上へと歩み出る。
「これより、防衛戦の配置を指示する」
ぞろぞろと、ギルドマスターの周囲に人が集まっていく。
「参加する者の約八割は西側の外壁跡。残り二割は東側で待機してくれ。戦闘職は、なるべく西側での迎撃を頼む」
全員の顔が引き締まる。
「まず、たきびのゴーレムを最前線に展開し、魔物の群れを受け止める。魔法使いや弓兵などの遠距離攻撃職は、無事な外壁の上から援護射撃を。ゴーレム群を突破した魔物や、取りこぼした個体は、近接戦闘職が適宜対応して撃破してくれ」
「おうっ!!」
腹の底から響くような返事が、いくつも上がった。
「斥候からの連絡はまだないが、早ければ明日の昼頃には魔物の先陣が壁に到達する可能性がある。各自、武器と薬の準備に取り掛かってくれ」
ギルドマスターが、ギルド内を見渡す。
「……以上、解散!」
冒険者たちが、一斉に動き始めた。
命を大事に、とは言わないんだな。
まあ、今回は死と隣り合わせなのを承知の上で参加している、ということか。
「ギルドマスター」
「なんだ?」
「俺は、レーヴァさんに頼まれた西側の壁の補修に向かってもいいですか?」
「ああ、頼む」
ギルドマスターは一度頷き、それから俺をまっすぐに見つめた。
「……それと、明日。よろしく頼むぞ」
「はい」
ギルマスの脇に立っていた受付嬢のマリエラさんも、俺をじっと見つめ、深く頭を下げる。
「……どうか、よろしくお願いします」
俺みたいな、スパウンなんて呼ばれる人間に頭を下げるなんて。
この人、責任感が強く、町思いの人なんだろうな。
「はい」
俺は短く返事をすると、ギルドを後にし、西側の壁の崩落現場へ向かって歩き出した。
『マスター。移動にはシフトチェンジを使用しますか?……徒歩での移動を推奨しますが』
アカシャが冷静に尋ねてくる。
ん?…ああ。そうだね。
歩いて行くよ。
『かしこまりました』
万が一、町の中にまで魔物が入り込んできた場合でも、地形をある程度把握しておいた方が立ち回りやすいからな。
路地を歩き始めると、すぐに後ろから足音が近づいてきた。
「たきびさん!」
振り返る。
そこにいたのは、テレスタリアさん、レーヴァさん、そしてドーザさんの三人だった。
「壁の補修に?」
「はい。今から行ってきます」
「瞬間移動のような、あの力は使われないのですか?」
溢れだす好奇心でテレスタリアの瞳が輝きを増している。
「あー…、今回は歩いて行こうかと」
「結構な距離がありますのに…」
お預けをされた仔犬のように、肩を落とす。
スキルを見たいのか、心配してるのか、いまいち掴めないな。
『恐らく両方かと』
俺は苦笑した。
「しかし、思った以上に上手くいきましたな」
ドーザさんが、先ほどの生真面目な顔からは想像もつかないほど、ニヤニヤと笑っている。
「いやぁ、二人があの鈴の欠片を出した時は、俺も本当に驚いたぜ。しかも、あの真偽眼の問答まで全部『芝居』だったとはなぁ」
レーヴァさんとテレスタリアさんが、顔を見合わせて笑う。
「テレスタリアさんの、俺の回答が全て青になるような絶妙な言い回し。見事でした!」
「うふふっ!」
うん!ドヤ顔もかわいいね!
「ドーザさんの腹芸も、ますます磨きがかかっていますね」
「喜んでいいのか、正直分からんな」
ドーザさんは苦笑する。
そう。
俺が今回の防衛戦で怪しまれずに力を使うため、鈴を見せるところから真偽眼で証明するところまで――
その一連の流れは、路地裏で合流した際に俺たちが事前に示し合わせていた作戦だったのだ。
「たきびが本格的に戦力として加わってくれたのは、本当にデカい!明日は期待してるぜ!」
レーヴァさんが、俺の首に腕を回し、グイグイと引き寄せてくる。
豊かな胸の感触が顔に伝わり、この聖女の無料治療に、俺は心の中でガッツポーズをした。
『……そういうところですよ、マスター』
どういうところ?
僕、全然分からないな~。
アカシャの氷点下のツッコミを華麗にスルーし、レーヴァさんのスキンシップを堪能したところで、俺は気合いを入れ直した。
「それじゃ、俺は西側の壁を塞いできます」
「うむ。頼んだぞ」
「また後でな!」
「お気をつけて!」
三人が笑顔で手を振り、俺を見送ってくれる。
スタンピードの脅威が迫り、廃墟のようになった町の中を、俺は陽気に口笛を吹きながら、西側外壁へと歩き出した。
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次回、第60話は【崩壊寸前の町の中で】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。




