第56話:聖女の一言は階梯魔法を超える
混迷するギルド内で発覚する、高ランク冒険者たちへの過剰な派遣依頼。それが一体何もを意味するものなのか。様々な情報がますます冒険者達を惑わせる。そんな中レーヴァとドーザの提案が益々ギルド内を混沌のるつぼに引き込むのだった。
「マリエラ、シレルはどうした!?」
ギルドマスターがマリエラに問う。
「えっ?副ギルド長なら、ギルドマスターから帝都の冒険者ギルドへ親書を届けるよう頼まれたと言って、二日前に出張に行きましたが……!」
ギルドマスターの顔から、みるみる血の気が引いていく。
「俺は、そんな命令は出していない。あいつには、ナディの身辺調査を極秘に頼んでいたはずだ……」
「そんな……!じゃあ、副ギルド長も最初から敵とグルだったってことですか!?」
マリエラも青ざめる。
「恐らく『デア・ドゥペル』の一員か、金で買われて手を貸したか……。くそ!」
ギルドマスターの拳が軋む。
「……だが、今この件を追及している時間はない。後回しだ」
ギルドマスターは頭を振り、レーヴァへ向き直った。
「すまない、脱線した。で、その呼びたい加勢とは誰なんだ?」
「名は、たきび。最近この町に来た、ゴーレム使いだ」
――その瞬間。
ギルド内の空気が、凍りついた。
次の瞬間には、想像していた以上の敵意が爆発する。
「聖女さんよぉ、頭湧いてんのか!?よりによって、『スパウン』をここに呼ぶだと!?」
ガボンが勢いよく立ち上がり、怒号を飛ばす。
「そうだ、レーヴァさん!一体何を考えてるんだ!」
「待てよ……以前スパウンが、魔力爆弾を止めたとか噂になってたな。そいつか?」
「へぇ。それなら大丈夫か?」
「大丈夫なわけねぇだろ!あんな不吉な疫病神を、このギルドに入れるなんて冗談じゃねぇ!」
「そういや、ナディと話してたのを広場の噴水で見たって奴、いたよな?」
「じゃあ、あいつも今回の一件に関わってるんじゃないのか?」
「決まってる!スパウンなんて処刑しちまえ!」
口々に飛び交う怒声。
中には露骨な敵意を剥き出しにする者もいれば、周囲の空気に引っ張られるように不安を口にする者もいる。
だが、その根底にあるものは同じだった。
――邪神の落し子を、このギルドへ入れるな。
ギルドの空気は、完全にたきびへの憎悪で満たされていた。
ギルドマスターも深く眉間に皺を寄せる。
「レーヴァさん。仮に、そのゴーレム使いをここに呼び寄せたとして、彼に何をさせるつもりだ?」
「壁の穴を、塞がせる」
「……はぁ!?」
冒険者たちが一斉に目を丸くする。
「壁を塞がせるだって?スパウンに、そんな事ができるわけねぇだろうが!」
「本職の土魔法使いですら強度が足りないと躊躇してるんだぞ?ゴーレム使いのスキルごときで、どうやって壁になるんだよ!」
「あんな、ガキが蹴飛ばしても崩れるような脆い土人形で、スタンピードの魔物を防ぐだと?馬鹿も休み休み言え!聖女さんよ!」
ガボンは完全に呆れ果て、大げさに肩をすくめた。
「レーヴァさん。悪いが、俺もそれは受け入れがたい。錬金術師ならともかく、魔力が少ないゴーレム使いが、防壁の代わりになるような代物を生み出せるとは思えない」
ギルドマスターも首を振る。
戦々恐々とする中、今度はドーザが進み出た。
「私も、彼をここに呼びたい理由がある」
一斉に、正気を疑うような視線がドーザへ集まった。
「これを見てほしい」
ドーザは、腰に下げていた、厳重な封印の魔法陣が描かれた皮袋を取り出した。
「これは、逃走する間際にノリアが残していった物だ」
「なんだ、それは?」
ドーザが慎重に袋の口を開けた瞬間――。
空気が重く沈み込むほどの、禍々しくも極めて高密度な魔力がフロア全体へ放出された。
「うわっ!?」
「ひぃっ!」
最前列にいた冒険者たちが、反射的に後ろへ飛び退く。
ドーザが袋の中に手を入れ、取り出したのは――
粉々に砕け散った、黒銀の『ラマ・アガール』の破片だった。
「あんた!なんて物持ってくるのよ!」
キーニルが悲鳴のように叫ぶ。
「おい!その異常な魔力……まさか、ラマ・アガールの残骸か!?」
「呪いの塊じゃないか!いかれてるのか!」
怯える冒険者たちをよそに、ギルドマスターが冷静に問う。
「ドーザ殿。それと、彼を呼ぶ理由がどう結びつくのだ?」
「そうだ!説明しろ!」
同調した声がいくつも上がる。
ドーザは周囲を見渡し、先ほどの土魔法使いと、見物していた錬金術師風の男へ視線を向けた。
「貴殿は土魔法使いでしたな。この鈴の破片の莫大な残存魔力を利用して、強力な土のゴーレムを錬成し、魔物と戦わせる事はできるだろうか?」
「え?ああ……いや、難しいだろうな」
男は顔を歪める。
「土魔法によるゴーレムの強さは、術者自身の魔力容量と出力に依存する。この鈴の魔力を、なんらかの方法で俺自身の魔力として利用できるなら別だが……そんな事をすれば俺の体は……」
男は目をつぶり、首を横に振った。
「では……そちらの錬金術師殿はどうだろうか?」
分厚いローブを着た錬金術師の男は、血色の悪い顔を撫でながら少し考え込んだ。
「……理論上は、可能だ」
おおっ!と歓声が上がる。
「これほどの魔力密度があれば、ゴーレムの『核』として十分すぎる。私なら、恐らくBランク……いや、Aランクの魔物にも匹敵するゴーレムを作り出せる可能性はあるが……」
「す、凄いじゃないか!それなら防衛戦の切り札になるぞ!」
「ああ!雑魚を俺たちで凌いで、強力なボス級の魔物はそいつに任せれば勝機がある!」
「いや、雑魚自体がBランク揃いだったら結局終わりだろ……」
楽観と悲観が再び入り乱れる。
そのとき、別の若い錬金術師が冷や水を浴びせた。
「無理だ」
皆の視線が彼に向かう。
「全てにおいて、時間がなさすぎるんだ」
再び、ギルド内が静まり返る。
「俺たち錬金術師は、確かに強力なゴーレムを作れる。だが、魔導士の土魔法とは錬成の工程が全く違うんだ」
顔色の悪い錬金術師が頷き、その理由を説明し始めた。
「まず、強靭な『素材』が必要だ。このレベルの魔力を核にするのなら、自壊を防ぐために全身の骨格や外装を最低でも『ミスリル』以上の金属で構築する必要がある。しかも大量にな」
「はぁ!?ミスリルだって!?」
「そんな希少金属、おいそれと手に入るわけがないだろ」
ドーザが問い返す。
「仮に、材料が全て揃っていたとして……完成までにどれくらいの時間が?」
「……恐らく、俺のレベルだと急いでも二週間。ヘタをすれば一ヶ月はかかる」
「そんなにかよ!完全にスタンピードに間に合わねぇじゃないか!」
「でも、錬金術師のミスリルゴーレムは本当に強いんだぜ……一度見たことがあるが、城壁を簡単にぶち抜いてたよ」
「今回はそれ以前の問題だろ……」
ギルド内の落胆の色が、一層濃くなる。
そこで、ドーザは核心を突いた。
「では――ゴーレム使いならどうだろう?」
一瞬、場が凍りついたように固まる。
「もし……ゴーレム使いのスキルが、この魔力を利用できるとしたら?」
突拍子もないドーザの一言が、冒険者たちをあり得ない想像へと引き込んだ。
「馬鹿な。そんな美味い話があるかよ!」
「土人形の強さは、術者の魔力依存だろ?魔力が少ないスパウンじゃ、この核を制御できずに自爆するだけだ」
「いや、待てよ。ゴーレム使いの生成は魔法じゃなく『固有スキル』だぞ。どちらかと言えば、錬金術に近いアプローチなんじゃないか?」
「だとしたら、もしかして……」
誰も答えを出せない。
「いや、でも……」
「そもそも、そんな使い方ができるのか?」
「本人に聞かなきゃ分からんだろ」
ざわめきが広がり、やがて一つの結論へと収束していく。
「これを直接聞くためにも、たきび殿をここに呼びたいのだ。どうだろうか?」
ドーザの問いかけに、ギルド内は一瞬静まり返り――
直後、爆発的な反発が起きた。
「目を覚ませよおまえら!不可能に決まってんだろが!!」
ガボンが顔を真っ赤にして叫ぶと、大勢がそれに同調する。
「そうだ!スパウンなんて、何もできやしねぇ!できないどころか、足手まといになって俺たちを呪い殺すに決まってる!」
「絶対に呼ぶな!」
「俺は……あいつがナディと一緒にいたって話のほうが気になる。そんな奴を信用できるのか?」
疑いを口にする冒険者もいる。
そんな中、キーニルが冷めた声で言った。
「私は、聞いてみてもいいと思うわ。使える手駒なら使う。それで勝機があるなら、私はこの防衛戦に参加してもいいわよ」
数人が頷いた。
ほとんどは藁にもすがる思いか、興味本位なのだろう。
ギルドマスターは、眉間に皺を寄せて目を閉じ、腕を組んだ。
すると。
「――お前らさぁ」
気だるげな声が響いた。
レーヴァだった。
「たかがスパウン一人がこのギルドに来るってだけで、そんなにビビり散らして……よくそれで冒険者やってますって言えるな。お前ら、本当にキ○タマついてんのか?」
彼女の発した言葉の威力は、どんな階梯魔法より強力に、その場の雰囲気を破壊し、時間を停止させた。
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次回、第57話は【アウェイの招集】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。




