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ゴーレムの正しい作り方 〜俺のゴーレム、絶対おかしいと言われるんですが、なにか?〜  作者: 水無月 五色
ベルシア編

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第44話:刻、一刻

牢屋に入れられたテレスタリアは、何もできない自分と先の見えない絶望感に打ちひしがれていた。16歳の少女が一人で立ち向かうにはあまりにも大きな苦難。そこに現れたたきびは、なんとか彼女の心を前に向かせようとする。

暗く冷たい石造りの地下牢。


その一角で、テレスタリアは膝を抱えて丸くなっていた。


たきびとクロードの激闘から、既に四時間が経過している。


込み上げる悔しさと自身の不甲斐なさに、溢れる涙を拭う気力すら湧いてこない。


壁の小さな高窓から伸びていた光の筋はとっくに消え失せ、あたりはすっかり深い暗闇に支配されていた。


——お母様……。


脳裏に浮かぶのは、明るく優しかった母の面影。


どんなに無実を主張しても、明日の審議で自分の言葉を聞き入れてもらえる見込みは薄い。


もし誰にも信じてもらえず、濡れ衣を着せられたまま処刑されることになったら…


16歳の少女は、そのか細い肩に背負ってる運命の重さに押し潰されそうになる。


「……私はどうしたら…」


そう呟いて涙があふれ出しそうになったその時。


ドサ。


牢屋の外で、重い何かが床に崩れ落ちるような音が響いた。


「!?」


身をすくませるテレスタリアの耳に、呑気で軽い男の声が届く。


「こんばんわ、テレスタリアさん」


呆然と顔を上げたテレスタリアの視界に入ったのは、一人の青年——たきびだった。


「え……あ……?」


予期せぬ人物の登場に、テレスタリアの思考は完全にフリーズする。


「あれ?まさか僕のこと、もう忘れてます……?おーい、テレスタリアさーん?」


反応しない彼女に向けて叫ぶ俺に、脳内から容赦のないアカシャの突っ込みが飛んでくる。


『当然ですね。死線の恐怖と悲しみの中にいる令嬢が、一度会っただけの冴えない青年の顔を即座に思い出せるはずがありません。自信過剰ですよ、マスター』


言い方っ!


「ここは『たきびさん?どうしてここに!もしかして助けに来てくれたんですか!?』って盛り上がるところでしょ!?」


必死に自作自演のノリツッコミをする俺。


その滑稽な一人芝居を見て、テレスタリアの瞳にようやく光が戻ってきた。


「あ……たきび……さん……!?え、どうして……どうしてここに!?」


「あ、戻ってきてくれましたね!よかった〜」


ほっと息を吐きつつ、俺は格子越しにテレスタリアさんの顔の高さに合わせてしゃがんで話す。


「実は、ドーザさんから依頼を受けまして。あなたを守るために、忍び込んでいたんです」


「ドーザが……?」


「詳しい事情は後で。とにかく、今までの経緯を簡単に説明しますね」


俺はドーザさんが彼女の伯父であるという一番の重要機密を伏せたまま、これまでの経緯をざっくりと説明し始めた。



時間は少しだけ遡る。


たきびとクロードの激闘から一時間ほど経過した頃——


「失礼いたします。ハルティア様」


渋い声と同時にハルティアの執務室のドアが叩かれた。


デスクで書類を検分していたハルティアが、鬱陶しそうに顔を上げる。


「クロードか。入れ」


包帯と棒で右腕をガチガチに固定したクロードが入室した。


「……ふん、先ほど屋敷がやけに揺れたが、兵どもから聞いたぞ。お前が暴れていたそうだな」


たきびとクロードの戦闘後、異様な揺れと破壊音を聞きつけた数人の兵士とメイドが部屋に押し寄せてきた。


「何事ですか!?大丈夫ですか!?」


ドアの前で騒ぎになった際、クロードはドアを開けた。


そして至って涼しい顔で


「訓練で少し熱が入ってしまいまして。お騒がせしました。」


と頭を下げた。


部屋の中を覗き込んだ兵士たちは、クモの巣状に粉砕された石畳を見て顔面蒼白。


「く、訓練中でしたか!失礼しました〜!」


と脱兎のごとく退散していった。


「年甲斐もなく訓練などと…愚かな奴だ。部屋の修繕費はお前の給金から引いておくぞ」


「申し訳ございませんでした」


と一礼するクロード。


その言葉を聞くと、ハルティアは嗜虐的な笑みを浮かべて身を乗り出した。


「それで、例の書類の偽造はどうなった?手落ちはないだろうな?」


「はい。最終確認を残すのみで、ほぼ完了しております。こちらを」


クロードが左手で差し出した書類を引ったくるように奪うと、ハルティアは内容を目で追い、下種な笑みを深めた。


「よし……完璧だ!これならあの小娘と馬鹿な商会も完全に潰せる!クロード、すぐに審議官を呼べ!明日の午後に審議を行う!」


「承知いたしました」


「ハハハ!明日ですべてが終わる!この町は再び、この私のものだ!」


高笑いするハルティアの背後で、クロードは深く頭を下げながら、冷ややかな瞳で床を見つめていた。



牢屋の前で今までの経緯を説明を終えると、彼女は信じられないといった様子で口元を押さえた。


「……たきびさん、今まで影ながら動いてくれていたなんて…本当にありがとうございました……」


彼女は立ち上がり、深々とお辞儀をした。


「いえ、貰う物もしっかりドーザさんから貰ってますし。感謝ならドーザさんに」


彼女は微笑んだが、しかし、表情はすぐにまた陰りを見せた。


「ですが……ハルティア兄様の準備がそこまで整っているのなら、私は……やはり濡れ衣を着せられたまま処刑されてしまうのでは……」


待ち受ける最悪の未来に耐えかねて、テレスタリアの瞳からまた光が消えていく。


その時、地下通路の奥から複数の足音が近づいてくるのが聞こえた。


「……っと、誰か来ますね。テレスタリアさん」


俺は唇に人差し指を立てると、即座に『気配隠蔽』と『認識阻害』を発動した。


「えっ!?」


目の前から唐突に俺の姿が消え失せた事に、テレスタリアさんが目を見開く。


「そのまま、何も無かったようにして下さい」


そう伝えると、すぐに状況を察して視線を落とし、うずくまった。


現れたのは、ハルティア本人と二人の兵士だった。


「ん……?おい、これはどういうことだ!」


牢の前に倒れている見張りの兵士を見て、ハルティアが苛立ちを露わにし、倒れている兵士に蹴りをぶち込む。


「はひっ!?」


兵士は間抜けな声を上げて跳ね起きた。


おうっ!死体蹴りかよ!


俺も思わず声を上げそうになった。


もちろん寝ていたわけではなく、俺が忍び込む際にナイトロ・ゴーレムで一時的に意識を飛ばしていただけなのだが、当然兵士本人に記憶はない。


「も、申し訳ございません!」


「まったく、使えない奴だ!」


ハルティアは忌々しそうに吐き捨てたが、明日の勝利を確信して機嫌がいいのか、それ以上追及することはなかった。


檻の前に立ったハルティアは、中でうずくまるテレスタリアを見下ろし、邪悪な笑みを浮かべる。


「おい、テレスタリア。明日の午後に審議を行うことが決まったぞ」


テレスタリアがハッと顔を上げる。


「明日!?」


「ふはは!せいぜい最後の夜を楽しむがいい!お前が明日、どんな顔で絶望するのか今から楽しみだ!」


ハルティアは満足そうに高笑いを残し、兵士を引き連れて去っていった。


足音が遠ざかる地下牢で、気絶から覚めたばかりの見張りの兵士が


「はぁ……助かった……」


と大きく息をして胸を撫で下ろした瞬間。


ドサリ。


再び見張りの兵士が崩れ落ちた。


『マスター。何度も意図的に意識を飛ばされる門番の身にもなってあげて下さい。哀れすぎます』


いやいやアカシャ、彼はあんな上司の下でお疲れだろ?


だから一瞬で安らかな眠りを提供したんだよ。


むしろ感謝して欲しいくらいだね。


『減らず口だけは達者ですね』


スキルを解除して再び姿を現すと、テレスタリアは呆然としながらも、明日への不安で押し潰されそうな目をしていた。


「……テレスタリアさん。お腹、空いてません?」


「え……?」


緊張感のない俺の問いかけに、彼女が首をかしげる。


俺はインベントリから、包装袋に包まれた小さな塊を取り出した。


前世でキャンプ中に食べようと持ってきていた、おやつ用のクッキーだ。


ワラン様がこれもインベントリに入れてくれていた。


「これ、どうぞ。」


格子越しに手渡すと、彼女は今まで見た事も無い綺麗な袋と、中にある丸い何かに目を奪われていた。


「今すぐここから連れ出してあげられなくてごめんなさい。でも、もう少しの辛抱です。明日は胸を張って、毅然と振る舞ってください」


「ですが……」


「大丈夫。俺もドーザさんもいますから」


彼女は小さく頷く。


「そういえば、教育係っぽい、怖いお付きの…えーっと…」


クスっと笑いながら


「ノリアですね」


「そう!その人は?」


テレスタリアさんの顔が曇る。


「この屋敷に着いた時に別々にされたまま、会っていないのです。彼女はこういう場所で一人になった事はないので心配です…」


子供かよ!


あの人いつも主人に心配ばかりかけてるのな。


「時間があれば、探しておきますよ」


「本当ですか!何から何までありがとう存じます」


「それでは、明日」


正直、このまま一人、こんな場所に残して良いものかとも思うが…まだやる事もある。


後ろ髪を引かれるが、俺は微笑みかけると、『シフトチェンジ』を発動し、その場からかき消えた。


「あっ…」


残されたテレスタリアは、たきびがいた空間を寂しそうに見つめていた。


手に残ったクッキーの袋を開けると甘く香ばしいバターの香りが地下牢の埃っぽく湿った空気に広がった。


「いい匂い!」


その香りに誘われるままそっと一口。


サクッ、という心地よい音と共に、やさしい甘さが口いっぱいに広がる。


「……すごく美味しい……」


彼女の頬に、ほんのりと赤みが戻り、小さな希望の灯火が灯っていた。


翌朝。


久しぶりにテントでぐっすり眠れた……と言いたいところだったが、正直疲労を感じる。


原因は昨日の戦闘のせいではない。


アカシャだ。


昨夜、テントに戻った途端、アカシャによる怒涛の反省会が始まったのだ。


『マスター。クロード戦における初動の遅れ、および戦闘立案の甘さ、体術の粗さなどについて問題点を挙げます。まず第一に——』


延々と続くクロード戦のダメ出しと、今後の特訓メニューについての説教…


初の対人戦の勝利なんだから少しは褒めてくれてもいいじゃん!


と反抗したかったが、話が余計長引きそうだったので、はいはいと素直に聞いた。


はあ…どんだけ俺を強くしたいのよ…


それでも冷たい石畳の上で夜を明かすよりは、遥かにマシな睡眠をとることができた。


意図せず早起きしてしまった俺は、意気揚々とテントを片付け、まずはレーヴァ治癒院へと向かった。


「遅いぞたきび!待ちくたびれたぞ!」


「え!?」


治癒院の扉を開けるや否や、腕を組んだレーヴァさんが目の前にいた。


はっ?いつから待ってたの、この人!?


「いくぞ!」


俺はすぐに腕を捕まれ、奥のレーヴァさんの部屋に引きずられていった。

ご一読いただきありがとうございます。


面白い、続きが気になる! と思っていただけましたらブックマークや評価応援していただけると嬉しいです。


次回、第45話は【ウォーター・ナース誕生と嘘だらけの審議場】(※次の話の予定タイトル)を更新予定です。

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