第46話:急転直下
ハルティアの策略で、テレスタリアが全ての罪を背負う流れになってしまった。しかし、クロードが手渡した書類が、波乱を巻き起こす!
絶句するハルティア。
そこに書かれていたのは、テレスタリアの罪状などではなかった。
『6年前のフラー・ロンブリッツ殺害、並びに今回のマナ・フォールアウト密輸計画は、すべてハルティア・ロンブリッツ、およびフローディアの主導のもと実行されたものである』
膨大な日付、金額、関与した人物のリスト、そしてハルティア本人の筆跡による指示書の写し。
二人の悪事を完璧に証明する、決定的な「調査告発書」だったのだ。
「ク、クロードぉぉっ!貴様、何だこの書類は!?昨日私に見せた書類と全然違うではないか!」
激昂して怒鳴り散らすハルティアに対し、クロードは至って涼しい顔で、深々と頭を下げた。
「申し訳ございません、ハルティア様。昨夜、最終チェックを行いましたところ、内容に重大な間違いがございましたので、正しく修正させていただきました」
「は……?修正……?何を言っている……!?」
クロードはゆっくりと身体を起こすと、氷のように冷たい視線をハルティアに向けた。
「私は元より、ロンブリッツ家次女メイアス様の腹心でございます。以前よりハルティア様とフローディア様の不穏な動きを察知しておりましたため、間者としてお側に潜入しておりました」
「な……間者……!?」
審議場がどよめいた。
「ええ。6年前のフラー様の事件、そして今回の密輸事件の真犯人は、ハルティア様とフローディア様です。手元にあるのは、私が長年かけて集めた動かぬ証拠の束……当然、メイアス様にもすでにご承認いただいております」
「な、なんだとぉぉぉっ!?」
フローディアが唖然として、扇子のようなものを落とす。
審議場に衝撃が走った。
傍聴席の貴族たちが一斉に更にざわつき始める。
「な、なんだって!?」
「真犯人はハルティア殿だと!?」
「クロード殿が間者だったとは……!」
顔面蒼白になり、ガタガタと震え出すハルティアとフローディア。
だが、追撃はそれだけに留まらなかった。
「審議員殿。私も証人として発言の許可をいただきたい」
重厚な声とともに、傍聴席からドーザさんが立ち上がった。
慌てふためいた審議員が声を張り上げる。
「な、何を言っている!今回の審議は極めて厳正なもの!事件の当事者もしくは渦中にいて内情に深く関わる者、またはそれらの近しい親族でなければ、発言など認められん!」
「フン、ならば条件は満たしているな」
ドーザさんは不敵に口元を歪めると、朗々とした声で宣言した。
「私は亡きフラーの兄……そして、テレスタリアの『伯父』にあたる者だ!」
「えええぇぇぇっ!?」
審議場全体がひっくり返るほどの驚きに包まれた。
誰よりも驚いていたのは、他ならぬテレスタリアさんだ。
「ドーザが……私の伯父様……!?」
目を丸くして、口をパクパクさせている。
おお!サプライズ成功!やるなドーザさん!
『何を楽しんでいるのですか』
いやいや、ここからは楽しむところでしょ!
「さらにだ。今回の件に関し、もう一人重要な証人を呼んである。入れ!」
ドーザさんが手を叩くと、審議場の扉が開き、一人の男が連行されてきた。
その顔を見た瞬間、ハルティアとフローディアの顔から完全に血の気が失せた。
「き、貴様!ネ、ネデル商会の……!?」
入ってきたのは、ネデル商会の幹部だった。
この幹部は俺が捕まえた。
実は以前ドーザさんがお店に入った時、彼の体にかなりの数のエア・ゴーレムを取り付かせていたのだ。
そしてアカシャに頼んで、ハルティアの屋敷同様に偵察させ、ハルティアと関係があったこの幹部に目を付けた。
説得には苦労したものの、最終的にドーザさんと一緒にハルティアが放ったあの言葉をエア・ゴーレムで聞かせたのだ。
——『よし……完璧だ!これならあの小娘と馬鹿な商会も完全に潰せる!クロード、すぐに審議官を呼べ!明日の午後に審議を行う!』——
そして、ドーザさんと俺が商会が潰れないように協力する事を伝えると、あっさりと証人になる事を認めたのだ。
名を捨てて実を取るのが商人。
信用の切れ目が縁の切れ目だ。
審議員ももはや制止する気力を失い、ただ呆然と許可を出すしかない。
商人風の男は、深く頭を下げた。
「……発言の許可をいただき感謝いたします。……ここに誓って申し上げます。我が商会に『マナ・フォールアウト』の極秘手配を命じたのは、そちらのフローディア様でございます。また、6年前のフラー様の件についても、ハルティア様から多額の報酬を頂き、毒の密輸入を行ってしまいました……!」
「な……何をふざけたことを言っているのよこの下衆がぁぁっ!」
「ふざけるも何も、長い付き合いではございませんか」
耐えかねたフローディアが狂ったように席を立ち、会場から逃げ出そうと走り出した。
だが、すかさず衛兵として紛れ込んでいたドーザの配下たちが躍り出て、彼女の身体をがっちりと取り押さえる。
「放しなさい!無礼者!私を誰だと思っているの!?薄汚い兵士の分際で私に触れるんじゃないわよ!」
金切り声を上げて暴れるフローディアだが、がっしりと固められて一歩も動けない。
「泥舟に乗ってたまるかよ」
ネデル商会の幹部が小さく呟く。
焦りに焦ったハルティアが、必死の形相で審議員のデスクを叩いた。
「う、嘘だ!すべてデタラメだ!現に……現にさっき、この真実の水晶が青く光ったではないか!これは嘘をつかない!嘘を吐いているのはこいつらの方だ!」
ハルティアは藁にもすがる思いで水晶を指差した。
傍聴席の貴族たちもそれには納得せざる負えなかった。
「確かに」
「オーブが青く光ったのは事実だ」
と、再びざわつき始める。
その時だった。
「失礼」
ドーザさんが静かに前に進み出ると、審議員の手から強引に水晶を分捕った。
そして、大観衆に向かって、堂々と大声を張り上げた。
「私は……女性である!!」
静まり返る会場。
全員が「何を言っているんだこのおっさんは」という目でドーザさんを見つめる。
その状態で、ドーザさんがドヤ顔で水晶に手を触れた。
……ブワッ!
水晶は、見事なまでに眩い『青色』に発光した。
「……!?」
っ……不覚にも吹き出しそうだ……!
ドーザさん、天才かよ!
隠れている俺は、必死で笑いを堪えていた。
しかし、このビッグウェーブを逃すわけにはいかない!
すかさず俺は、テレスタリアさんの耳元のミニ・エア・ゴーレムへ指示を送る。
『テレスタリアさんも…!』
テレスタリアさんは一瞬目を見開いて驚いたが、すぐに意図を理解し、コホンと小さな咳払いをした。
そして、可憐な声を張り上げた。
「わ、私は……男性です!!」
テレスタリアさんが水晶に手をかざす。
……ブワッ!またしても『青色』に発光した。
「な……なぜだ!?明らかな嘘をついているのに、なぜ青く光る!?」
「虚偽なら赤い光を発するのでは……!?」
混乱する傍聴人たちを前に、テレスタリアさんはさらに畳み掛けた。
「私はテレスタリアです!」
……ブワッ!と今度は赤色に発光する。
ドーザさんがニヤリと笑って後に続く。
「私の名はテレスタリアである!」
……ブワッ!と青色に発光する。
「ええええええぇぇぇぇっ!?」
会場の混乱は最高潮に達した。
明らかな嘘を言えば青く光り、本当のことを言えば赤く光る。
テレスタリアさんとドーザさんは顔を見合わせ、満足そうにフッと微笑み合った。
いいぞっ!やれやれ!
『ノリノリですね、マスター』
アカシャだって、少し楽しそうじゃないの。
『ええ。まあ』
ここで、クロードが氷のような声を響かせる。
「種明かしをいたしましょう。このオーブは、この審議員がハルティア様と共謀し、内部の魔力回路を反転させて光の色を逆転させた『まがい物』でございます。そしてハルティア様と裏で繋がっている審議員、および不正に関与した貴族は全て調査済みです」
「ひっ……!?」
審議員は顔面蒼白となり、ガタガタと膝を震わせてその場に崩れ落ちた。
「ま、まずい……逃げろ!」
「関与がバレるぞ!」
傍聴席に紛れていたハルティアのサクラの貴族たちが、慌ててコソコソと出口へ向かって逃げ出そうとし始めた。
おっと。俺の出番だな。
俺は隠れ潜んだまま、指先を軽く弾いた。
逃走を図るサクラたちの顔全体へピンポイントで『ナイトロ・ゴーレム』を発動、取り付かせる。
それごと頭全体を空気のタクティカル・シェルで囲い、ナイトロ・ゴーレムを解除させる。
魔力を使わない、局所無酸素状態の完成だ。
ドサッ!ドサドサッ!
哀れなサクラの貴族たちは、悲鳴を上げる間もなく一瞬で脳への酸素供給を絶たれ、白目を剥いて床に崩れ落ちて気絶した。
「な、何が起きた!?」
「次々と人が倒れていくぞ!?」
「今倒れた者は、ハルティア殿が地位や金を使い雇った者共。私が逃げると気絶するよう魔法を事前に仕込みました」
ドーザさんナイスフォロー!
大混乱に陥る審議場。
追いつめられ、もはや完全に逃げ場を失ったハルティアは、ついに正気を失って発狂した。
「うあぁぁぁぁっ!全部ウソだ!嘘だ嘘だ嘘だぁぁぁっ!クロード!貴様とそこの薄汚い騎士が仕組んだでっち上げだぁぁぁっ!」
ハルティアは、狂乱のまま近くにいた衛兵を叩き伏せ剣を奪い、魔法を発動させながら目を血走らせてクロードへと襲いかかった。
「死ねぇぇぇっ!」
審議場での衛兵以外の武器と魔法使用——それはこの国において、即座に死罪に値する重罪だ。
だが、クロードは眉一つ動かさなかった。
迫り来るハルティアの間合いを一瞬で詰めて、電光石火の蹴りをハルティアのみぞおちに叩き込んだ。
「ごふぁっ!?」
「……審議場での抜刀および魔法の使用。重罪ですぞ、ハルティア様」
クロードは床に転がり、悶絶するハルティアの手首をねじ上げ、容赦なく取り押さえた。
相変わらず凄いな。
『マスターもあれくらいできるようになってください』
ハードル高すぎだろ…
それまで様子を伺っていた傍聴席の貴族たちが、手のひらを返すように一斉にハルティアとフローディアを罵倒し始める。
「なんて見苦しい奴らだ!」
「ロンブリッツ家の恥晒しめ!」
「審議のやり直しを要求する!こんな悪党はすぐに連行しろ!」
「母親の方も逃がすなよ!」
「騙されましたわ!もう縁を切ります!」
その身勝手な叫びを聞いたハルティアとフローディアが、血相を変えて叫び返した。
「ふ、ふざけるな!貴様らだって俺の金で甘い汁を吸っていたではないか!知らん顔をするな!全員道連れだぞぉぉぉっ!」
「そうよ!私達がどれだけ融通したと思ってるのですか!この恥知らずの薄汚い金の亡者共!」
もう人の顔とは思えない程、醜悪な顔で罵倒仕返す。
「言いがかりはやめろ!私は何も知らん!」
「全く、貴族の風上にもおけませんわ!ゴーレム使いにも劣りますわね!」
お互いに罪を擦り付け合い、醜く罵り合う貴族たち。
あ。今さらっとゴーレム使いの事ディスった人いたよね?誰?許さないよ?
『後で特定しておきます』
しかし……貴族って本当に恐ろしい生き物だなあ……
『マスターは、ああならないでくださいね』
善処します。
壁際で一部始終を見ていた俺は、心底呆れ返っていた。
まあ何はともあれ、これでテレスタリアさんの無実は証明され、悪党どもは全員失脚だ。
ドーザさんとテレスタリアさんは、しっかりと抱き合って何か話している。
でも二人とも今までに無い笑顔だ。
よかったね、二人とも!
事件は無事にスッキリ解決して、俺も『ざまぁ』展開に満足満足!
ホッと胸を撫で下ろそうとした、その時だった。
——ドォォォォンッ!!
腹に響くような重低音が、遠くから轟いた。
一度ではない。
——ドォォォォンッ!!
二度目の爆発音が重なり、審議場全体がグラグラと大きく揺れた。
「な、なんだ!?」
さっきまでの醜悪な争いが嘘のように止まり、全員が静まり返って、パラパラと天上から細かい塵が落ちてくる音だけが聞こえる。
その直後——
『たきび!大変だ!』
俺の脳内に届いたのは、焦燥に駆られたレーヴァさんの悲鳴のような声だった。
『今、外壁が何かの爆発によって破壊されたようだ!!』
「は!?」
『詳しくはわからないが、あの魔力の流れと弾け方…恐らく使われたのはマナ・フォールアウトだ!』
「……っ!?マナ・フォールアウト!?」
『ああ!これからけが人がいないか見に行く!お前も来てくれ!』
勝利の余韻は一瞬で吹き飛んだ。
マナ・フォールアウトだと!?まだあったのかよ!?
俺はフローディアに即座に駆け寄り、姿を見せ問い質した。
「マナ・フォールアウトは何個ある!?」
「そ、そなたは何者だ、無礼者!!」
「何個密輸したのか答えろ!!」
「ひぃ!」
俺の威圧に完全に気圧されして、なんと失禁するフローディア。
こいつはダメだ。
俺はクロードの書類を手に取ると【思考加速】と【並列思考】を使い、欲しい情報を探した。そして——
「四つだと!」
教会を破壊しようとしたものが一つ。
今、壁を壊したのが二つだとすると、後一つ残ってるぞ!?
「たきび殿!」
ドーザさんとテレスタリアさんが走り寄ってきた。
「どうやら、盗まれたマナ・フォールアウトで外壁を二箇所破壊されたようです」
「なんだと!?」
「問題はもう一つ…まだ行方が分からないものが一つある事です!」
「!!」
テレスタリアの顔が青ざめていく。
「もし、それを持っているものが、なんらかの方法でここに侵入しているとしたら…!」
俺もハッとした。
何かに不満を持つものがあれを持つと、ロクな事にしか使わない可能性が高い。
仮に貴族に不満を持つ者がそれを使うとしたら…ここは格好の場所だ!
とにかく、一箇所にまとまっているのはまずい!!
審議室がざわめき始める。
「おい!あいつの手の甲の印!スパウンじゃないか!」
「なんであんな下賤な者がここにいるんだ!?衛兵は何をしているんだ!?」
「すぐに追い出せ!」
俺に視線が集中し始めた。
『マスター。ここからすぐに出たほうがいいかもしれません』
「まずい!たきび殿!すぐにここから出るんだ!」
アカシャとドーザさんの意見が一致している。
だが。
「…いいや、この状況を利用する!」
俺はマッド・ゴーレムの錬成をし始めた。
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次回、第47話は【どういう事だよ!】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。




