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ゴーレムの正しい作り方 〜俺のゴーレム、絶対おかしいと言われるんですが、なにか?〜  作者: 水無月 五色
ベルシア編

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第48話:悲しみの復讐者

急いでレーヴァ治癒院に向かうたきびだが、そこには既にレーヴァの姿は無かった。すぐさま破壊されたであろう外壁の近くに瞬間移動すると、そこには手を血まみれして立っているナディと怪しい男が。


仕事だといってその男を守るナディ。だが、ナディの心には深い悲しみと復讐心があった。


揺れる気持ちを抱えながら戦う意思をみせるたきび。お互いの正義を掲げ、今激突する。

言葉による交渉は、もう成立しない。


「……ッ!」


一瞬。空気が爆ぜた。


俺は『シフトチェンジ』を発動し、謎の男の胸元へ向けて一瞬で転移する。


だが——


ガッ……!


「なっ!?」


俺の視界に飛び込んできたのは、男の体ではなく、肉体美を誇るナディの右足だった。


転移した瞬間の俺の出足を完璧に予測し、鋭いハイキックが襲いかかる。


咄嗟に腕を交差させ、タクティカル・シェルの土殻で受ける。


ドドンッ!!


「ぐっ、あああッ!?」


重戦車の主砲でも喰らったかのような衝撃。


俺の身体は摩擦音を上げて石畳を十数メートルも滑らされた。


腕の土殻が一瞬で粉々に砕け散り、肉に骨が軋む激痛が走る。


速い……!


それに、転移の出現位置を勘で読んでいるのか!?


すぐにナイトロ・ゴーレムをナディの顔の周囲に錬成し、窒素の檻で沈黙させようと試みるが、それすらもナディは野生の直感で察知し、身体を後方へずらして回避する。


嘘だろ!?未来予知としか思えないんだが!


思考ではなく生存本能で最適解を叩き出してくるその戦闘センスは、恐ろしいの一言に尽きた。


「はぁ……はぁ……ッ!」


俺は息を荒らげ、自らの両手を見つめる。


正直、以前に戦ったクロードの方が戦いづらい。


ナディも同じようなスピードだが、死角をつくようないやらしい攻撃をしてこない分、捌きやすいからだ。


だが、問題はナディの攻撃だ。


一撃一撃の重みがまるで違う!


打撃の衝撃がタクティカル・シェルを透過し、身体の奥深くに蓄積されていく。


手を抜いている余裕なんてどこにもない。


「強化マッド・ゴーレム、八体同時展開!」


ドゴゴゴゴッ!


インベントリに入っている大量の土を利用し、俺の周囲に八体の巨大な土の兵士が錬成される。


それぞれが強化され、一斉にナディと男を取り囲む。


手加減なしの包囲網。


一気に勝負を決めにいく!


それを見たナディの金色の瞳が、かつてないほど大きく見開かれた。


「……解放」


彼女の唇から、吐息のような声が漏れる。


直後、ナディの全身から尋常ではない覇気のようなものが立ち昇る。


密度の高い圧力が周囲の土煙を激しく吹き飛ばす。


「グルゥゥゥオオオオオオンッ!!!」


大気を震わせる狂暴な咆哮。


ナディの美しい肉体が、みるみるうちに膨れ上がっていく。


体の大きさが2倍近くにまで巨大化し、皮膚からは肉厚な毛皮が噴き出し、美しい虎の斑紋が全身を覆う。


顔つきもまた鋭い牙を持つ獰猛な虎そのものへと変貌を遂げた。


『獣化』——半獣半人の形態を超えた、暴走する野生の化身。


「ガアッ!!」


虎化したナディは、巨体に似合わない速度で攻撃を仕掛けてきた。


ドォンッ!!


ただ尻尾をひと振りしただけで、強化しているマッド・ゴーレムが一体、まるでゴムボールのように吹き飛ぶ。


「なっ……!?」


予測不能の攻撃。


四足歩行と二足歩行を自在に切り替え、壁を走り、まるで重力を無視するかの如く、縦横無尽に空間を跳び回る。


人間の理屈を超えた戦闘スタイルに、俺は防御の体勢すら整えられない。


ガリリッ!!


「痛っ……!?」


掠めた爪の一撃で俺のタクティカル・シェルが引き裂かれ、血が飛散する。


完全獣化しているナディは既に俺の事を獲物だと思っている。


しかし、くそっ……! どうして俺は……!


歯を食いしばる。


痛みのせいじゃない。


俺の心が日怯んでいるからだ。


たった一度なのに。


クマのゴーレムをニコニコしてつつく、無邪気なあのナディの姿が、戦闘中にも関わらず頭から離れない。


真っ直ぐで素直で、俺の名前をいい名前と言ってくれたナディ。


だから、俺は、全力を出すのが怖かった。


自分の能力の上限を解放した時、どれほどの破壊力が生まれるのかを自分でもうまく制御する自信がない。


ここで能力を解放して、力加減を間違えればナディを激しく傷つけ、場合によっては命を奪ってしまうかもしれない。


その恐怖と躊躇いが、俺の動きを鈍らせ、攻撃に無意識に手加減を生ませていた。


「たきび! 危ない!!」


『マスター!』


遠くで怪我人の治療に当たっていたレーヴァさんの叫び声とアカシャの声が同時に届く。


俺はナディの蹴りが目の前に迫っている事に気がつかなかった。


瞬間、インターセプトで一体のゴーレムが現れ身代わりとなり、その隙に俺は、咄嗟に後ろにジャンプする。


そして、ハッと息を呑む。


見れば、ナディの乱打によって飛び散った瓦礫の破片が、レーヴァさんたちのすぐ近くに突き刺さっていた。


——何をしてるんだ、俺は!


俺が手加減してモタモタしている一瞬一瞬が、周りにいるレーヴァさんや衛兵たちの命を削っているんだ。


ナディを傷つけたくないという俺のエゴが、大切な人たちを危険に晒している!


「アカシャ……一瞬でナディを制圧するための最大出力を計算してくれ!」


『かしこまりました。対象を一瞬で制圧するのに必要強化…70倍。マッド・ゴーレムの可能稼働数は2体』


「了解……」


俺は深呼吸をし、目の前で猛威を振るう巨大な虎——ナディを見つめた。


これが最後のチャンスだ。


「ナディ!! 頼む、あの男を守るのをやめてくれ!!」


ナディは足を止め、巨体を低く沈めた。


「グルルルル……ッ」


唸り声を鳴らし、暗い憎悪の光を宿した瞳で俺を睨みつける。


その姿勢が、言葉以上の拒絶を物語っていた。


そんな目で俺を……やはりダメなのか。


「アカシャ……制限解除リミットブレイク


『了解。全ステータス強化バフ起動——倍率:70倍』


俺の足元から、今まで以上にステータスを強化され、見た目でわかる程の硬化感があるマッド・ゴーレムがニ体、静かに立ち上がった。


これまでのゴーレムとは異なり、強烈は威圧感を感じさせる、圧倒的な存在感を放っている。


同時に俺のタクティカル・シェルも異様な圧を纏っていた。


ここまでの強化は、グリフォンやあのスライム戦以来か。


相手をただ倒す事だけならこのままでいいが、今回は違う。


負荷は大きいが…『アバタートランス』も発動させ、より微細なコントロールができるよう調整すれば!


「いけ……!」


ボンッ!!!


今までに無い破裂音。


これまでナディのスピードに翻弄されていたはずのゴーレムが、次の瞬間にはナディの目の前に現れていた。


「!?」


反応すらさせない。


強化ゴーレムの踏み込みから放たれた右拳が、ナディの巨大な顔面を正面から捉えた。


ドガァァァンッ!!


「ガアッ!?」


今までとは比較にならない衝撃波が弾け、ナディの巨体が横殴りに吹き飛ぶ。


だが、彼女もまた驚異的な執念を見せた。


吹き飛ばされながらも外壁の残骸に四肢を叩きつけ、壁を足蹴にして弾丸のような勢いで再びゴーレムへ向かって突進してくる。


しかし——


もう一体のゴーレムが、すでにその軌道上に突撃していた。


空中で無防備になったナディの脇腹へ、ゴーレムの鋭い回し蹴りが一閃する。


ドスッ……ドドォンッ!!


「ゴアッ……!?」


鮮血を撒き散らしながら、ナディの体が地面を削り、崩れた壁の奥深くへと叩き付けられた。


劇痛に悶絶し、血を吐き出しながら立ち上がろうとするナディ。


その隙を見逃さず、俺はシフトチェンジで一瞬にして謎の男の目の前へと跳んだ。


男の胸元へ手を伸ばす。


だが、叩きつけられたはずのナディが、


血反吐を吐き散らしながらも超人的な執念で跳躍し、俺の首元へ爪を立てて襲いかかってきた。


「ガアアアッ!!」


——ドンッ!!!


空中で、ピタリとナディの動きが止まった。


「ガッ……ぐ……っ!?」


重厚な打撃音とともに、ナディの体が空中で静止している。


俺は片腕一本で、凶暴に巨大化したナディの突撃を止め、太い首をしっかりと掴み、そのまま軽々と頭上へ持ち上げていた。


全てが70倍に強化されたタクティカル・シェルの力は、巨大な獣の重さなど、赤子の重みと同義だった。


「ガアッ! ァッ!」


ミシミシと肉と骨が鳴る音が響く。


吊り下げられた状態のナディは、苦しみに悶えながらも、俺の腕や体のタクティカル・シェルの鎧に向かって丸太のような脚や鋭い爪をがむしゃらに叩きつけてくる。


バンッ! ドガンッ! バシッ!


だが、俺の身体は微動だにしない。


それどころか、あまりに強固な俺のシェルを殴り続けたことで、ナディの拳や足から血が噴き出し、肉が裂けていく。


それでも——どれだけ自分が傷つこうとも、彼女は攻撃をやめなかった。


涙と血でぐちゃぐちゃになった顔で、なおも男を守ろうと必死に腕を伸ばしてくる。


そこまでして……この理不尽な町を壊したいのか。


胸が押し潰されるような深い悲しみが、俺の心を締め付けた。


「……ごめんな、ナディ」


俺はもう片方の手を、男の服の中へと滑り込ませた。


その瞬間、ナディの身体から溢れていた禍々しい魔力が霧散し、巨体が縮んでいく。


体毛が消えていき、顔つきが元に戻り……やがて、元の姿へと戻っていった。


「やめて……お願い、やめて……っ」


首を掴まれたまま、今にも泣き出しそうな声で絞り出すナディ。


だが——俺の指先は、男の服の中で何も掴むことができなかった。


「……なに?」


胸ポケットにも、懐にも、何もない。


「どういうことだ!? 鈴がないぞ……!?」


『!』


俺の狼狽を感じ取ったアカシャが即座に答える。


『マスター! 警告! 対象の生体反応および魔力構造を再解析……異常事態です!』


「何があった!?」


狂響鈴ラマ・アガールは……男の服の中にはありません! 胸腔内、心臓の位置に直接埋め込まれています!!』


「な……心臓の中だって!?」


どうなっている!?


まさかこの男は、自分自身の体を『鈴の媒体』として改造されているのか!?


『危険です、マスター! この状態で男が大声で発声した場合、男の魔力と肉体そのものが共鳴し、狂響鈴以上の広範囲へ波動を撒き散らす可能性大! およそ10倍の範囲と推測!』


「10倍!?」


俺は戦慄した。


もし、プリムスレベルの魔物がいる場所まで届いたりしたら…!


「どうすればいい!?」


『鈴を……男の体内から直接取り出すしかありません!!』


その言葉と同時に。


バキンッ……と、およそ人間の体から発せれるような音ではない、不気味な音が響いた。


男の虚ろな目がカッと開かれ、その口が、人間ではあり得ない角度まで大きく開かれていく。


喉の奥から、禍々しい黒銀の魔力が渦を巻き始めていた。


『強大な魔力の収束を感知!』


「まずい……!!」


男が叫び声を上げれば、終わりだ。


相手が人の体だからと、躊躇している時間なんて微塵もない!


俺はナディを掴んでいた腕を離すと同時に、右手を鋭い『抜き手』の形に整え、タクティカル・シェルで指先を更に硬化させた。


「やめてぇぇぇぇッ!!」


ナディの悲痛な叫び声。


男の裂けた大口が上空へ向く。


その瞬間。


ボスッ!ガチィィィンッ!!!


「カハッ……!?」


俺の右腕が、男の胸の中央を容易く貫通した。


肋骨を砕き、肉を押し裂き、胸の奥深くに埋め込まれていた冷たい金属の感触を掴み取る。


ぐっと力を込め、心臓の代わりに埋め込まれていた黒銀の鈴ごと、腕を勢いよく引き抜いた!


メリメリッ、と嫌な音がして、俺の手には血と不気味な雰囲気を纏う『狂響鈴』が握られていた。


間髪入れず、俺はその鈴を思い切り握り潰す。


メキメキメキッ……バキィンッ!!


『禍々しい魔力の霧散を確認』


胸に大きな穴をあけられた男は、口を開けたまま、ゆっくりと瞳から光を失い、その場に崩れ落ちた。


俺は血に濡れた自分の手を見つめ、激しい吐き気に襲われそうになる。


だが、脳内に静かなアカシャの声が響いた。


『……マスター。対象の生体反応は、既にありませんでした。この男はとっくに命を落としており、魔道具の依り代として動かされていただけです。ですから…』


「……わかっているよ」


アカシャの言葉に、胸の痞えが少しだけ軽くなるのを感じた。


傍らでは、獣化の解けたナディが、力なく地面に伏して、絶望に打ちひしがれていた。


「あぁ……あああ……」


彼女の瞳から、ボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちる。


守るべきものを失い、復讐の希望すら打ち砕かれた姿。


俺は何も言えず、ただ佇むことしかできなかった。


そこへ、負傷した衛兵たちの応急手当を終えたレーヴァさんが、肩で息をしながら歩み寄ってきた。


「たきび……終わったか」


レーヴァさんの顔には疲労と、最悪の事態を免れたという安堵の色が浮かんでいた。


俺は頷き、泣き崩れるナディの肩にタクティカル・シェルを外しながら手を置こうとした、その時。


チリン…………。


風に乗って、かすかな音が聞こえた。


俺とレーヴァさん、そしてナディの身体が、同時に硬直する。


チリン……チリン……。


どこからか響いてくる、不気味で透き通った鈴の音。


「なっ!?この音は…まさか!?」


レーヴァさんの体が小刻みに震えている。


鈴が!?まさか壊しても意味が無いやつか!?それとも遅かった!?


俺は即座に手の中にある、鈴だったものに目をやる。


…いや!完全に機能は停止している、ように見えるぞ!?


「じゃあこの音……一体どこから!?」


『マスター! 緊急事態です!』


アカシャの悲鳴のような報告が、脳内に爆ぜた。


『ここから反対側の外壁より……狂響鈴による魔力波動を感知! 広がっていきます!』


空気が、重く震え始めた。

ご一読いただきありがとうございます。


面白い、続きが気になる! と思っていただけましたらブックマークや評価応援していただけると嬉しいです。


次回、第49話は【伝播する悪意】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。

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