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ゴーレムの正しい作り方 〜俺のゴーレム、絶対おかしいと言われるんですが、なにか?〜  作者: 水無月 五色
ベルシア編

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第49話:伝播する悪意

激しい激闘を繰り広げたナディとたきび。その決着と同じ時刻、ドーザとテレスタリアはハルティアとフローディアを連行し、騎士の詰め所に向かっていた。その後に起こる事態は、一旦の決着をみたはずのドーザとテレスタリアをも巻き込んでいく。

「少し……黙れないのか」


騎士の詰め所へ向かう石畳の道、ドーザは呆れ果てたように溜息を吐いた。


後ろでは、部下に取り押さえられながらも、ハルティアとフローディアがなおも暴れ続けている。


「離せ!離さないか!私は伯爵家の血を引く正当な後継者なんだぞ!こんな無礼が許されると思っているのか!?」


「そうよ!汚い手で触らないで!二度と逆らえないようにしてやるんだから!」


耳を刺すような、あまりにも稚拙で下劣な罵声が絶え間なく響く。


よくもまあ、これだけ喚き続けられるものだ。


詰め所までのわずかな距離が、まるで底なしの沼を歩いているかのように長く感じられた。


同時に、こんな奴らにフラーは…という今にも斬りかかりたくなる衝動も湧き上がる。


一方、テレスタリアは二人の怒号を背中で受け止めながら、ただ静かに前を見つめて歩いていた。


審議場に連れてこられた時、一筋の希望の光にも目を逸らす程の疲弊した少女とは思えない。


その横顔には、もう痛々しいほどの怯えは微塵もなかった。


自分には味方がいる。


そう思えたことが、彼女を少しだけ強くしたのだろう。


その姿を見て、ドーザは胸の奥が痛んだ。


「……すまなかった、テレスタリア」


押し殺した低い声で、ドーザが切り出す。


「ずっと……お前の近くにいながら、伯父だと名乗り出ることができなかった」


「ドーザ伯父様……」


「私が『身内』として下手に介入すれば、お前はより一層、表に出せない形で排除されていたかもしれない。そう自分に言い訳をして……ただ陰から見守ることしかできなかった」


ポツリと溢れた声は、かすかに掠れていた。


視線は足元の石畳へ落ち、ドーザの拳がミシミシと音を立てて握り締められる。


テレスタリアは歩みを止めず、そっとドーザを見上げた。


「謝らないでください。私は……幼い頃からずっと母から『あなたには強い味方になってくれる伯父がいる』と聞かされていました」


テレスタリアの唇に、柔らかな笑みが浮かぶ。


「それが……まさか、いつも私を守ってくれていた騎士だったなんて」


ドーザは何も言わず、彼女の言葉を聞いていた。


「私はずっと一人だと思っていました。でも、そうじゃなかった。私をあんな理不尽な環境から守るために、あなたがどれほど苦心してくださっていたのか……今なら分かります」


テレスタリアは微笑んだ。


「感謝しているのは、私の方です」


「……そう言ってもらえると、救われるよ。ありがとう」


ドーザは口元をわずかに歪め、額に刻まれた皺を和らげた。


やがて二人は詰め所へと辿り着いた。


爆発騒ぎのせいなのか、ほとんどの騎士が出払っているようだった。


残っていた数人の騎士が、突然の訪問と、ボロボロになったハルティアたちを見て目を見開く。


ドーザが短く経緯を告げた。


「少し待て」


騎士の一人が、「ちっ、こんな時に」と言いたげな顔をして部屋を出ていく。


しかし、しばらくして戻ってきたその顔には、事態の深刻さを察した色が浮かんでいた。


「今日行われる審議予定、確かに確認できた。だが、見ての通り今はこんな事態だ。とりあえず勾留はするが、後程、出向いて貰う事になると思う」


そう言うと、衛兵たちはハルティアとフローディアを再び拘束し、部屋の外へ連れていった。


「離せ!無礼者!誰に向かって……んぐっ!?」


「暴れるな!」


二人の喚き散らす声が遠ざかっていく。


やがて、鉄格子が閉まる重い音が遠くから響いた。


ようやく静寂が戻る。


ドーザとテレスタリアは詰め所を後にする前に、残っていた騎士へ尋ねた。


「あの大きな爆発は、どこで?」


「東側と西側の壁だ。絶対に近づくなよ」


「承知した」


ドーザは短く答えると、テレスタリアを促して詰め所を後にした。


「たきび殿の行った方向は東の壁だ。とすると……あっちだな。急ごう」


テレスタリアも頷く。


二人は反対の西の外壁へ向かって走り出した。


——三十分ほど街並みを駆け抜けただろうか。


ようやく、巨大な石造りの外壁が見えてきた。


しかし、もともと魔力の保有量が少ないテレスタリアにとって、身体強化を維持したまま走り続けるのは容易ではなかった。


それに加え、連日の精神的な消耗。


テレスタリアの足取りは明らかに重くなっていた。


「はぁ……はぁ……ッ!ドーザ……伯父様……!」


「テレスタリア!?」


「先に……行ってください……!……これ以上は、足を引っ張ってしまいます……。私も必ず後で追いつきますから……!」


ドーザは一瞬だけ躊躇した。


しかし、未だに立ち上る砂煙を見て、意を決する。


「分かった。無理はするなよ!」


そう言い残し、ドーザは地を蹴った。


その巨体が一瞬で加速する。


残像を残すほどの速度で、彼は東の外壁へと駆けていった。


――それから数分後。


荒い息を吐きながら、ドーザは東の外壁へと辿り着いた。


そして――


その視界に、凄惨な光景が飛び込んできた。


都市を保護する重厚な石壁に、まるで巨人の拳で穿たれたかのような巨大な大穴が空いている。


ドーザは周囲を見回した。


他に被害はない。


どうやら破壊されたのは壁だけのようだった。


ゆっくりと破壊された壁へ近づき、足元の瓦礫を拾い上げる。


高密度の魔力の痕跡。


間違いない。


「……マナ・フォールアウト……」


その破壊力の大きさに、ドーザは息を呑んだ。


同時に、胸の奥へ奇妙な違和感が押し寄せる。


何かがおかしい。


その正体を探るように周囲へ視線を走らせた——その時だった。


外壁に空いた大穴の向こう、視界の端で、何かが動いた。


ドーザは咄嗟に顔を上げた。


外套を深く羽織った小柄な人物が、まるで舞台に登場する役者のように、ゆっくりと歩いてくる。


その手には、血まみれの騎士が一人。


小柄な身体には似つかわしくない力で、片手で掴み、ズルズルと引き摺っている。


ドーザの顔から血の気が引いた。


そうだ。


詰め所からここへ来たであろう騎士が、一人もいない。


咄嗟に剣の柄へ手をかける。


皮膚を刺すような気合いを放ちながら、一歩踏み込んだ。


「外壁を破壊したのは、お前か!」


ドーザの怒号が響いた瞬間、外套の人物が、こちらを見た。


「あ、ドーザ様!審議は終わったのですね!?」


聞き覚えのある声だった。


ドーザは目の前の人物を凝視する。


その顔を見た瞬間――


混乱が、彼の思考を完全に停止させた。


「……な……」


そして、その直後。


荒い息を整えながら、テレスタリアが現場へ追いついた。


「はぁ……はぁ……遅れて申し訳ありません、ドーザ伯父様。やっぱり壁が……壊さ……」


言葉が止まった。


外套のフードが、ゆっくりと滑り落ちる。


露わになった顔を見つめたまま、テレスタリアの全身から血の気が引いていく。


「ノ……リア……?」


長年、自分の一番近くで世話をしてくれていた気弱で生真面目な付き人。


――ノリア。


「ああ!お嬢様!ここに来られたということは、無実が証明されたのですね!?ああ、良かった……!本当に良かった……!」


ノリアは心底嬉しそうに両手を合わせ、屈託のない笑みを浮かべた。


しかし――


ドーザもテレスタリアも、何も言えなかった。


「どうされたのですか、お二人とも?」


首を傾げるノリア。


だが、二人の視線は彼女の顔ではなく、その頭部へ釘付けになっていた。


柔らかな髪の間から、異様な存在感を放つ太い角が生えている。


まるで雄羊のように渦を巻く、力強くも不気味な漆黒の骨格。


だが、その右角は、根元近くから痛々しく折れ飛んでいた。


「そ、その……角は……」


テレスタリアの声が小刻みに震える。


指先が凍りついたように動かない。


ノリアは一瞬、目を丸くした。


そして、自分の折れた角へ細い指先を伸ばし、その断面を優しく撫でる。


「あら?私としたことが……うっかりしておりましたわ。確かに、これでは驚かれますわね」


「あ、あなた……本当にノリアなの……!?」


「まあ!ひどいですわ、お嬢様!長年ずっと一番近くでお仕えしてきたのに、角が二つ生えているくらいで私だと分かっていただけないなんて……。ノリア、傷ついてしまいます」


大袈裟に目元を拭う仕草。


いつもの生真面目なノリアがやるとは思えない、小芝居だった。


真偽眼シンギガンをお使いになってくださいませ。私は正真正銘、お嬢様の従者であるノリアですわ」


ノリアが微笑みながら告げる。


テレスタリアはハッとした。


言われるがまま、半ば祈るような気持ちでスキル『真偽眼』を発動させる。


視界に広がる世界の色彩が反転し、ノリアの輪郭に、『個の真実』を示す光が宿る。


同時に、テレスタリアの美しい瞳の色が変わった。


どこまでも透き通った、純粋な青。


――偽りなし。


目の前にいるのは、間違いなくノリア本人だった。


「そんな……っ」


膝から力が抜け、テレスタリアは地面に手をついた。


ハルティアたちから理不尽に虐げられ、暗い部屋で一人泣いていた時、いつも一緒にいてくれたノリア。


気弱で、おっちょこちょい。それでも、いつも自分の味方でいてくれた彼女が――


「ノリアが……あ……悪魔族……!?」


「まあ!お嬢様ったら失礼ですわ!」


ノリアは頬を膨らませ、本気で心外だと言わんばかりに唇を尖らせた。


「あんな姑息で下賤な連中と一緒にしないでくださいませ。私、これでも血筋には誇りを持っていますのよ?」


その軽妙なやり取りを聞いていたドーザの顔色が、一瞬で蒼白へ変わった。


戦場で幾多の脅威を見てきた剣士の喉から、軋むような声が漏れる。


「ま、まさか……『鋼角族(こうかくぞく)』、バールベックか……!?」


「バールベック……?」


テレスタリアが尋ねる。


ドーザは、ノリアから一瞬たりとも視線を逸らさなかった。


剣の柄を握る手甲が、軋んだ音を立てる。


「私も始めて見るが、恐らく間違いない。見た目が似ているため、悪魔族と混同されがちだが……あれは、幻獣の血を引くと言われる古代種だ」


「こ、古代種!?」


「本来は人里離れた高山地帯で静寂と研究を好む、滅多に歴史の表舞台に現れないはずの種族……」


ドーザの顎の筋肉が、苦々しく跳ねた。


「そして……」


喉の奥から絞り出す声は、かすかに震えていた。


「先の戦争で……たった一弾で街一つを地図から消し去った――『マナ・フォールアウト』を開発し、投下したとされる一族だ……!」


「えっ……!?」


テレスタリアの背筋を、氷のような戦慄が駆け抜ける。


その言葉を受け、ノリアの口元が、ゆっくりと吊り上がった。


「な、なぜ……そんな種族が、こんな場所に……!?」


テレスタリアの問いかけに、それまでふざけた態度をとっていたノリアの雰囲気が、霧が晴れるように消えた。


微笑みを浮かべたままの顔。


しかし、その瞳から一切の光が消える。


底なしの暗黒を思わせる、冷徹な眼差し。


「……この世の理不尽を、終わらせるためですわ」


美しくも低く、地底から響くような声だった。


周囲の空間そのものが歪んだかと錯覚するほどの、高密度の圧力がノリアの身体から溢れ出す。


「な、何を言っているの……ノリア……?」


「ああ、お嬢様」


ノリアは再び、温かな笑みを浮かべた。


だが、その笑顔には、どこか壊れた狂気が滲んでいた。


「お嬢様には、本当に良く働いていただきましたわ」


その言葉に、テレスタリアの身体が強張る。


「ハルティアたちの理不尽な悪意に耐え、泥をすすり、健気に生き延びてくださった……そのおかげで、私の計画はここまで完璧に進みました」


ノリアは優雅に一礼した。


「……え?」


テレスタリアの唇から、小さな声が漏れる。


「これは、お礼ですわ」


ノリアの笑顔が深くなる。


「お嬢様を傷つけ、虐げ、踏みにじってきた……その醜く理不尽な者どもに、私が最高の苦しみを与え、消し去って差し上げます」


そう言って、ノリアは外套の胸元へ手を入れた。


取り出したものは、一見すると金属でできた、不気味な黒光りした球体だった。


表面には細かな刻印が走っている。


周囲の空気を重く湿らせるような、異様な魔力が滲み出していた。


「なに……あれ……!?」


魔力への感受性が低いテレスタリアでさえ、吐き気と恐怖に背筋が凍りつく。


「まさか……『狂響鈴ラマ・アガール』か!?」


ドーザが痛切な声を上げた。


「あら、さすがドーザ様。博識でいらっしゃいますね!」


ノリアの顔が、ぱっと明るくなる。


「ええ、そうですわ。これは私の『折れた角』を使用して、高純度の魔石を組み込んで作り上げた最高傑作ですの!」


ノリアは愛おしそうに、自分の右側に残る折れた角の断面を指先で撫でた。


「自分の角を材料に……!?」


「うふふ、心配しないでくださいまし。角はまた十年もすれば生え変わりますわ!」


ノリアの表情から、一切の感情が抜け落ちた。


「……さあ!」


「な、何をするつもりなの!?」


ノリアは黒銀の球体を、ゆっくりと掲げる。


「この街の理不尽を――喰らい尽くしなさい」


「やめろぉぉぉッ!!」


ドーザの身体が弾丸のように地を蹴った。


熟練の達人だからこそ可能な、一切の前動作がない神速の踏み込み。


間合いを一瞬で詰め、ノリアの手首へ向けて刃を閃かせる。


しかし――


「邪魔をしないでいただけますか?」


ノリアの左腕が動いた。


細く華奢に見えるその腕が、正面から突っ込んできたドーザの巨体を――まるで羽虫でも払うかのように横殴りに弾き飛ばした。


ドガァァァンッ!!


「グハッ……!?」


凄まじい衝撃波とともにドーザの身体が数十メートル吹き飛び、そのまま壊れた外壁の残骸へ激しく叩きつけられた。


石礫が四散する。


吐血したドーザが、瓦礫の中へ崩れ落ちた。


「伯父様……!?」


テレスタリアは絶句した。


重装甲の騎士を一撃で沈めるドーザ伯父様が、華奢な少女の、片腕ひとつで吹き飛ばされたのだ。


その瞬間、狂響鈴を持つノリアの手首が、滑らかに揺れた。


チリン……


可憐で、どこか透明感のある音色が響く。


だが、直後――


空気そのものが悲鳴を上げたかのように、波打った。


鼓膜を通さず、脳髄へ直接突き刺さるような、粘着質な悪意の波紋。


それが大気を伝って広がっていく。


「ふふ……あはははは!」


ノリアは恍惚とした表情で天を見上げ、黒銀の鈴を二度、三度と振り鳴らした。


チリン……チリン……チリン……


「ああ……なんて素晴らしい音色……!」


邪悪な音色が、西の外壁を中心に街全体へと伝播していく。


そして、その波紋は町の外へさらに広がり――


深い森の暗闇の中で蠢く、無数の狂暴な瞳が、一斉に怪しい光を放ち始めた。

ご一読いただきありがとうございます。


面白い、続きが気になる! と思っていただけましたらブックマークや評価応援していただけると嬉しいです。


次回、第50話は【神を欺く者】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。

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